107日目 みんなのまんなか
107日目
ギルの枕が俺の腹に。それだけ。
ギルを起こして食堂へ……行く前に、なんかそんな気分だったので、ポポルとフィルラドも一緒に起こしてみることに。ギルと共にあいつらの部屋に入ってみれば、ある意味予想通り、二人ともそれはもうスヤスヤと心地よさげに寝こけていた。
『くすぐるのとボディプレス、どっちが良いと思う?』ってギルに聞いてみる。『おいおい、親友は実にイケナイやつだなぁ?』ってギルはにっこり。ポポルを抱き上げ、そしてフィルラドの上にそっと置く。
『──友情のダブルボディプレスに決まってるだろ?』ってあいつはちょう笑顔。マジ怖い。
残念ながら、フィルラド&ポポルに友情のダブルボディプレスを食らわすことは叶わず。やろうとした瞬間にあいつら二人とも飛び起きて杖を抜き、こっちに魔法をぶっ放してきたんだよね。
『友達に向かってなんてことするんだ!』って怒ったら、『普通の友達はこんなことしない』、『鏡を見て同じこと言ってみろ』ってすごまれた。朝からあんなに怒りっぽいだなんて、奴らはもしかしたら低血圧なのかもしれない。
朝飯は普通にベーコンエッグ……なのはいいんだけど、なぜか俺のさらにてんこ盛りの白身が。『さっきはちょっと言い過ぎた』、『仲直りの印にあげるね』ってフィルラドとポポルが俺の皿に白身を乗せまくっていた。あいつらマジなんなの?
もちろん、白身は全部ギルのジャガイモの大皿に。『うめえうめえ!』ってギルは普通にちょう笑顔で全てを喰らいつくしていた。健康的なのは良いことだと思った。
午前中は昨日と同様にテスト勉強して過ごす。今日はルマルマのほぼ全員がクラスルームに揃っていたっけ。半分くらいがそこそこ余裕そう……というか、いつも通りの顔だったけれど、一部の人たちは顔面真っ青でかなりヤバそげだったことをここに記しておく。
俺? 普通にロザリィちゃんに手取り足取り腰取り勉強を教えていたよ? 『ホントに勉強を教えに来たのかなぁ?』って妖しく笑っておでこをつんってしてくるロザリィちゃんが最高に可愛すぎて、とても教えるどころではなかったけどな!
午後もぼちぼちそんな感じで過ごす。ソテー、ピカタ、ポワレがアリア姐さんの胸の中に納まっていたほか、グリル、マルヤキ、ローストがポポルの腹巻の中でスヤスヤしていたのが印象的。午後の暑い時間だったけれど、逆にそれがいい感じのお昼寝コンディションとなったらしい。
みんながテスト勉強していたこともあって、クラスルームは静かでのんびり(?)した空気が漂っていた。ちゃっぴぃも『きゅう……』ってとろとろしだし、エッグ婦人を抱えて俺専用ロッキングチェアに揺られておひるね。
ちゃっぴぃやヒナたちの寝息に羽ペンのカリカリとした音……午後のあの何とも言えない日差しに当てられたからか、テスト勉強していた奴らが一人、また一人と落ちていく。きっと昨日も遅くまで勉強していて疲れていたのだろう。男女問わず優しくタオルケットをかけてあげる俺って優しくない?
で、気づけば俺を除く全員がぐっすりすやすやと寝こけていた。居眠りやお昼寝の時はギルはイビキをかかないのが毎回不思議でならない。俺の長年の疑問だ。
さて、みんなが寝ている中で俺だけが勉強しているってシチュエーションもなかなか良さげだったけど、作業が捗りすぎてしまったゆえにやる気がすっかりなくなってしまった。さりとて、話し相手に誰かを起こすことも憚られる。
そんなわけで、一人優雅におやつのクッキーを焼くことに。余分な手間暇をかけないいっちばんシンプルでスタンダートなやつ。なぜかちょっぴり、いつもより優越感というか……ちょっとした特別感を味わえたのはなぜだろう。
しかしまぁ、ひたすら無心でのんびりとクッキーを焼くことのなんと楽しいことか。俺、大きくなったらロザリィちゃん専属のクッキー職人になろうと思う。
ぼちぼち焼き上げたところで、みんなを起こしに戻る。いつのまにやらステラ先生までもがおひるねに交じっていた。寝顔が超かわいい。天使みたい。いや、女神か。
しかもステラ先生ってば、なぜかアルテアちゃんに抱きしめられている。お腹の所にはミーシャちゃん。背中にはロザリィちゃんが寄り添っていて、そしてパレッタちゃんがステラ先生を腕枕。実に漢らしかったと言えよう。
ただ、不思議なことが一つだけ。ロザリィちゃんたちはみんな、勉強中に寝落ちしてそのままつっぷして寝ていたのだ。なのに、現状は割とガチなお昼寝スタイルに入っている。
どうやらステラ先生、ロザリィちゃんたちのためにわざわざ寝床を整えてくれたらしい。ただ、最終的に辛抱堪らなくなって真ん中に潜りこんじゃったのだろう。ステラ先生はそういう人だ。
……いや、あるいは自分のおひるねの環境を整えるためにロザリィちゃんたちを配置したのだろうか? どっちの可能性も考えられるからステラ先生は可愛いと思う。
いずれにせよ、真ん中に潜りこんだという事実だけは変わらない。ミーシャちゃんやパレッタちゃんはともかくとして、ロザリィちゃんとアルテアちゃんは寝相悪くないしね。
ホントはこのままいつまでもロザリィちゃんとステラ先生のステキすぎる寝顔を眺めていたかったんだけど、焼き立てクッキーを食べ損ねたらステラ先生はしょんぼりしちゃうので、心を地獄の悪魔より残酷にして『おはようのクッキー、いかがですか?』と声をかけてみた。
ふるふると震える長いまつ毛。ぱっちりと開くまんまるおめめ。揺れる瞳はまだねむそげで、見ていてドキッとするくらいにトロンとしている。
『お目覚めですか、お姫様?』って俺ってばちょっぴりキザに決めてみる。未だぼんやりしているステラ先生は、こしこしと目をこすって──
『ひゃあああああんっ!?』って真っ赤になってあわあわしだした。どういうことなの。
『やんっ、ちょっ、まってぇぇ……!』ってステラ先生はローブをぱたぱた。一瞬チラッと見えた肌色にくらくら。もっとガン見しなかったあの時の俺をぶん殴ってやりたい。
さて、ステラ先生があわあわパタパタしていると、やがてそいつが先生のローブの裾からぴょこんと飛び出してきた。あの顔つきは間違いなくソテー。せっかくのお昼寝を邪魔されたからか、あいつは不満げにピーピー鳴いて抗議していた。
どうやらソテーのやつ、ポポルの腹巻から脱出してステラ先生の懐に潜りこんでいたらしい。『……昨日、一人だけできなかったもんなぁ』ってアルテアちゃんが一人で納得していた。『なんだぁ……びっくりしたぁ……』って「ふーっ」って息をついているステラ先生がめっちゃかわいかったです。
ちなみに、アルテアちゃんの懐からはグリルが。『なんか温いと思ったら……』ってパレッタちゃんの懐にはローストが。『……ケンカ売ってるの?』ってミーシャちゃんの髪の中からはマルヤキが。『きゅ!』ってちゃっぴぃからはピカタが。『あ、私のとこにもいた!』ってロザリィちゃんの懐からはポワレが。ポワレはいずれ丸焼きにして食ってやろうと思う。
どうやらヒナたちみんな、女の子の懐に潜りこんでいたらしい。『気持ちはわかるよー。先生も、みんなの真ん中とっても気持ちよかったもん!』ってステラ先生はにっこりと笑ってヒナたちを愛でていた。
俺もヒナになりたかった。というか、この騒動で起きた男子全員が同じことを思っていたと思う。『あいつらマジで今度丸焼きにしようぜ』、『照り焼きのほうが良くね?』ってみんな言ってたし。ヒナたちの主であるフィルラドは『ずるいぞチクショウ……!』ってずっと歯をギリギリしていた。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。あ、クッキーはみんなで美味しく頂いたことをここに記しておこう。『えへへ、みんなの勉強を手伝いに来たのもホントだけど……実は、──くんの作るおやつも楽しみにしてたんだぁ』ってゆるゆるに笑うステラ先生が見られて最高に幸せだった。あの笑顔を護る為なら俺はなんだってできるだろう。
ただ、『──くん、ちょっと見過ぎっ!』ってロザリィちゃんに「めっ!」ってされたのだけは失敗だった。『反省の気持ちは?』ってロザリィちゃんが背伸びしてとんとんと促してきたので、俺の誠意を込めてキスをしておく。『……まあ、許してやろう』って真っ赤になるロザリィちゃんがマジプリティでした。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいて寝こけている。昼間あれだけ寝ていたのにこの寝付きの良さとは羨ましい限りだ。世の中の赤ん坊みんながこれだけ寝付きが良かったら、いったいどれだけの労力がこの世から消えることだろう。
まぁいい。明日からテストだ。今日の所はさっさと切り上げて寝ることにする。
ギルの鼻には罪人の小指を詰めておく。グッナイ。
※燃えるごみを捨てる。魔法廃棄物も捨てる。