114日目 第六回ルマルマおつかれさまパーティー
114日目
だいぶ夜更かししたけど、仕込みは何とかなった。そしてギルの乳首にイチゴのヘタがひっついている。朝から嫌なものを見てしまった。ちくしょう。
ギルを起こして食堂へ。ちょっぴりの眠気を覚ますために香り豊かなブラックコーヒーをチョイスする。オトナなほろ苦さと深く引き込まれるような香りが最高で自然とおめめがぱっちりに。ブラックコーヒーって時折無性に飲みたくなるから困る。
なお、俺のお膝の上のちゃっぴぃは『きゅう……』って不満そう。わざわざこいつ用にゲロ甘カフェオレを作ってやったのに。一体何が不満なのかマジでわからん。まぁ、デザートのイチゴを『あーん♪』してやったらちょっとはマシになったけどさ。
ギルはいつも通りに『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。勢い余って近くで蠢いていたヴィヴィディナの一部まで食っていた。
『使い魔食べられてるけどいいの?』ってパレッタちゃんに聞いてみれば、『ヴィヴィディナの本質を理解できないものにヴィヴィディナを喰らうことなぞ出来はしない……いや、あるいはだからこそ形だけとはいえ喰らうことが出来るのやもしれぬ。いずれにせよ、そこに意味は無く、目の前のあるがままを受け入れるほかない』……と、よくわからない答えが。
ギルの腹筋に耳を当てたちゃっぴぃがぷるぷると震えていたことから、中でたぶん群体として生き永らえているのだろう。本体も別に問題なさそうにしていたし、考えてもしょうがないことは考えないに限る。
ちょっとゆっくりしてから飲み会の最後の仕上げに入る。サプライズの煉獄ケーキをメインに、仕込みを行っていたものを仕上げまくった。揚げ物、ピザ、ムニエル、ロースト、丸焼き、フィッシュアンドチップスといった料理系に加え、ハゲプリン、ゼリー、タルト、クッキーといったお菓子も忘れない。
……さすがに何度もやっているから、いい加減メニューに目新しさが無くなってきたのが困るところ。みんなは別に気にしていないっぽいけれど、俺的にはちょっと不満。もうそろそろレパートリーを増やしたほうが良いかもしれない。
なんだかんだで準備は滞りなく進んでいく。途中、やっぱりポポル、パレッタちゃん、ミーシャちゃんがつまみ食いにやってきたので撃退……したのはいいんだけど、なぜかそれなりの量がつまみ食いされていてちょっとショック。撃退に協力してくれていたクーラスも『罠魔法に反応は無かったし……そもそも、誰かいたか?』って不思議そう。新手のアエルノ陰謀か?
おやつの時間ごろ、いよいよ飲み会の準備も大詰めって時に『たかりにきたぞーっ!』、『…試験、おつかれ』って我らが天使ピアナ先生と我らが兄貴グレイベル先生がやってきた。後ろにはにこにこ笑顔のロザリィちゃんとステラ先生も。ひゃっほう。
ある意味予想通り、ピアナ先生は野菜料理(手作りである)とドーナッツを差し入れてくれた。『さっきまでロザリィちゃんと一緒に作ってたんだよね!』とのこと。最高かよ。
グレイベル先生は『…何か作ろうと思ってたんだが、時間が無くてな』って高級そうな感じのおつまみを差し入れてくれた。チーズ、ナッツ、スモークといった定番があったのもそうだけれど、『…この前、友人が送ってくれてな』ってどこぞの地方の名産(?)らしき干物的ななにかも。『…魚のヒレと、内臓だかを干したものらしい。酒によく合うって話だ』とのこと。珍味的な何かだろうか?
準備が出来たので、夕方のちょっと早めの時間から二年次第二回ルマルマおつかれさまパーティー(第六回ルマルマおつかれさまパーティー)が始まる。メンツはいつもと同じ、会場もいつもと同じ(クラスルーム)、そして予算はクラス財産から。いつも通り過ぎて慣れたものである。
今回は普通に始まる前に全員にお酒を注ぐ。『ちょびっとだけにしておこう……』って人もいれば、『いや、次こそいけるはず!』って全然懲りていないやつも。アルテアちゃんやロザリィちゃんは前者で、フィルラドは後者。
ただ、用意されたお酒がエールであることにはみんな首をひねっていた。『ステラ先生を疑うのか?』って問いかけてみれば、『ステラ先生は信じてる。でも、お前がステラ先生を誑かしている可能性は大いに疑っている』との答えが。みんな酷い。
ともあれ、全員のお酒の準備が出来たところでステラ先生の挨拶に。『いろいろ考えてきたけど、今回もシンプルにぃ……期末テスト、おつかれさまでしたーっ!』って先生は杯を掲げる。
『うぇえええええい!』、『おつかれーっ!』って声が響きまくりんぐ。グラスがごっつんこしまくりんぐ。あの時の気分の高揚をどうやって表せばいいか、ちょっと判断に困る。
そして、ぐびりとエールを一口。
なんか普通にエールおいしかった。なんで?
なんだろうね、味そのものは変わっていないはずなのに、初めて飲んだときの口当たりの悪さというか、不快感が全然ない。のど越しが心地よく、そのしゅわしゅわ感をいつまでも楽しみたいとさえ思えてしまう。飲み終わった時にふっと鼻から抜けていく後味が悪くない……というか、クセになりそう。
『あれ……普通に美味しい?』、『ちょっとお高いやつにした?』ってクラスのみんなも騒然。だけれど、買ったのは前回と同じ一番お安い庶民御用達な一般的な奴である。
『ほら! やっぱりエールにして正解だったでしょ?』ってステラ先生が素敵な笑顔。『先生もそうだったけど、なんか二回目だと舌が慣れるのか、普通に美味しく感じるんだよね』とのこと。お酒にも詳しいオトナなステラ先生に全俺がくらくらしまくった。
ちなみに、なぜか二口目のエールは美味しく感じられなかった。前回同様、苦くて重くてエグい炭酸。どういうことなの?
『…飲んでるうちにそのうち慣れる。いずれ、ずっと飲んでても美味く感じられるようになるさ』ってグレイベル先生はにやにやしながらぐびぐび飲んでた。やっぱりお酒の経験値はまだまだ敵わないらしい。
乾杯が済んだ後はみんな好き勝手に料理を食べまくる。ミーシャちゃんはおさかなを食べまくってたし、パレッタちゃんは肉をブチィッ! って引きちぎって食いまくっていた。アルテアちゃんは甘めの果実酒をちびちび舐めるように嗜む。案外あれでお酒好きなのかもしれない。
ポポルは『その肉俺のだし!』ってギルの肩車に収まりながらいろんなものを食いまくっていた。フィルラドは『チーズうめえ!』って味の濃い目のチーズをワインと共に。クーラスは『今日だけは悪い子になっちゃうし』って両手にハゲプリンという悪魔の所業。ジオルドはお高めのブランデーを利かせたケーキをぱくつきながら『……なんかアリア姐さんの香に似てる』って呟いていた。
ギル? 『うめえうめえうめえええええええ!』ってジャガイモ食いまくってたよ。ついでに水でも飲むかのようにエールもワインもブランデーもウィスキーもリキュールも飲みまくっていた。やっぱりあいつ、ジャガイモとそうでないものの区別がついていないのかもしれない。
もちろん俺も自分の手料理……ではなく、ロザリィちゃんのドーナッツやピアナ先生の野菜料理、グレイベル先生のヒレなんかを中心に食べていく。ドーナッツは普通に甘くていい感じで、揚げ加減も絶妙。シンプルな奴だったけど、それだけに完成度が際立っていた。
野菜料理も同様。見た目は普通だけれど、素材そのものの味が段違い。マデラさんのところで仕入れたくなるレベル。
『実は家庭菜園じゃないけど、お野菜育ててるんだよね! ……こう見えて、結構得意なんだよ?』ってピアナ先生は若干頬を赤らめながら語ってくれた。なんでも学生時代からこの手の園芸を嗜んでいるのだとか。
お花とかを愛でちゃうピアナ先生もさぞかしステキだ……と思ったら、『…コイツは食い意地はってるからな。基本的に食えるものしか育てないぞ』ってグレイベル先生の追加情報が。
『あなたがそうさせたんでしょうがぁ!』ってピアナ先生がグレイベル先生の脇腹をドスッ! ってやってた。ピアナ先生はグレイベル先生から園芸を学んだ……のは良いんだけど、グレイベル先生が食べられるものばかり栽培するものだから、お花とか観賞する系の育て方はあんまり教わらなかったらしい。
そんな感じで先生たちと話していたところ、ちゃっぴぃが『きゅーっ!』って俺に飛びついてきた。いつになくあまえんぼさんな感じ。そして妙に艶めかしくくちびるが煌めいている。唐揚げの油だった。俺のドキドキを返せ。
『ママはどうした?』って聞いてみる。『きゅ!』ってあいつはある一角を指さした。
『もっともっと持ってくるの! ぜーんぶ飲み干してやるの!』ってミーシャちゃんがけらけら笑いながらグラスを振り回していた。『フィル……いっちゃ、やだ』ってアルテアちゃんが目元を赤らめながらフィルラドにしなだれかかっていた。パレッタちゃんが無表情でポポルに酒を飲ませていた。
そしてロザリィちゃんが、『うひひ……♪』って笑いながらステラ先生に絡んでいた。マジかよ。
『混ぜてくれないかな?』って平静を装い間に入ってみる。『ロザリィちゃんがぁ、お酒いーっぱい注いでくれたの!』って嬉しそうにほわほわしているステラ先生。目元は赤いしほっぺも赤いし汗ばむうなじがシャイニング。完全に酔っていた。
『せんせいってば、全然飲んでくれないのぉ……!』ってロザリィちゃんがわざとらしく泣きまねしながら俺に抱き付いてくる。『飲むのはほどほどにね?』って声をかければ、『全然飲んでないもーん!』ってにこって微笑まれた。破裂しなかった俺の心臓ってマジすごい。
どうやら、前回よりもお酒の味を楽しめたこともあって、ついつい飲み過ぎてしまったらしい。ステラ先生はまだいいとして、ロザリィちゃんは飲み慣れていないからちょっと心配。割とペースが速くてちゃんぽんしてる。度数の高いやつは飲んでいないことだけは幸い。
『あまーいお酒の飲み比べをしてたんだよ~!』ってほわほわステラ先生。『楽しかった?』ってロザリィちゃんに微笑みかければ、『全然楽しくなかった!』って超笑顔。どういうこっちゃ?
で、ロザリィちゃん、『私が知ってる、いっちばん甘いのはねえ……!』って俺を見てにこって笑って──。
『──ん』ってキスしてきた。わーお。
『……──くん、あんまり甘いお酒飲んでないねぇ?』ってロザリィちゃんは口を離し、にんまりと笑う。『ちゃっぴぃ、口直し!』ってちゃっぴぃを呼び寄せた。ハートトフルピーチのジュースを片手に、若干ビビりながら近づくちゃっぴぃ。
『きゅ、きゅう……?』っておずおずとそれを差し出すちゃっぴぃ。『んふふ……♪』って手を伸ばすロザリィちゃん。華麗にグラスをスルーして──。
『食べちゃうぞぉーっ!』ってロザリィちゃんはちゃっぴぃの耳を齧りだした。マジか。
『きゅうん! きゅうん!』ってちゃっぴぃはくすぐったそうに身をよじらせる。が、ロザリィちゃんが後ろから抱き締めるようにして捕まえているため、逃げることは叶わず。
どうやらあくまで甘噛みらしい。いや、噛むというよりかはほとんど舐めたりしゃぶったりしていただけなのだろう。心の底からちゃっぴぃがうらやましくなった。
そのままロザリィちゃんはケラケラわらいながらお酒を飲んだりちゃっぴぃを舐めたりちゃっぴぃを齧ったりしていた。ステラ先生も『仲が良くてうらやましいなぁ~!』ってお酒をくぴくぴ。
あまりに心配になったので、こっそりグラスの酒と水を入れ替える。入れ替えた瞬間、『……──くん、気持ちは嬉しいけど、先生さすがにそこまで耄碌してないから』ってやんわり手を押さえられた。手の甲に感じる柔らかいそれに心臓どっきどき。俺の方が真っ赤になったよね。
『女の子なら……ううん、魔系なら、飲み会の時こそ常に警戒しなきゃいけないからね。グラスに何か細工されそうになったら、すぐに気付けるようにしてあるの』ってステラ先生は淡々と語る。その眼には確かな知性の光が。『……みんなとの飲み会なら安心だけど、気をつける習慣はつけとかなくちゃいけないから』ってちょっぴり悲しそうに笑っていた。
で、ちょいちょいとステラ先生はロザリィちゃん他女の子のグラスを指さす。何もないように見えたけれど、先生が杖を一振りするとぼんやりと特徴的なマーキングが浮かび上がってきた。
『実習も兼ねて、やり方を教えたの。飲み物に何かしたらわかるように。……お酒を勧めて酔わせたの、先生なの。怒らないであげてね?』って胸を優しく小突かれた。
どうやらステラ先生、飲み会での警戒のための魔法を女子たちに教えていたらしい。で、その実践としてあえてみんなにお酒を飲ませたそうな。『酔っていてもみんなきっちり発動してるから、多分もう大丈夫かな!』ってコメントしていた。
『飲み直さなきゃね!』って先生はぱっちりウィンクし、そして新しいお酒を一気に呷る。ハゲプリンに舌鼓をうち、いつの間にか用意されていたサプライズの煉獄ケーキを『先生にもちょうだい!』って受け取りに行った。
まさか毎回先生がそんな警戒をしていたとは。グランウィザードともなれば、常にそういうことを考えなくっちゃいけないのだろうか。
もしかしたら、ウチの宿屋の常連共が毎回宴会であそこまではっちゃけているのも、【この宿屋なら安心だ】……だなんて、そんな考えがあるからかもしれない。
さて、その後は普通にのんびり(?)とした時間が過ぎていく。女子は一部の例外を除きすっかりと出来上がっていて、男子も酔っ払いが多数。ギルは乳首にイチゴのヘタをひっつけたままポージングをしていたし、クーラスはエッグ婦人に泣きながら絡んでいた。フィルラドは甘えるアルテアちゃんの相手を淡々としていたし、ポポルはアリア姐さんの隣で『俺あいつらに絡まれたくないから、何かあったら守ってね』って肉をガツガツ食っていた。
アリア姐さんは植物(魔物)だから、基本的に酔わないらしい。「ダーリンが来てくれなくて寂しいわ……」とでも言わんばかりに身をよじらせ、霊峰から汲んできたという水を飲んでいた。あ、特殊栄養剤は根本(足)に塗っていたよ。
ちなみにジオルドは女子に囲まれてヘラヘラしていた。どうせまた酔って気が大きくなったんだろう。明日の朝がどうなってるのかちょっと楽しみだ。
ぼーっと全体を眺めていたら、いつのまにやらロザリィちゃんが隣に。『うひひ……♪』って笑いながら、『パパにおつかれさまのごほうびをあげます!』ってそのままキスしてきた。
今日のロザリィちゃん、ロマンチックよりもフレンドリーな気分らしい。そのままイチャイチャタイムに突入。まぁ、ほっぺにキスしたり膝枕したりおでこをつんってされたくらいだけれど。
で、そのうちロザリィちゃんのグラスのお酒が無くなった。『おしゃけ、なくなっちゃったぁ……』ってロザリィちゃんはしょんぼり。これはもう、彼氏として新しいのを用意するしかない……と思ったところで気づく。
ロザリィちゃんが飲んでいたお酒、買った記憶がまるでない。
いや、キスした時もうすうす不思議には思っていた。一通り全部酒は飲んだはずなのに、あの甘い味も香りも風味もまるで心当たりがない。どことなく懐かしくてあったかい気持ちになれたけれど、それはロザリィちゃんとキスしているからだ──だなんて、そんな風に思っていた。
だけれど、受け取ったグラスにわずかに残ったそれを舐めて、疑問は確信に変わった。俺、こんな上等で美味しい酒買ってない。
『このお酒、どこから?』って聞いてみる。『んーと……ちゃっぴぃが入れてくれた!』って女神スマイルのロザリィちゃん。秒速百億万回惚れ直した。
ともあれ、ヒナたちと共にステラ先生と戯れていたちゃっぴぃを呼び出す。『同じものを俺とロザリィちゃんに入れてくれ』と頼んでみれば、ちゃっぴぃは『きゅーっ!』って任せろと言わんばかりに酒を取りに。
が、持ってきたのは普通のウィスキー。俺が買って味見もしたやつ。『美味しいお酒が飲めるって聞きました!』って乱入してきたステラ先生も、『それ……そんなに甘いお酒じゃないよ……?』ってくびをこてんってかしげた。
しかし、ちゃっぴぃは『きゅうん?』って舐めくさった様に俺たちを見て、そしてふんすと鼻息を荒くする。ウィスキーをとぽとぽとグラスに注ぎ、そして──
『きゅううううん!』って自らの乳をグラスに注ぎだした。
いやね、開いた口が塞がらなかったよね。すんげえ表情で気張りながら、自分で自分の乳を搾ってグラスに注いでいるんだもの。酔って頭がおかしくなったのかってマジでそう思ったよ。
『きゅ!』ってちゃっぴぃは出来上がったそれを俺たちに差し出す。『おいしい!』、『先生、これだいすき!』って二人は何のためらいも無くそれを口にした。どうやらマジで結構に酔ってるせいで冷静な判断力が無くなっているらしい。
そして腹立たしいことに、普通に美味しかった。香りも良くて甘い味がしっかりしている。その上飲みやすく、アルコールがだいぶまろやかに。お酒の良さも乳の良さもすべてが調和している至高の逸品だったと言えよう。
ただ、出所と作り方だけが非常に問題だ。いやまぁ、すでにプリンやお菓子の材料で散々使ってはいるんだけど……まさか、娘に等しい子供の夢魔が目の前で直搾りして作るとか、どれだけ業の深い飲み物なのだろうか。
長くなったけど、こんなもんにしておこう。ひたすら飲み食いした後は普通に解散。というか、寝こけちゃった人が多くて解散せざるを得なかったとも言う。男子はギルとグレイベル先生がベッドに運んだし、女子はヴィヴィディナがベッドに運んでいた。
ちなみに、ステラ先生はおねむだったのでロザリィちゃんの部屋に泊まらせることに。ピアナ先生はアルテアちゃんの所。『…いい年してこれだからな。少しは生徒の規範になってもらいたいが……まぁ、たまにはいいか』ってグレイベル先生は一人で帰っていく。魔法生物の飼育の関係上、あまり持ち場を離れられないとか何とか。
ギルはぐっすりすやすやと酒臭い息を吐いて寝ている。結局素面だったのは俺とポポルくらいだろう。
そんなポポルはちゃっぴぃを連れ込んで俺のベッドでスヤスヤと寝ている。『ゲロ臭いのとギルのイビキだったら、まだこっちのほうが可能性はある』って普通に潜りこんできたんだよね。
しょうがないので多重防音結界にヴィヴィディナの鱗粉を散りばめ、ついでにギルのベッドにジャガイモを供えたうえで奴の鼻に静寂の雫を垂らしておくことにする。
いいか、これは決してポポルのためじゃない。ちゃっぴぃがギルのイビキにやられないようにするためだ。女子供には優しくってのがマデラさんの教えであり、ついでにちゃっぴぃに泣かれると面倒ってだけだ。マジでそれだけなのだ。
……くそう、やっぱり子供サイズとは言えベッドに三人はきつい。ついでに二人ともおこちゃまだから体温が高くて暑い。マジで俺、なんでこんなことしてるんだろう? 今からでもポポルをギルのベッドに移すべきか?
いや、さすがに人としてやっちゃいけないラインくらいはわきまえている。今日一日くらいは頑張るか。みすやお。
※燃えるごみは哀れにも燃え尽きる。魔法廃棄物は愚かにも生き永らえる。