102日目 危険魔法生物学:自由勉強時間
102日目
ちゃっぴぃがいない。
まったく、焦らせやがって。まぁ、子供のやったことだと思えば可愛いものか。
とりあえず、最初から順に書いていこう。
いつもの時間に目が覚め、そしてちゃっぴぃがいないことに気付く。いつも通りぎゅって抱きしめていたはずなのに、その姿はどこにも見当たらない。温もりもほとんどない……と気付き、頭をぶん殴られたような心持ちになった。
ちょっとふらついているだとか、トイレに起きたって感じじゃないのは確定的に明らか。着替えることすら忘れて杖を手に取り、急いでクラスルームへと向かう。
ちゃっぴぃの魔力の匂いがうっすら漂っていたけれど、これが普段からあるものなのか、それとも少し前にここを通ったからあるものなのか、その判別が出来ない。そもそもとして、ちゃっぴぃの行動にまるで心当たりがない。
ちゃっぴぃは発情中だ。俺から離れないってことはあっても、俺から離れるってことは考えにくい。加えて言えば、例え発情中じゃなかったとしても、あいつが一人でどこかへ出かけるってことも考えられない。昼間ならまだしも、こんな時間ならなおさら。
あり得るのだとしたら、なんかヤバい魔法生物か異常魔法現象に因る突発的な事故。このウィルアロンティカはちょくちょくヤバい出来事が起こる故に、それが一番可能性が高く、そして一番恐ろしいことでもある。
とりあえず、一緒に起きてきたギルに『男子全員たたき起こせ。探索に行くぞ』と声をかける。ほどなくして、フィルラドやクーラスを始めとした男子たちがやってきた。俺のあまりの形相を見ていろいろ察したのか、連中はすぐさま準備を整えてくれた。
『俺は湖の方に行く』、『俺は校舎内を探してみる』、『他のクラスに声かけてくる』、『念のため山の方に……』などと、準備はとんとん拍子に進む。心の底から感謝した。
いざ出発しようとしたところ、『なにかあったのか……!?』って女子たちも起きてきた。『ちゃっぴぃが行方不明だ』と簡潔に説明。『化け物がうろついている可能性もある。守りを固めておいてくれ』と告げ、最後に『ロザリィちゃんのことをよろしく』と伝言を頼もう……として。
『なんかあったの……?』ってぱたぱたとロザリィちゃんが慌ててやってきた。『きゅう……?』って眠そうに目をこするちゃっぴぃを抱っこしている。実にふかふかで柔らかい枕を堪能していたのだろう。目がまだ醒め切っていないようだった。
うん、普通にちゃっぴぃそこにいた。どういうことなの。
『その……ちゃっぴぃが行方不明に……』って俺の言葉に、『……ちゃっぴぃ、ここにいるよ?』ってロザリィちゃんは可愛らしく首をかしげる。女神が顕現したかと思っちゃったよね。
いやはやしかし、あの瞬間のみんなの『何やってんのコイツ』って目はヤバかったよね。俺があれだけ必死こいていたのに、ちゃっぴぃもロザリィちゃんも平和そうだったものだから、余計にそれが顕著だったよ。
『……なに? 寝ぼけてんの?』、『普通にロザリィのとこで面倒見てただけじゃん』、『俺のスヤスヤタイム返せよ……!』などと、軽くなじられた。みんなひどい。
まぁ、最後にギルが『無事で何よりでよかったじゃん! やっぱ平和が一番だぜ!』って締めてくれたからいいんだけどさ。俺の言葉だとみんな頷かないくせに、ギルの言葉だと『それもそうだな』って納得するからわけがわからない。みんな頭がギル化しているのだろうか?
ともかく、状況を確認することに。
なんでもちゃっぴぃのやつ、昨日の深夜過ぎに発情期が終わったらしい。夜中に目が覚めてハッとなったのか、ちゃっぴぃは発情期中の自らの行いを思い出し、そして大変いたたまれない気持ちになったらしかった。
で、ちゃっぴぃは俺の腕の中からそっと抜け出し、一目散にロザリィちゃんの部屋に向かったらしい。
『なんかねえ、夜中に扉が開く気配がして。開きかけの扉からちゃっぴぃがこっちをちらちら見ているのが見えて。……あれだけ威嚇していたからかなぁ、いつもはすぐに飛び込んでくるのに、なんかこう、ずっともじもじしていたんだよね』ってロザリィちゃんは言っていた。
もちろん、俺のロザリィちゃんは女神も裸足で逃げ出すほどに女神でマジプリティだ。そんなちゃっぴぃを見て聖母のごとく慈愛の笑みを浮かべ、『……おいで?』ってベッドに誘ったのだとか。
そこから先は語るまでもないだろう。ちゃっぴぃはちょっと涙目で『……きゅーっ!』ってそこに飛び込み、ぴすぴす鼻を鳴らしながらロザリィちゃんの胸に顔を埋めたのだとか。ロザリィちゃんはそんなちゃっぴぃを撫で、優しく抱き締めたのだとか。
『ちゃっぴぃってば、それからずーっと謝ってきてね? はつじょ……反抗期だったからしょうがないよーってずーっとあやしてね? ……そこからはもう、ずーっと甘えてきたの! とーっても可愛かったんだから!』とはロザリィちゃん。にっこり笑顔が本当に眩しい。
そんな感じでちゃっぴぃはロザリィちゃんと一晩を共にしていたらしい。話をしている間も、ちょっと恥ずかしそうにロザリィちゃんの陰に隠れていた。もう女子の誰にも威嚇していないし、へその下の紋様も無い。完全に元に戻ったのだろう。
全く、本当に驚かしやがって。しかもちゃっぴぃのくせにロザリィちゃんとずっといちゃいちゃしているとかマジでずるい。誰のせいでここしばらくロザリィちゃんといちゃつけなかったのかと小一時間ほど問い詰めたくなった。
まぁ、ギルが言った通り、無事で何よりってやつである。みんなを騒がせてしまったのだけは本当に申し訳ないと思っている。平謝りしたら、『次の飲み会はハゲプリンをマシマシで頼む』、『俺おっきい肉ね』、『夏休み中のおやつ、ケーキ多めにしてちょうだい?』って言われたから、それに応えるとしよう。
ともあれ、その後は普通に朝食をとる。ちゃっぴぃは今日はロザリィちゃんのお膝。『うめえうめえ!』とギルと一緒にジャガイモを食べたから別に寂しくなんてない。いいか、マジで寂しくなんかないんだ。
朝食後は授業。今日は我が天使ピアナ先生とみんなの兄貴グレイベル先生による危険魔法生物学。先生たちはロザリィちゃんとイチャつくちゃっぴぃを見て、『…戻ったか』、『存分に甘えてるねえ……』ってコメントしていた。ピアナ先生は発情期中もあまり威嚇されていなかったから、あまりちゃっぴぃが戻ったことに対して思い入れはないらしい。
肝心の授業内容だけれど、やっぱり『…来週は期末テストだから、自由にテスト勉強してよろしい』との通達が。軽く期末テストの内容についても触れられたんだけど、『まぁ、いつも通りな感じかな? いろんな魔法生物が出てくるから、決して油断しないようにっ!』とのこと。指をぴっ! ってするピアナ先生がとてもエンジェルでかわいかったです。
そんなわけでぼちぼちテスト勉強。正直な所、魔法生物学は筆記試験じゃないから、割とみんな出たとこ勝負な感じがある。実体験を伴って授業を受けている故に、早々授業内容を忘れることも無い。アンブレスワームをまたやれって言われたら困るけれども。
実際、『せんせえ……アンブレスワームはやめてえ……!』って半ベソかきながらロザリィちゃんがピアナ先生に懇願していた。ピアナ先生ってば、『どーしよっかなぁー♪』ってにこにこしながらロザリィちゃんのほっぺをむにむにしていた。小悪魔なピアナ先生も最高に天使で全俺が癒されまくった。
『ロザリィちゃんの彼氏にジャムクッキーをお願いしてくれたら、考えなくもないかも?』ってピアナ先生が言っていたので、今度の休みにでも作って貢ごうと思う。……まぁ、そんなことしなくてもさすがにアンブレスワームは来ないだろうけどさ。
ちょっとざっくりしているけれど、授業についてはこんなもんにしておこう。朝のちゃっぴぃの出来事のせいで、昼間の印象がかなり薄れちゃってるんだよね。テスト勉強しかしていないから、元々書くことは少ないんだけど。
夕飯食って風呂に入る際の脱衣所にて、『お前なんでソックス左右逆に履いてんの?』ってフィルラドに指摘された。確かに言われてみれば、なんか微妙に違和感がある。
『ヴァフィール対策だ』って返したのに、『そーゆーところ、マジで素直になろうぜ?』ってフィルラドは子供を諭すかのような慈愛の笑みを浮かべて肩ポンしてきやがった。そういうのはポポルかヒナたちにやればいいのに。
とりあえず、フィルラド以外にバレなかったのは僥倖。近くにギルがいたけど、ギルだし別にいいや。
ゆうめ……じゃない、風呂からあがって雑談して今に至る。雑談中もちゃっぴぃはひたすらロザリィちゃんに甘えていた。『きゅーっ♪』って抱きしめたり、『きゅっ♪』ってほっぺにキスしたり。
ロザリィちゃんも『やったなぁー?』ってちゃっぴぃのほっぺにキスしたり、脇腹をくすぐったりして遊んであげていた。お気にの櫛を装備して髪を梳かしてあげたりもしていた。髪型をおそろいにデコっているのを見た時なんてもう、俺もロン毛にしようかと本気で考えたくらい。
どうせちゃっぴぃのことだ、お風呂場でも存分にロザリィちゃんとイチャイチャしていたのだろう。ちゃっぴぃのくせにずるい。
ギルは今日も腹をだして大きなイビキをかいている。朝に書き忘れたけど、窓にはなびらがみっしり張り付いていてたいそう不気味。月明りが妖しくはなびらを照らして一種独特のふんい
おいなんだ今の。なんか変な影が一瞬サッて通り過ぎなかったか? 一応外には何もいなかったけど……なーんか妙な魔力の気配を感じるような感じないような。
まぁいい。どうせギル関連の何かだろう。考えても仕方ないことは考えないに限る。それよりも、ベッドが妙に広々としていてちょっと寂しい。夏休みになったらマジでぬいぐるみを見繕うのを検討してもいいかもしれない。
とりあえず、ギルの鼻には水の糸を詰めておく。グッナイ。