134日目 魔系女子会
134日目
小石から恐怖の悲鳴が。とりあえずトイレに流しておいた。
ギルを起こして食堂へ。朝から元気よく腰に手を当ててミルクを飲んでいたら、ロザリィちゃんが『にゃ~ん……♪』ってすり寄ってきた。なんだか今日は甘えたい気分らしい。
とりあえず頭を撫でてみれば、『……可愛い使い魔にご飯はあげないの? ちょうどいいもの、もってるじゃん?』って上目づかいでおめめをぱちぱち。『わんわんっ!』ってそのまま俺のミルクを飲むって言うね。
しかも、あえて俺が口を付けたところから飲むからロザリィちゃんは侮れない。見ているこっちが照れてくる。『……“よくできました”のごほうび、まだ?』って頭をこてんって向けてくるところなんて、もう最高に可愛くて言葉が出てこない。
もちろん、愛情たっぷりにほおずりをする……というか、された。あと、『きゅーっ!』ってちゃっぴぃも頭突きしてきたので、ついでに撫でておいた。
俺たちがイチャイチャしている間も、ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。パレッタちゃんは『ヴィヴィディナでさえ朝からこの色欲は胸焼けする』ってしかめっ面。口直しと言わんばかりにミートパイを口いっぱいに頬張っていたっけ。
さて、朝餉も取った事だし、今日は何をしようかな……と思案していたところ、ロザリィちゃんが遠慮がちに俺の肩を突いていることに気付く。『じ、実はちょっとお願いがあって……』と若干もじもじ。さっきのあれも、甘えたい気分&お願いしたいことがあったからこその行動だったのだろう。
『実はね、女子会をしようと思ってるの。だから、その、お菓子とか用意してくれるとうれしいなって……』とのこと。なんでもピアナ先生がたまたまお高い紅茶を手に入れたらしく、せっかくだから女子だけでお茶会しましょうってことになったらしい。
俺的には全く問題なかったんだけど、通達された日取りがまさかの今日。ホントは昨日伝えるつもりだったのに、バイトの件があったからうっかり忘れてしまったらしい。
『ごめんね、ホントごめんね……! 今日の夜、いっぱい甘えさせてあげるから……!』ってロザリィちゃんは頻りにあやまってきた。別にそんなの気にしなくていいのに。
『そうでもしないとお前拗ねるじゃん』、『女子会ってことはお前マジで準備するだけだし』、『前科持ちが何言ってるんだよ』って男子連中に散々に言われたことをここに記しておこう。奴らは一体俺のことなんだと思っているのか。
お茶会という名の女子会はおやつの時間から始まるとのことだったので、午前中から早速仕込みに入る。お高い紅茶に合うもの……ってことで無難にスコーンを作ってみることに。なんだかんだでこっちでスコーンを作るのは初めて……いや、去年のお菓子パーティーの時に作ったっけ?
スコーン作りと並行してクッキー、ドーナッツも仕込んでいく。なんかもう見ているだけで口の中ぱっさぱさ。つまみ食いに来たポポルは図々しくも『ジュースもつけてよ』って文句言ってきた。
あ、小麦粉もミルクも在庫がだいぶ減ってきたので隙を見て補充しておくこと。卵についてはエッグ婦人が頑張ってくれているみたいなので問題なし。アルテアちゃんも最近は特に何も言っていないし、エッグ婦人の産卵ペースも正常に戻ったのだろうか。
甘いものを一通り仕込んだ後は一口でつまめる程度のサンドイッチも作っていく。やっぱり少しは塩気のあるものもあったほうが楽しめると思った次第。卵のやつとベーコンのやつの二種類だけだったけれど、まぁ量だけはそれなりに確保できたからいいか。
『ちいさいのなんてケチくさいことしないで、もっと思いっきり頬張れるデカいのにしてよ!』ってポポルは小さいサンドイッチを何個も口いっぱいに頬張りながら文句を言ってきた。つまみ食いしに来た分際であいつは何を言っているのだろうか。
あまり時間がなかったこともあり、結局準備できたのはクッキー、スコーン、ドーナッツ、一口サンドイッチのみ。量だけは確保できたとは言え、お茶会というよりかはむしろプチ宴会みたいな迫力になってしまった。
勝手な想像だけどさ、お茶会って言うとどうしてもオシャレで小ぢんまりした食器に豪華なお菓子がちょこんと乗っているだけ……ってイメージがあるんだよね。まぁ、俺のお茶会のイメージはミニリカの蔵書の挿絵でみたそれが全てなんだけど。
準備ができた&時間になったところで作ったそれらを外……グレイベル先生の愛用のハンモックが置かれているあのへんまでみんなでもっていく。午後のクソ暑い時間なのにわざわざ外でやるのかと不思議に思っていたら、『まってたよー!』ってピアナ先生とステラ先生が満面の笑みで手を振っているのを発見。おまけになぜか日傘を持ったアリア姐さんまでいた。
しかも、なんかすっげぇそれっぽいバラ園(?)ちっくなのが。貴族がひょっこり出てきそうなロイヤルな感じのガゼボ的なものも。マジで小説の挿絵のモデルになったんじゃないかって思うレベル。一体いつの間にこんなの出来たんだろう。
『せっかくだから本気のお茶会にしちゃおうと思って!』ってピアナ先生。朝から植物魔法を使ってこのいかにもな花園を作り上げたらしい。
『ご相伴にあずかりに来ちゃいました!』ってステラ先生。ピアナ先生からお茶会の話を聞き、付き合いでもらったはいいものの一緒に飲む友達がいないために棚の奥底に封印されていた秘蔵の紅茶を持ち出してきたのだとか。
「ステキな日傘があるんだもの、有効活用したくなっちゃうじゃない?」……とでも言わんばかりにアリア姐さんが日傘を肩に乗せてうっとり。例え魔物であろうとも、こういう女の子的な感性は人間と同じらしい。
『…整地も、椅子の準備も、なにもかもやらされた』、『ははっ……すごいだろこれ、作るの大変だったんだぜ……』ってグレイベル先生とジオルドが隅の方でいじけていた。大地魔法、具現魔法でこの女子の夢が溢れる空間を言われるがままに作っていたらしい。
……割とディティールにこだわっていたところを見るに、ジオルドはあれで結構楽しんでいたと思う。あるいは、アリア姐さんのために頑張ったのか。
お菓子を届けた後は撤収。女子たちがきゃあきゃあと嬉しそうに話す声だけが後ろから聞こえた。『……これで、モテると思ったんだけどな』ってジオルドはしょんぼり。
いや、マジでお菓子を届けただけで終わったね。いくら俺でも、さすがにあの女子の空気の中に居座り続けることは無理だ。グレイベル先生も煤けた背中で準備室の方へ去っていったと言えば、どれだけあそこに女の子オーラが漂っていたのかわかってもらえると思う。
なんだかんだでロザリィちゃんたちが帰ってきたのは俺たちが夕餉を食べ終えたころ。『いっぱいおしゃべり出来て楽しかったーっ!』とのこと。夕方になって薄暗くなった後も、ステラ先生が幻想的な明かりの魔法を、ピアナ先生が植物魔法で夢灯鈴蘭を咲かせたために、逆に雰囲気が良くなって止まらなくなってしまったのだとか。
『お菓子は足りた?』と聞いてみれば、『……今おなか触られたら、だいぶはずかしいかも』って言われた。さらにさらに、『甘えさせてあげるって約束したけど……おなか触るのと膝枕してあげるの、どっちがいい?』とまで言われてしまう。
挑戦的に、見せつけるように自らのおなかをぽんぽんと叩くロザリィちゃん。さすがの俺も、ロザリィちゃんのおなかを触るのは初めて。しかしながら、膝枕という言葉はあまりにも抗いがたき魅力を持っている。
うんうんと悩んでいたら、『時間切れっ!』って口で口を塞がれた。『ゆーじゅーふだんな人はモテないぞぉ?』ってほっぺをむにむにまでされた。止めとばかりに、『今はまだ、撫ででいいのはほっぺか頭だけっ!』ってぎゅって抱き付かれてほおずりまでされた。
幸せのトリプルストライクに気絶しそう。ロザリィちゃんの吐息がすごくお菓子で、なんか普通にお菓子食べてる気分。最高に幸せ過ぎて他に何があったか全部忘れちゃうレベル。
夕飯食って……じゃない、イチャイチャして風呂入ってイチャイチャしながら雑談して今に至る。アルテアちゃんもミーシャちゃんもパレッタちゃんもお茶会を存分に楽しめたらしい……というか、女子の大半が機嫌がよかったのを覚えている。
一方で男子の大半は言葉にできないもやもやを抱えているようで、『女子ばっかりズルい』、『飲み食いなんて出来なくてもよかったから、せめて同じ空気を吸いたかった』と言っている奴らがチラホラ。同じ場所に居たら居たで居た堪れなくなる気持ちになっていたと思うけど。
ギルは今日も健やかにクソうるさいイビキをかいている。そして俺のベッドにちゃっぴぃが潜りこんできた。こいつもやっぱり存分に飲み食いしてきたのか、おなかが見事なまでにぽんぽんでまんまる。触ってみたら張りと柔らかさが見事に両立していてが心地よい。なんだかずっと撫でていたくなってきた。この感じ、ちょっとクセになりそう。
ギルの鼻には……スコーンの欠片でも詰めておくか。おやすみなさい。