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13日目 発展触媒反応学:ねじり魔応力とねじり魔角について

13日目


 なんで俺のパンツがぐっしょり濡れてるの?


 起きてすぐさまパンツを変える羽目に。念のため書いておくけど、別に漏らしたわけじゃあない。リア&ちゃっぴぃのおねしょ処理を何度もこなしている俺が言うのだから間違いない。いいか、マジで漏らしたわけじゃないんだ。


 しかし、傍から見ればかなり不名誉なそれに見えてしまうのは事実。パンツが満遍なく濡れていることに気付けばその疑惑も晴れるだろうけど、クラスの連中はきっとここぞとばかりにあげつらってくるはずだ。


 そんなわけで、自分でパンツを洗濯(汚れてはいないけど、そもそもどんな液体で濡れているのかわからなかったため)した後に干す場所を探す。部屋にはギルがいるし、洗濯籠に入れたらまず間違いなく余計な詮索をされるためである。


 が、珍しく早起きしてトイレに向かっていたフィルラドと鉢合わせる。奴がこっちに気付いた瞬間に吸収魔法をぶち込んだ。あぶねえ。


 しかし、物音に気付いたのかみんながこっちにやってきてしまった。されどクールな俺は『おい、大丈夫かっ!』って今まさに駆け付けた体を装う。どさくさに紛れて追跡草から吸収した魔力を核に魔法体を構築し、追跡草そっくりの謎の人影を作成。で、『曲者め!』と、窓の外に構築したそいつに自ら突っ込んだ。


 もちろん、外に出たところで魔法を使う。おもっくそ派手な水魔法。俺ってばびしょぬれ。水も滴るいい男。


 『相打ちだった……たぶん、追跡草がギル要素に浸食されて生まれた化け物だろう……』ってみんなには証言する。偶然にもフィルラドの体に魔力が吸収された痕跡があったことから、みんなすんなりと俺の話を信じてくれた。俺の人柄の良さを証明した瞬間だ。


 そんなわけで、朝食を取ったのはちょっとだけ遅め。冷えた体を温めるためにコーヒーを飲んだ。『おいしくなぁれ♪』ってロザリィちゃんがミルクと砂糖を絶妙な配分で入れてくれて最高に幸せ。なんであの子あんなに可愛いんだろう。


 ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモの大皿を貪っていた。目覚めたフィルラドに『ぶっ倒れたんだろ? ならジャガイモ食って元気つけようぜ!』って蒸かしたての熱々ジャガイモを勧めていた。フィルラドの奴、『……なんかすっごく腑に落ちないんだけど』ってジャガイモを齧りながらずっと俺のことを見ていた。


 どうやら少し記憶があるらしい。やはり、もう少し強く魔法を打ち込んでおくべきだった。俺も甘ちゃんになったもんだ。


 さて、今日の授業はキート先生の発展触媒反応学。朝からルマルマに化け物が徘徊していたという話を聞いて、『まぁ、そういうこともありますよね。この学校、予算がしょっぱいからその辺のアレもザルなんですよ』って事もなげに言っていた。そのせいでちょくちょく先生たち(若手)が駆り出されてしまうらしい。そういえば、去年もグレイベル先生がちょくちょくトイレの水道管周りの見回りをしていたような?


 内容は魔法陣のねじり……正確に言えばねじり魔応力とねじれ魔角についての諸々。ねじりそのものは去年の触媒反応学でヨキが語っていたけど、今回のはさらにそれを深く追及した感じ。


 とりあえず、『まずは定義からきちんと確認しましょうか』ってキート先生が板書したものを書いておく。これだけでもう、いかにキート先生とヨキとで授業の丁寧さに違いがあるのか歴然だ。



・ねじり

 ねじりの問題は魔法陣の横断面形状、および裂界方向からの魔深など、取り扱う方向や場所によって扱い方が異なる。最も一般的な円形魔法陣の場合は、実験的に妥当性が確かめられている以下の仮定を用いる。


(1)横断面はねじり変形を生じても平面を保ち、横断面上の噛深は変形後でも直線的であり、その中心位置も変化しない。


(2)垂直な二つの断面上の噛深のねじりによる相対的回転魔角は、ファンクションパターンにおける軸の太さが一様な場合、二つの断面間の距離に比例する。


 円形以外の断面を持つ魔法陣では仮定(1)が成り立たず、ねじり変形によって横断面が曲面になるため、魔法解析を行う際は魔法弾性学に基づく解析結果を公式として用いることで、問題解決のためのアプローチをすることになる。


・ねじりサークリア

 真直軸の二つの横断面を相対的に回転させる力そのもの。特に連結魔法陣においては、その伝達魔力を指すことが多い。


・ねじり魔応力

 ねじりサークリアにより魔法陣横断面に生じる裂界魔応力。


・ねじれ魔角

 ある一定の長さだけ離れた二つの魔法陣横断面の相対的な回転魔角。あくまで相対的な量であるため、単位は無い(無次元量)。


・比ねじれ魔角

 単位長さ当たりのねじれ魔角。



 大雑把にこんなもん。他にも細々とした公式とかは書いたけど、単語の確認はこれだけのはず。去年のヨキの授業と比較するとずいぶん丁寧になっていることが伺える。二年次の授業だからより詳しく……ってのはあるだろうけど、そいつにしたってこの差はひでえ。


 『いろいろとごちゃごちゃと言いましたが、結局やっていることは一緒です。与えられた問題に対し、どうアプローチしていくのか……我々はその手法を教えているだけにすぎません。覚えたやり方をどう使っていくのか、あるいは解決のためにはどんな方法を使うべきなのか……そういった選択肢を増やすための授業だと思ってください』ってキート先生は言っていた。


 『……最終的に、解決できればなんでもいいってみんな悟るんですけどね』ってどこか遠いところを見ながら呟いていたけど、先生の過去にいったい何があったのだろう。この学校の人たち、ときおりこんな表情をするから怖い。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。授業が難しくなってきたからか、ポポルもミーシャちゃんも授業内容はあんまり理解していないっぽい。雑談中は二人してギルの背中によじ登って遊んでいたし、今期は少し早めにテスト勉強を始めたほうがいいかもしれない。


 あと、『朝は大変だったな……今日だけの、特別だ』ってあの気高きアルテアちゃんがフィルラドに膝枕してあげていた。かなりレアなシーン。フィルラドは真っ赤になっており、『また明日も化け物来てくれねえかなあ……!』ってだらしない顔でつぶやいていた。


 いつもならここで『バカなこと言ってるんじゃない』ってアルテアちゃんの顔面ケツビンタが飛んでくるんだけど、『ずいぶん仲良しさんになったんだねえ~?』、『あら、意外と可愛いところ、あるじゃない?』って囃したてられていたため、アルテアちゃんは真っ赤になって動けず。うっとりしていたフィルラドはその表情を見逃していた。


 だいたいこんなもんだろう。あ、寝る間際、ロザリィちゃんが『……いけない子♪』って耳元で囁いて来てめっちゃゾクってした。甘い息が首筋にかかってすごくくすぐったい。魔性の花なロザリィちゃんもホントプリティで俺もうどうにかなりそう。


 ただ、『ちゃあんと寝る前におトイレにいこうね? ……な、なんなら一緒についてったげようか?』って真っ赤になりながら言われたのが気にかかる。もしかしたらロザリィちゃんってば、変な勘違いしていないだろうか。


 ギルは今日も大きなイビキを書いている。そして、『きゅうん?』と、まるで出来の悪い弟の面倒を見てやると言わんばかりにちゃっぴぃが俺のベッドに入ってきた。ちゃっぴぃのくせに俺のお漏らしの心配をするとかどうなってんだろうか。とりあえず、一晩抱き枕の刑に処することにする。


 ギルの鼻にはフィルラドの髪の毛でも詰めておこう。あいつの望み通り化け物が生まれたとしても、俺の知ったこっちゃない。


 ……なんか魔法を使いたい気分になったから、ちゃっぴぃに俺オリジナル守護魔法の実験体になってもらうことにする。使い魔として当然の扱い。いい夢見ろよ。

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