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127日目 リーフスコーチ

127日目


 エビの尾っぽが消えている。どこにいったんだろう?


 昨日が遅かったからか、起きたのはいつもよりだいぶ遅め。太陽の傾き具合を見るに、いつもなら朝飯を取り終えてゆったりしている時間。そんな時間になっても未だにぐうすかと寝こけているギルにある種の感動さえ覚えた。


 ギルを起こした後は朝風呂へ……行こうとクラスルームに立ち寄ったところ、ロッキングチェアに揺られてゆったりしていたアルテアちゃんが『うっ……!』って俺を見て盛大に顔をしかめた。


 ついでに、『きゅーっ♪』って駆け寄ってきたちゃっぴぃが寸前で立ち止まり、『うぇ……っ』って変な声を発して泣きそうな顔に。そのままそそくさとロフトに逃げてった。


 『なんかあった?』……って声を発してみて初めて気づく。喉が酒で焼けてすんげえガラガラ。俺の美声がおとぎ話に出てくる悪い魔法使いみたいになっている。マジ悲しい。


 『さすがに気づいているだろうけど、酒臭さが凄まじいぞ』とはアルテアちゃん。『生きてるのが不思議に思うレベル。どんだけ飲まされたんだ?』とはクーラス。おこちゃまポポルでさえ、『飲み会の匂いがぷんぷんしてる』ってしかめっ面。俺どんだけヤバい匂いしてたんだろ?


 ともあれ、ギルを伴い朝風呂へ。朝風呂フェスティバルを開催中、何気なくギルに『そんなに俺酒臭かった?』って聞いてみれば、『……親友はいつだって親友だぜ!』って肩を叩かれた。肩がもげるかと思った。


 朝風呂に入ってさっぱりしたからか、その後は特に問題なし。風呂上がりにロザリィちゃんが『朝風呂入ったなぁ……? これはもう、誘ってるってことだよねぇ……?』って思いっきり抱き付いてすーはーすーはーくんかくんかしてきたくらい。


 『昨日の夜、酒臭くなかった?』って聞いてみれば、『……悪くはないけど、たまにでいいかな』とのこと。匂いフェチなロザリィちゃんがここまで言葉を濁すということは、きっと相当ひどかったのだろう。今度から気を付けないと。


 さて、昨日一昨日と暴飲暴食をしたわけだし、今日くらいはゆっくり過ごすべや……なんて思っていたところ、『おい、どうしたんだ!?』ってジオルドの悲鳴が。慌ててそっちを振り向いてみれば、ぐたっとしたアリア姐さんがジオルドに抱きかかえられていた。


 『とにかく水だ!』ってことでクラス一同全力でアリア姐さんに水をぶっかける。が、アリア姐さんはくたっとしたまま動かない。苦しそうにはぁはぁ息をするばかり。いつもなら色気たっぷりに余裕そうなポーズをするのに。


 ここで、アリア姐さんの脚、腕、脇、頭……まぁ、言葉にするとちょっとアレだけれど、アリア姐さんの体を弄って異常を確認していたジオルドがハッと何かに気付く。


 『こいつ……なんか肌が焼け爛れている!』とのこと。マジかよって思った。


 ジオルドのこの発言により、事態は一気に深刻になる。俺たちの手には負えないと判断し、この手のことに詳しそうなグレイベル先生の所へ赴くことに。アリア姐さんはジオルドがおんぶし、俺、アルテアちゃん、ギルで準備室に突撃。


 『…頭が痛ェ……』ってグレイベル先生はぐたっとしていたけれども、俺たちの血相を変えた顔を見て瞬時に覚醒。『…ピアナ先生連れて来い。ステラ先生の部屋にいるはずだ』ってアルテアちゃんに指示を飛ばし、そしてアリア姐さんを診察し始めた。


 『肌が、明らかに爛れているんです……!』ってジオルドは泣きそうな顔。『…本当だ、けっこう酷いな』ってグレイベル先生は淡々と事実だけを告げる。


 ややあってから、結論付けた。


 『…………葉焼けだな』とのこと。葉焼けってなんだろう。


 『…葉焼けとは文字通り、あまりに強すぎる直射日光によって葉っぱが焼けて変色することを指す。イメージとしては、人間が日焼けするのと変わらない。しかし葉っぱの場合は人間と違って葉焼けを起こすと再生せず、その葉はダメになってしまう。…アビス・ハグと言えど植物であることに変わりはない。当然、ダメージだって負う』ってグレイベル先生は解説してくれた。


 魔物や動物としての症状というよりかは、純粋な植物としての症状らしい。一般的などんな植物にも起こり得るものだって言ってた。


 『…無論、基本的に多くの植物は日差し、高めの温度、それなりの湿度を好む。低温で乾燥する冬よりかは夏の方が適しているのは事実。しかし、ここ最近はあまりにも日差しが強すぎた』とグレイベル先生の解説は続く。


 言われてみれば、ここ最近はかなり暑く、雲一つない晴天が続いていた。アリア姐さんはいつも通りに日光浴……いや、少し前から元気無さそうにしていたっけ。


 そんな話をしていたところ、ピアナ先生が到着。道すがらアルテアちゃんからアリア姐さんの症状を聞いたのか、『葉焼け?』って開口一番にグレイベル先生に聞いてきた。グレイベル先生が無言で頷けば、『ちょうどいい塗り薬が棚の方に……』ってんーって背伸び。グレイベル先生がそのまま普通に取った。


 『塗り方教えるから、見ててね?』ってピアナ先生はぐったりしているアリア姐さんに件の塗り薬を塗っていく。焼けてしまったところを重点的に、全体的に満遍なく。ものそのものは人間の日焼け止めと似ているらしく、見た目は普通のサンオイルっぽい。清涼的な香辛料っぽいすーっとした香りが特徴的だった。


 『あと、こーゆーところも忘れないように……』ってピアナ先生はアリア姐さんの胸の下、わきの下、首元、足の付け根、おみ足なんかにも薬を塗りこんでいく。なんだか見ちゃいけないものを見ているかのようでちょっぴりドキドキ。『とりあえずお前らは後ろ向いてろ』って俺とギルだけがなぜかアルテアちゃんに後ろを向かされた。ちょっと理不尽。


 そんなこんなをしているうちにアリア姐さんが目覚めたらしい。俺たちが振り向いたときはもう、『お前……っ! なんでこんなになるまで黙ってたんだよ……っ!』ってジオルドが全力でアリア姐さんを抱きしめていた。いつもは余裕たっぷりで妖艶なアリア姐さんも、突然の不意打ちに「あ、あら、うそ、ちょっと心の準備が……!」と言わんばかりに身をくねらせていたっけ。


 とりあえずその場はそんな感じで落ち着く。今回はあくまで対症療法であり、根本的な対処方法ではないから注意しろってことだけ通達された。『お日様を浴びなきゃいけないのは植物の宿命だからねー……。日光浴の時間を減らしたり、正午過ぎとかお日様が強くなる時間をずらして日光浴するしかないかな?』ってピアナ先生が言っていた。


 あと、『…塗り薬は朝晩必ず欠かさずやれ。症状が落ち着いても、一週間は続けろ』とのこと。『…面倒かもしれんが、役得だろ?』ってグレイベル先生はジオルドの肩を優しく叩く。「よろしくね、ダーリン♪」とばかりにアリア姐さんはそのおみ足をジオルドに見せつけていたっけ。

 

 『塗るのは別に構わない。なんだかんだ言っても俺の使い魔だし、やらないという選択肢は考えてすらいなかった。……でも、いい加減他の男子の視線が怖い。最近は特に』ってジオルドは言っていた。もしアリア姐さんがクーラスの使い魔だったら同じことをしただろうに、こいつは一体何を言っているのだろうか。


 診察後はクラスルームに戻る。アリア姐さんはジオルドがおんぶして……って言いたいところだけど、塗り薬でテカって上手くおんぶすることが出来なかったため、ギルがおんぶしていた。「あの子たちが無駄に登りたがる気持ち、ちょっとわかるような?」とでも言わんばかりに、アリア姐さんはギルにしがみついていた。


 クラスルームに戻り、アリア姐さんの現状をみんなに伝えた後は早速対策本部を設置することに。薬がもらえたと言えど、根本を正さなきゃ結局まだぶり返すだけである。


 『すまないが、力を貸してくれ……!』って頭を下げるジオルドを見て、アルテアちゃんが『おう、あの姿よく目に焼き付けとけよ』ってフィルラドのケツを叩いていた。


 肝心の対策会議だけれども、なんだかんだで『日傘を作ればよくね?』って結論に落ち着く。日傘なら持ち運びも便利だし、取り回しも簡単。日傘を使う植物なんて聞いたことが無いけれど、【魔法光ランプを作ってその光で日光浴してもらう】、【ルマルマ寮に閉じ込めて一生そこで暮らしてもらう】、【ヴィヴィディナカーテンを展開する】、【筋肉を鍛えて葉焼けに負けない体を作る】……といった他の意見よりかは現実的だろう。


 ただ、それにあたって問題となることが一つ。日傘を作ると言っても、俺たちは魔系だ。ただの日傘を作るなんてあまりにもつまらないし、どうせなら日傘にいろいろドッキリびっくり機能を付けて最強にしてみたい。


 そんなわけで材料集めの段取り。いろいろ諸々省くけれども、



製作・設計    :ジオルド

傘地(生地)   :フィルラド、パレッタちゃん

骨(フレーム)  :ギル、クーラス

石突き・持ち手等 :ポポル、俺

仕上げ材等    :アルテアちゃん、(俺)

装飾品      :ロザリィちゃん、ミーシャちゃん



 ……ってことになった。


 生地に関しては適当に魔物のそれを調達する感じ。蟲の魔物が紡ぐ糸でもいいし、あるいは魔法繊維でもいい。この辺はけっこう幅が広いから調達に困ることはないだろう。魔法生物に好かれるフィルラドや蟲に詳しいパレッタちゃんが適任と言える。


 傘のフレームも軽い木材か、適当な魔法材料……一番無難なところで鳥の魔物の骨ってところ。もう丈夫で軽ければ何でもいい感じがある。いずれにせよ、それなりに頭も力も使いそうなので、ギルと俺の次にギルを使えるクーラスが担当になった。


 石突き・持ち手に関してはオシャレな木材か魔法鉱石が良いだろう。石突きは特に丈夫に作らなきゃだし、鋭く頑丈にすれば武器にもなる。やっぱ隠し武器って男のロマンだし、ロマンのわかる俺とポポルが担当することに。


 仕上げ材……撥水加工用の薬品や染料なんかはアルテアちゃんに任せることに。調合なんかは俺も手伝うつもりだけれど、このメンツじゃ何気にアルテアちゃんが俺の次にこの手の薬剤に詳しいから必然的にそうなった。


 装飾品については語るまでも無い。ロザリィちゃんとミーシャちゃんのセンスを俺は信じている。


 さしあたって材料収集&役割分担についてはこんなもんだけど、最終的なデザインや設計についてはジオルドの手にかかっている。俺たちは俺たちが出来る範囲で奴に協力するだけであって、最後の決定はジオルドがするのだ。いったいどんな仕上がりになるのか、ちょっと楽しみ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。明日はポポルと一緒に鉱山へ赴く。何気に鉱山へ行くのって初めてだったりする。一年の時から行こう行こうと思っていたけれど、なんだかんだで機会がなかったんだよね。


 ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。俺もさっさと寝てしまおう。鼻には……ジオルドの服についていたアリア姐さんの塗り薬を入れておく。『こびりついちゃったから応急処置頼む』って服ごともらい受けちゃったんだよね。まったく、すごい宿屋のプライドを捨てられない自分がおそろしいぜ。みすやお。

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