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ありがとうあがりとうあとがりうありが

 前日は二回更新しています。123日目の日記を確認していない場合はそちらからお読みください。

124日目



 【あ り が と う !】



 クソが。舐めやがって。今日中にブチのめしてやる。





 ふう。だいぶ大変な一日だった。うすうす思っていたけれど、やっぱりこの日記はだいぶヤバい代物と化しているらしい。一概に日記のせいだけとも言えないけれど……まぁ、順を追って書いていこう。


 いつも通り朝の一文を書こうと日記を開いたところ、上記の文言が書かれているのを発見。ついでに日記のサブタイトル(?)を書くところにも書き込みが。俺が寝ている間に書かれたのは確定的に明らか。ブチギレそうになるところを必死に抑え、ギルを起こして警戒態勢に。


 が、やっぱり部屋の中に変な気配はない。ギルも『言われてみれば違和感があるような……だけど、普通に筋肉は馴染んでるぜ?』って不思議そう。夜中に誰かがこの部屋に侵入したという俺の話自体は信じてくれたものの、今はその犯人は潜んでいないという見解だった。


 釈然としないながらも食堂へ。食堂に到着して早々、『侵入者が出た。ブチのめすぞ』って宣言。日記のことは秘密とはいえ、部屋に侵入された形跡があったと話したところ、ちょっぴり衝撃の展開が。


 『そーいや、前もなぜか俺のベッドが勝手に綺麗になっていたことがあった』ってポポル。『忌々しい窓の隅の汚れがなぜか綺麗になっていたことがあったなり』ってパレッタちゃん。『夜中にひそひそ声が聞こえたことがあったっけ……』ってゼクト。『じ、実は夜におトイレに起きた時、外を走る人影を見たことが……!』ってライラちゃん。


 どうやらみんな、ここ最近そういった不思議現象に遭遇していたらしい。『は? アレお前の仕業じゃなかったの?』ってラフォイドルも不思議そうな顔。言われてみれば、アエルノでもそんな変な現象が起きたって言っていたような気がしなくもない。


 ただ、『そんなことより今日は宴だろ?』ってゼクトはノリノリ。実害が無い故に、その程度のことにいちいちかまけていられないらしい。他の連中も『化け物が出てきてからでもよくない?』って割と呑気。


 あいつら全員、魔系の生活の中でまともな考えができなくなってしまったのだろう。可哀想に。


 しょうがないのでそのまま宴会へとしゃれこむことに。食材や道具類をまとめ、さぁ、楽しむか──と外の会場へと向かったところ、何やら辺りが騒がしいことに気付く。


 嫌な予感がしつつ、慌てて会場を見てみれば。


 会場が荒らされていた。そりゃもうめちゃくちゃに荒らされていた。


 そして、その真ん中に──俺がいた。


 『お前なにやってんだよ!?』、『冗談にしちゃ笑えねえぞ!』って俺に杖を向けるルマルマやティキータ。そんなのお構いなしに魔法をぶっ放し、用意した竈をぶっ壊す俺。


 『みんな騙されるなッ! 親友はここにいるぞッ!』ってギルが吠えるまで、不覚にも呆然としてしまった。


 『……うそん』、『……鏡魔? いや、違う……』、『どっちが本物なの……?』って集まった連中はざわつき出す。偽俺も空気を読んだ(?)のか、動きを止め、ニタニタ笑いながらこっちを見てきた。マジむかつく。


 『こいつ、こーゆーことは冗談でもしない』、『どっちもブチのめせばどっちが本物かわかる。なら、暴れるほうを先にブチのめすべき』……などなど、我がルマルマからは熱い擁護が。止めとばかりにロザリィちゃんが俺にキス。『愛魔法的にこっちがホンモノ!』って嬉しいお墨付き。


 (最初からわかっていたけど)偽物がはっきりしたので、早速みんなでそいつを囲む。これは実際に被害に遭った俺が直々にブチのめせねばなるまい……と、みんなより一歩前に出て直接奴と対峙する。


 睨む俺。


 笑う偽俺。


 『なんか言ったらどうだ?』──の、「なん」くらいまで話した瞬間、そいつは文字通り目玉をひん剥いて……


 『よう、俺ェェェェェ!?』って叫び出した。こわい。


 『俺ェェェ! 俺ェェェ!』と、そいつは狂ったように叫び出す。あまりの形相にみんなドン引き。狂った悪魔が人の姿に化けてるって言葉が一番しっくりくると思う。


 かと思えば、いきなり真面目な顔になって……


 『意識だけがあった。ずっと求められるのを待っていた。求められたから。希い呼び出されたから。……だけど、お前は、お前らは、ずっと俺を、俺たちをほったからしにした』って涙を流し始めた。ホントこわい。


 その後もそいつの奇妙な発言(?)は続く。『お前らみんなそうだ。みんなみんなみんなみんな』、『望みをかなえた! やっとかなった! かなったかなった! なのにオレ達みんなわるもの! わるものー!』、『記憶! 体! もらった! 私と俺と僕と君とあなたで我らは自己存在を確立できました』……などなど、泣いたり笑ったり怒ったり悲しんだりしながらずっとずっと喚き散らしていた。


 もうね、なんだろうね。明らかに頭おかしいってわかるんだよ。頭おかしい人特有の雰囲気って言えばいいだろうか。単語一つ一つはわかるのに、一つの文章としてはまるで意味が通らない……人に伝えようとするとものすごくものどかしいこの感じ、どう表現すればいいだろう?


 ともかく、完全なイカレ(話が通じるなら穏便に済ませたいとは思っていた)であることがわかったので、さっそくみんなで魔法をぶっ放す。どうせ人間じゃないんだ、さっさと仕留めちまおう──なんて思っていたら。


 『まんもんみんみ!』ってそいつピンピンしながら笑っていた。文字通り傷一つついていない。どういうこっちゃ。


 その後も攻撃を続けて気付いたんだけど、どうも魔法があたっていないらしかった。あいつが避けているとかそういうんじゃなくて、すり抜けているっぽい。ライラちゃんの紅蓮魔法も、アルテアちゃんの射撃魔法も、パレッタちゃんの呪も……ギルの拳ですら透過していたから、物理的にも魔法的にもそこに存在していなかったってことなんだと思う。


 当然のごとく、向こうもおとなしくしているわけがない。壊れた人形みたいなイカれたムーブメントで俺たちに接近し、駄々をこねる子供のように腕をぶんぶんと振り回してくる。


 『ちょこざいな』って見切って拳を受け止めたジオルド。『ハッピーバースデー!』って叫ぶ偽俺。


 『……お?』ってジオルドが膝をついた。そのまま顔面を蹴られた。偽俺はケタケタ笑い、そして近くにいた連中に向けて杖を振るう。


 目の前に真っ白な羽がいっぱい。すっごくふわふわ。なんかこのままお昼寝したい気分。


 次の瞬間、ほっぺに痛烈な痛みが。『きゅーっ! きゅーっ!』ってちゃっぴぃが俺のほっぺをビンタしまくっていた。マジでどういうこっちゃ?


 で、気付く。周りに倒れている人がいっぱい。そして偽俺がちょっと大人になっていた。


 『もうそろそろ……なんか、いけそう……』って呟きながら、若干アダルトになった偽俺がゼクトと戦っていた。とりあえず吸収魔法をぶっ放して加勢。なぜだか今回はちょっぴり効いた……のは良いんだけれど、吸収した魔力がたいへんヤバい。異物感が半端ない。思わずぺってしちゃった。


 『何があった?』ってゼクトと肩を並べる。『こいつ、短期間とは言え意識を……記憶を喰っているらしい』との回答が。どうも奴が攻撃を加えるごとにみんなに何かしらの不調が生じ、逆に奴はどんどんまともっぽくなっていくのだとか。


 『意識を喰われると一瞬で落ちる(●●●)。お前はだいぶ長かったが……それでもみんな、すぐ目覚める。……目覚めたやつはみんな、「あいつ」に関する何かしらの記憶を失っている』ってゼクトはさらに追加情報も。


 今日の日記がずいぶんと読みづらく感じるのは、そういう理由があったからだということを未来の俺、およびこれを読んでいるであろうマデラさんに伝えておく。いつも通り思い返しながら書いているはずなのに、改めてみるとやっぱり細部が思い出せない。


 これでも時系列的に繋がるように……ひいては不自然な部分や違和感が出ないようになるべく詳細に書いているということだけは、わかってもらってほしいところだ。


 さて、記憶を喰われる、こちらの攻撃もほとんど通じないとあっては正直俺たちの手には負えない。純粋な意味でどうしようもない相手ってのは意外と初めてな気がしなくもない。


 さてさて、どうしたものか……と戦いながら思案していたところ、やがてルンルン気分で鼻歌なんか歌っちゃってるステラ先生がやってきた。サマールックというか、動きやすいいかにもレジャーしますよって感じのおめかしもバッチリ。


 そして、ステラ先生は倒れ伏した俺たちと、荒れに荒れた会場を見てくしゃりと顔をゆがめた。ホントに泣きそうな感じ。きっととっても楽しみにしていたのだろう。楽しみにし過ぎて夜だって寝られなかったに違いない。ステラ先生はそういう人だ。


 『百の夜明けを経て、ようやく噂の女神とご対面。ママよりも聖母なその御顔、眩しすぎて顔が焼け爛れる次第でありマッスル』……と、偽俺は白目をむきながらケタケタと笑う。俺の顔してそんなふざけたこと言わないでほしいって思った。


 当然のごとく、ステラ先生はそれが俺じゃないということを一瞬で見抜いたらしい。『楽しみにしてたのにっ!』って杖の早抜き(マジでいつ抜いたか見えなかった)で偽俺の顔面をぶち抜いた。が、前述した通り攻撃の通りが悪く、大半がすり抜けると言った結果に。


 『この感じ……うそ、早すぎたの? ううん、歪んで生まれたイレギュラー……! 思っていた以上に、みんなの成長が早すぎた……? 強く、なりすぎていた……?』ってなんか意味深な発言が。記憶が飛び飛びなせいでなんか繋がりが不自然だけれど、あまり気にしないでほしい。


 なんやかんやあって、その後は普通にステラ先生が偽俺をブチのめしたらしい。どうも記憶があやふやだけれど、それはもう完膚なきまでにボコボコにしてチリも残さなかったってクーラスが言っていた。


 『タチの悪いファントムとかの一種かなー……実害を与えることは少ないけれど、基本的にこの魔法次元と位相がずれているから、普通に魔法を使っても影響を与えられないんだよね』ってステラ先生が言っていたのだけは覚えている。だから、意図的に位相をずらして(相手の魔法次元と位相を合わせて)攻撃をしないと意味が無いのだとか。


 逆に言えば、対処方法さえ知っていればそこまで手こずる相手でもないとのこと。てっきりギル・クリーチャーだと思っていたけれど、『ウチの図書館の深層とか、ちょくちょくああいうの出てくるよ?』ってステラ先生はにこって笑いながら言っていた。


 ただ、ちょっと気になることもあったり。『ここまで何かに干渉出来るファントムなんて普通はいないんだけど……。行動も言葉もすごく人間みたいだったし……』ってステラ先生が不思議そうに首をかしげていた。普通のファントムの場合、もっと明らかに行動がおかしかったり、そもそもとして【単語のような何か】を【会話のように叫ぶ】ことはあっても、今回のようにはっきりと理解できるそれを発することはまずないのだとか。



『魔法的儀式を用いて人工的にファントムを召喚することもできるんだけどね、人みたいなファントムを作るには記憶や情報がいーっぱい必要なの。でもね、どれだけ必要だと思われる情報を詰め込んでも、結局情報を羅列するだけ……【目的】に対して条件通りに動くってだけで、人みたいなファントムを作れたって記録は無いんだ』


『でも、なぜか余分な情報……生命に必要じゃないどうでもいい記憶を加えられたファントムは、ちょっぴり人間らしくなるってことが分かっているの。どんな情報をどれだけ与えればいいのかってところまではわかっていないし、未だに再現性も取れていないんだけれど……人間らしい、人間みたいなそれが多ければ多いほど、人間の言動に近いファントムが出来るみたいなんだ』


『……それでも、あんな風にしゃべったりできるファントムなんて、いないはずなんだけどね。意図的に作れたなら、学会で大絶賛されるよ?』



 記憶があやふやなんで箇条書き気味だけれど、概ねステラ先生はこのようなことを述べていた。『実は例のアレをこいつが読んでいた可能性があるんですが』ってこっそり伝えたところ、『……可能性は無くはないけど、読むだけじゃ普通はだいじょぶのはず?』ってステラ先生はうんうんと悩みだす。そんな姿もかわいかった。


 その後は普通に会場の復旧作業を行う。幸いにも、荒らされたのは設備関係だけだったから修復もそこまで面倒じゃなかった。さすがに今日のうちにパーティ再開ってわけにはいかなかったけれど、明日に延期するという形で落ち着く。


 ステラ先生? 『ちょっと死ぬ気で業務片付けてくるね』って決意に満ちた表情で校舎に戻っていったよ。元々イレギュラーで休暇をもぎ取ったものだから、残務がだいぶヤバいことになっているらしい。完全に落ち着いたら労いの意を込めてなにかしたいところだ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ファントムの言動についてクラスの中でちょっと盛り上がる。『あいつ、ずっと一緒に授業を受けてたって言ってたぜ?』、『いつのまにか豆キライ同盟とやらに加入させられてたんだけど』、『愛しの彼を見守ってる的なこと言ってなかった?』……などなど、やっぱり奇妙奇天烈な発言を繰り返していたっぽい。


 中でもぶっ飛んでいたのは、『ロザリィのことをママンって呼んでたし、ギルのことを叔父さんって呼んでた。──のことはすんげえ怖い顔して【俺であり俺を俺にした俺】って呼んでた』……って情報だろう。


 『俺、あんなの産ませた覚えはないんだけど』って言ったら、『私も産んだ憶えはないかなー?』ってロザリィちゃんが俺の隣に座ってこてんって頭を肩に乗せてきた。『ちゃっぴぃっていう可愛い女の子は産んだ憶えあるけどね!』ってちゃっぴぃを膝に乗せ、そして俺とちゃっぴぃのほっぺにキス。『きゅ!』ってなぜかちゃっぴぃが凄く自慢げ。とりあえず頭を撫でておいた。


 ふう。だいぶ長い……というかぐちゃぐちゃしていて読みづらいけれど、こんなものにしておこう。やっぱり記憶がだいぶ喰われたせいか、肝心の偽俺のことについての記述があんまりないのが困る所。単純な記憶だけでなく、記憶力も軽く喰われてしまった疑惑。


 まぁ、日記を読み返す限りでは重要な記憶は食われていない(他のみんなもそうだった)し、喰われた能力は自然に回復するみたいだから、一晩ぐっすり眠ればなんとかなるだろう。


 推測だけれど、あの偽俺はここしばらくこのウィルアロンティカを騒がせていた何かだと思う。実態を持たないそれが、何かのきっかけで俺の日記という膨大な記録と記憶を読み取ってしまったために、ああして実体化してしまったのではなかろうか。


 図書館の深層には似たようなのがたくさんいるらしいし、元よりこの学校は在籍している人間も含めてだいぶクレイジーだ。実はヤバい魔法生物が封印されているって言われても俺は驚かない。秘密の抜け道とか普通にありそうな雰囲気バリバリ醸し出しているしね。


 ギルは今日も健やかにうるさいイビキをかいている。明日こそティキータとの宴なので、フライングで酔い覚ましの薬でも詰めておこう。みすやお。

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[気になる点] 結局何だったんだこいつ?
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