111日目 発展触媒反応学:前期期末テスト
111日目
曇り空なのに空が青い……ん?
ギルを起こして食堂へ。お日様の光こそないものの、どんよりじめじめしていてたいそう不愉快。空気が重くてむわっとしていて、蒸し暑さが半端なかった。
そんなわけで、朝食にはフレッシュなアルジーロオレンジのジュースをチョイスする。俺のお膝に乗って『きゅう……』ってぐてっと抱き付いていたちゃっぴぃも、こいつを一口飲ませた瞬間に『きゅーっ♪』って元気になりだした。そのまま全部飲み干されたのがわけわかめ。こいつに使い魔としての自覚はあるのだろうか。
『私もパパのジュース、飲みたかったなぁ……!』ってロザリィちゃんがまんまるぱっちりおめめをぱちぱちとさせてせがんできたため、ロザリィちゃんにもジュースを入れる。『ジュースだし、俺が用意しても味は変わらないと思うけど……』って疑問を口にしてみれば、『……パパってば、愛情を一緒に注いでくれなかったのかな?』って脇腹をつんってされた。もっとしてほしかった。
くぴくぴとおいしそうにジュースを飲むロザリィちゃん。ぷはーっ! っと豪快(?)に息をつき、にっこりと笑う。『愛情たっぷりでおいしかった?』と聞いてみれば、そのまま無言で熱々のキスをしてくれた。愛情たっぷりで溺れそう。
『……わかってくれた? それとも、これだけじゃわからなかった? ……もしかしてパパってば、すっごくほしがりさんなのかなぁ?』ってロザリィちゃんはいつになく妖しく笑って俺のおでこをつんつんとしてくる。隣でげんなりとしながら見ていたミーシャちゃんが、『このポンコツ、暑さにかこつけてイチャつこうとしているだけなの』ってコメントしていた。実に辛辣である。
なお、俺たちが追加でイチャイチャしている間も、ギルは『うめえうめえ!』とジャガイモを貪っていた。たまにはこいつも朝餉の時間にミーシャちゃんにサービスするべきじゃないだろうか。まぁ、ギルらしいと言えばそれまでなんだけどさ。
今日のテストはキート先生の発展触媒反応学。『とても暑いですが、地獄の業火に比べたら何でもないので、文句は言わないように』と不穏な前置きが。暑さに参っているのか、キート先生自身がすごくげっそりとしていて、地獄の幽鬼とさして変わらないほどやつれている。
何より驚きなのは、キート先生は汗の一滴たりともかいていなかったことだろう。もはやかく汗すら出ないらしい。骨と皮だけって言葉があれほどしっくりくる状態も珍しいと思う。
ともあれ、そんな感じでテストは始まる。やっぱり予想通り、最初の数問は簡単な基礎計算問題で、表面後半から裏面にかけてが割とガチな計算問題。教科書に載っていた練習問題の数字だけ変えたものもあれば、いろんなパターンを複合させたものもある。オーソドックスで正統派な試験問題だったと言えよう。
ちなみに、あえてふれるまでもないけど解答用紙は驚きの白さであった。そしてやっぱり結構エグい感じの呪の痕跡を発見。その労力をもっと別のことに使うべきだと思ったのは俺だけの秘密だ。
テスト中、窓の外に一瞬大きな影が通り過ぎるのを発見。教室にいた全員が慌てて杖を構えるも、校内を巡回していたルンルンだったことが発覚。ルンルンの背に乗ったシキラ先生が『テスト中なのに生徒と思しき人影が校内をうろついているって情報が入った。カンニングってわけじゃないみたいだが……一応、警戒しといてください』ってキート先生に伝えていたっけ。
『……単位がいらないんですかね? いや、そもそも生徒でない可能性もあるか。……まぁいいや、シキラ先生に全部丸投げしましょう』ってキート先生が呟いていたのを覚えている。謎の侵入者にちょっぴり同情の念を抱いてしまった俺っておかしいのだろうか?
妙なトラブル(?)こそあったものの、無事に試験は終了。一部の人間の顔が真っ青だったけれど、まぁこれもいつも通り。クーラスは『計算量が多くてヤバかったけど、難易度はそこまででもなかったな』ってコメントしていた。『えっ、そんなに計算するところあったっけ……!?』って隣でジオルドが蒼白になっていたっけ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。明日がテストの最後かつ山場である故か、みんな雑談を早々に切り上げて部屋へと戻っていた。最後の追い込みをかけるのだろう。
ホントはテスト後の打ち上げのこととか話したかったけれど……どうせ明日が終われば夏休みで時間なんていくらでもある。まずは目の前の困難を乗り越えるのが先か。
ギルはやっぱり盛大に耳障りなイビキをかいて寝こけている。俺もさっさと寝るとしよう。ギルの鼻には氷精のコアでも詰めておこう。おやすみ。