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132日目 ヒモクズ☆ジョギング

132日目


 枕元にチョコチップクッキーの食べかすが落ちてるんだけど。どういうことなの?


 ギルを起こ……そうとしたところで、隣の部屋がなにやらどったんばったんと騒がしいことに気付く。念のため杖を持って出向いてみれば、『ええい、とっとと準備しろッ!』って激昂した竜王みたいな表情になっているアルテアちゃんを発見。


 それもいつものローブ姿じゃなくて、ジョギング用のスポーティなスタイル。いつぞやの風呂掃除の時と同じように、太ももをさらけ出している。


 やはりというか、クズ過ぎるフィルラドの生活習慣を改めるために半ば強制的にジョギングに誘ったらしい。が、肝心のフィルラドはクズだから、こうして時間になっても惰眠を貪っているのだとか。本来関係ないはずのポポルの方がしっかり目覚めていたと言えば、どれだけフィルラドがクズなのかわかってもらえると思う。


 アルテアちゃんがどんなに揺さぶったり、タオルケットをひっぺがしてもフィルラドはおねむ。『もうちょっとだけ……』ってしまいにはアルテアちゃんをベッドに引きこみ(?)、抱き枕にしだした。『こ、こンの……!』ってアルテアちゃん真っ赤だったけど、あれはどっちの意味で真っ赤だったんだろ?


 あと、引き込まれる瞬間にアルテアちゃんは『きゃあっ!?』って悲鳴を上げていた。なんかいろんな意味で意外だった。


 さて、激昂したアルテアちゃんは文字通りマウントポジションを取り、フィルラドの胸ぐらをつかんで揺さぶっていたんだけど、やっぱりあいつはおねむで心地よさそうにスヤスヤ。あまりにも不憫だったので、『それよりも、生足で踏みつければ一発で目覚めると思うよ』ってアドヴァイス。『……えっ』ってアルテアちゃんは信じられないって顔。


 アルテアちゃんが『そんなバカな……』って半信半疑でフィルラドの生腹を生足で踏みつけると、『──ッ!?』ってフィルラドは一瞬で覚醒。『朝からアティと戯れられるなんて、今日はツいてるかも』ってにっこり笑顔。


 腹を生足で踏まれて笑顔なあいつもヤバいし、なんかかーって赤くなるアルテアちゃんもだいぶヤバいと思った。気高きアルテアちゃんのくせに最近なんだか妙にチョロくないだろうか。『いちゃつくならよそでやってよ……これ以上ヤバいの増やさないでくれよ……』ってポポルもぼやいていた。


 ともあれ、準備が整ったところでジョギング。アルテアちゃん、フィルラドはもちろん、なぜか俺、ポポル、ロザリィちゃん、ちゃっぴぃまでもが一緒。


 『その、最近飲み会が多かったし……そろそろ水着のための対策をしないとなって』とはロザリィちゃん。水着を着る予定があることに全俺が歓喜の大歓声を上げた。


 ちゃっぴぃ? あいつはただ単に暇だったからだろう。ジョギングの意味もよくわかっていないようで、『きゅーっ!』って一人でぱたぱた飛んでいたっけ。


 ある意味当然だけど、ジョギングは特に問題なく進む。今回もやっぱり湖のところまでっていういつものコース。普段から運動している俺やアルテアちゃん、ギルには若干物足りないかなってくらいで、ロザリィちゃんやポポルだとだいぶ息が上がり、ヒモクズフィルラドはぜえぜえになる絶妙な距離ね。


 あともう少しで湖かなってところまで走ったところ、唐突にアルテアちゃんがペースダウン。そのままロザリィちゃんの横に並ぶ。で、ロザリィちゃんに『もっとペースを落として。具体的には、この集団の最後尾になるまで』と告げる。


 『……不埒な視線が多くなってくるから。冗談抜きに』ってアルテアちゃんはこっちを睨みながら言ってきた。俺ってば組長として全体を見守るために最後尾にいただけなのに。冒険者の隊列的にも、近距離戦を行える人、あるいはリーダーを最後尾にするのは常識なのに。


 一応弁明のために書いておこう。あのときの隊列はギル、アルテアちゃん、フィルラド、ポポル、ロザリィちゃん、俺という順番だった。フィルラドはアルテアちゃんのすぐ後ろにぴったりで、男の俺から見てもドン引きするくらいうなじや脚線美や弾ける太ももやその他フィルラド好みの諸々の場所をガン見していたことを記しておく。息があがってハァハァしてたから余計に絵面はひどかった。


 俺? ロザリィちゃんしか見てなかったけど? 途中で『……ばればれだぞっ!』ってどーん! って肩で体当たりされちゃったっけ。ロザリィちゃんの髪がふわって顔にかかって、おまけにめっちゃいい匂いがしてマジで理性が飛びそうになったよ。


 湖でちょっと休憩。水を飲みつつ、アルテアちゃん秘蔵のチョコレートを頂く。『チョコレートだと走った意味がちょっとアレだけど、携帯食料だとぱっさぱさで食べられたものじゃない』ってアルテアちゃんはぼやいていた。


 正直運動した直後にあんなにも甘いものを食べるのもどうかなって思ったけど、アルテアちゃん、ロザリィちゃん、ちゃっぴぃは美味しそうに食べていた。運動した後の甘味は格別らしい。


 ギルは『うめえうめえ!』って補給用のジャガイモを食っていたよ。半裸でテカりながら食ってるものだから、ものすごく暑苦しくてむさ苦しかったっけ。


 休憩の後は学校に向かってジョギング。『俺もう疲れたからお前の筋トレ手伝ってやるよ』ってポポルはギルの背中にひっついた。相変わらずギルの背中が好きらしい。あいつホントおこちゃまだと思う。ギルは『ちょうどいい錘だな!』って嬉しそうだったけど。


 『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃも俺の背中に引っ付いてきた。あいつ飛んでたから全然疲れていないはずなのに。子供をおぶさりながらジョギングとか鬼畜の所業。


 『お、俺もちょっと甘えたいな……?』って汗ダラダラ&息ハァハァのフィルラドがアルテアちゃんに懇願。『頼む。アティの後ろを走らせてくれれば、俺はどこまででも走ることが出来る』なんでふざけたお願いも。


 当然のごとく、『私が後ろからケツを叩けばいいって? わかった、やってやるよ』ってアルテアちゃんはキレていた。


 なんだかんだで行きと変わらないペースで学校に戻ることが出来た。後半はフィルラドのリクエストに応えてあげるあたり、アルテアちゃんは優しい……というか、満更でもないのかもしれない。女の子の考えることってやっぱりよくわからねえや。


 あと、風呂に汗を流しに行く前に、ロザリィちゃんが『ごほうびちょうだいっ!』って思いっきり抱き付いてきた。めっちゃすーはーすーはーくんかくんかしてきた。いつもより明らかに時間が長いし、なんか深呼吸してさえいる。めっちゃこそばゆい。


 『……俺もやっていい?』って抱きしめながら囁いてみる。『ぜぜぜ、ぜったいダメっ!』ってロザリィちゃんちょうまっかっか。『あ、汗臭いし、そうじゃなくてもすっごくはずかしいっ!』とのこと。ちょっと残念。


 ……まあ、ロザリィちゃんはすーはーすーはーしなくても普段から良い匂いを放っているし、一緒にいるだけで幸せな気分にさせてくれる。それ以上を望むのは強欲というものか。


 あと、そんなことを言いながらもロザリィちゃんはすーはーすーはーくんかくんかは止めなかった。さすがはロザリィちゃんだと思った。


 朝風呂から上がった後は軽く朝餉を取り、そしてクラスルームでゆったり。運動したからか、はたまた風呂に入ったからか、ともかくなんだかとっても清々しい気分。お日様の光さえ心地よく、窓から吹き抜ける風がとても爽やか。


 ジオルド特製の日傘でひなたぼっこしているアリア姐さんをぼんやりと見ていたところ、「みー」って聞き覚えのある鳴き声が。どこから入り込んだのか、いつぞやのにゃんこがアリア姐さんの足元に駆け寄っていた。


 「あら、一緒に水浴びする?」と言わんばかりに、アリア姐さんはにゃんこを抱っこ。『クソ暑いもんなぁ……』ってジオルドはにゃんこともどもアリア姐さんにじょうろ(ピアナ先生から借りているぞうさん型のやつ)で水をぶっかける。


 その光景を見ていた男子の大半が、『ねこになりたい』って言っていた。気持ちはよくわかる。


 水浴び後、クーラスがタオルを持ちだして『ほら、拭いてやるからこっちこい』ってにゃんこを誘う。が、にゃんこは「み!」ってそっぽを向くばかり。


 俺がチッチッて舌を鳴らしても反応せず。クーラスには頭を撫でさせたのに、相も変わらず俺には触れられたくないらしい。


 しかもしかも、にゃんこはクーラスのタオルを口でしっかりくわえると、そのままずるずるとそれを引きずって……


 「みゃー……」ってスクワットするギルの元へと持って行った。マジかよ。


 『なんだぁ、お前も筋トレに興味あるのか?』ってギルは笑顔。どうして汗を流したばかりなのにスクワットなんてしているのかって思ったけど、ギルならしょうがないか。


 『拭いてほしいんだろ』って動物に好かれやすいフィルラドがアドヴァイス。『逆にそれ以外の選択肢なくね?』って動物に舐められやすいために結果的に好かれやすくなっているポポルがアドヴァイス。『いいからとっとと拭いてやるべし。漢気見せるべし』ってパレッタちゃんもアドヴァイス。


 『しょうがねーなぁ!』ってギルはにゃんこの体を拭いてあげていた。「みゃーっ!?」ってにゃんこは叫んでいた。そりゃまぁ、あいつのバカ力であんなにわしわしやられたら泣叫びたくもなるだろう。


 最終的に、にゃんこはぴすぴす鼻を鳴らしながらロザリィちゃんの元へ。『ギルくんってば、女の子はデリケートなんだから、もっと優しく扱わなきゃだめだよー』ってロザリィちゃんはにゃんこを優しく拭いてあげていた。


 拭かれているうちに気持ちよくなったのか、にゃんこはロザリィちゃんの膝の上でごろごろと喉を鳴らしだした。俺もロザリィちゃんの膝の上でごろごろしたかった。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんだかんだで今日は一日ゆったりしていたっけ。あ、にゃんこは昼過ぎくらいにはどこかに消えていったけれど……この学校の敷地内に住み着いているのだろうか? まぁ、エサに困ることはなさそうだし、下手に自然の中で生きるよりかは遥かに安全……なのか?


 困ったことが一つだけ。雑談中ににゃんこの話題になったんだけど、にゃんこを見逃してしまったミーシャちゃんが『見たかった……すっごくすっごく見たかったの……ッ!』って歯をずっとギリギリしていた。


 『ウチの子にできなくてもいい……ッ! せめて撫でたかったの……ッ!』ってパレッタちゃん好みの顔で呪詛を呟いていたと言えば、どれだけ悔しがっていたのかわかってもらえると思う。


 当然のごとく、ミーシャちゃんはギルににゃんこのことを聞きまくっていた。『ね、ね、どんなだったの? 可愛かったの?』、『ふかふかだったの? 感想言ってほしいの!』、『ねぇ……あたしたちもそろそろ、使い魔がいていい頃だと思うの……』などなど、いろいろと拗らせていたことを記しておこう。


 ギルは『筋トレの錘に最高だったぜ!』ってちょう笑顔で答えていた。『んもうっ! んもうっ!』ってミーシャちゃんは半ベソかきながらやつの背中を叩いていたっけ。


 ギルは今日も腹だしてクソうるさいイビキをかいている。『ハニーもよくわかんないよな……リチャードやチャールズだって立派な使い魔なのに……魅力が伝わってないのか?』と、寝る間際までトンチンカンなことを言っていたのを覚えている。なんであいつはあの流れで蟲を使い魔と言い張れるのだろうか。


 というか、リチャードもチャールズもすでにいない。かなり前に代替わりしたのもそうだし、こないだアルテアちゃんが接着剤にするときに残っていたやつ(繁殖して増えたやつ)の大半をすり潰して使っている。俺が確認したから間違いない。ホントは俺が接着剤にしたかったのになぁ。


 元々見分けがついていなかったし、虫篭から消えていることにも気づいていない。ギルが使い魔(虫)に向ける愛情なんてそんなもんだ。


 だからこそ、ミーシャちゃんは頑なに虫を使い魔として認めないのだろう。もしギルが俺のグルーみたいに虫に愛情を注いでいたのなら、ミーシャちゃんが虫を使い魔として認めることもあったかもしれない。まぁ、単純に虫はなんか違うっていう理由は大いにあるだろうけれど。


 ギルの鼻にはジョギングの時にちゃっぴぃが拾った小石を詰めておく。あの野郎、あまりにまん丸だからって面白がって拾ったのはいいんだけど、戻ってきてからいらなくなったのか、俺に押し付けてきたんだよね。グッナイ。

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