101日目 魔力学:テスト勉強
101日目
俺のあちこちに噛み痕(歯形)が。なぜ。
ギルを起こして食堂へ。食堂に入った瞬間、女子の大半が『う゛っ!』って奇妙な声を上げて鼻を押さえた。なにかヤバいものでも見てしまったかのように俺を見てくる。まったく、そんなに見つめられると照れちゃうっていう。
冗談はともかくとして、今日もやっぱりかなりエグい感じの夢魔のマーキングが施されていたらしい。『ここまでキツいのは……ちょっと初めて』ってパレッタちゃんが真顔で言っていた。形容しがたきヴィヴィディナまでもが足をヒクヒクさせて悶えるレベル。
一方でちゃっぴぃは、『きゅん♪』ってにまーって笑って俺のほっぺにほおずりするばかり。へその下の紋様はだいぶ薄くなってきたとはいえ、発情中であることに変わりはないらしい。こいつに羞恥心というものは無いのだろうか。
しかも、話はそれだけにとどまらない。
『あら、ちょっとそっちのは見逃せないわね』ってアエルノのロベリアちゃんが杖を抜いて俺の首元を指してきた。いくらアエルノとは言え、女の子に杖を向けるのは俺のポリシーに反する……なんて思いながら、ロベリアちゃんが放った魔法をそのまま受けると……。
俺の首元に赤い痣的なものが。どういうことなの。
『うっわ……これ、うっわ……!』、『もしかしなくても……なぁ?』なんてざわめきが食堂内に満ちる。
しかもこの痣、一つじゃなかった。
『おう、ちょっと脱げや』ってアルテアちゃんにローブを引っぺがされた。『いいじゃん、減るもんじゃないし』ってパレッタちゃんにシャツを引っぺがされた。『これで我慢しといてやるの』ってミーシャちゃんにベルトを引き抜かれた。『こ、これだけは誰にも譲らないんだからねっ!』ってロザリィちゃんにズボンを下ろされた。いやん。
で、みんなの前でパンイチになった俺。男子一同がざわつく&首をひねる中、ルマルマ&ティキータ&バルト&アエルノの女子の有志が俺に向かって杖を振るった。
『げぇ……っ!』って女の子から聞こえちゃいけない声。『マジか……!?』って男子の妙に興奮した声。
首元にあるそれと同じような痣が全身から浮かび上がってきた。指にも、腕にも、足にも、腹にも……とにもかくにも隙間なくみっしり。たぶん、ケツの方にも浮かび上がっていたと思う。
どうやらこれ、全部夢魔のマーキング(それもだいぶヤバいやつ)の痕らしい。ちゃっぴぃが恥ずかしそうに身をくねらせていたから間違いないだろう。
『まさかここまでとは……』、『えっ、あんなとこでもするものなの?』って女子が若干赤くなりながら俺の体を検分する。最初に見抜いたロベリアちゃんもこれは予想外だったようで、『そ、そのマーキング……全身にあるなんて、思わなかった。……そっかぁ、そういう考えもあるのね……』って真っ赤になりながら言っていたっけ。
しかしまぁ、あのマーキング、いったいいくつあったのだろうか。とても一日や二日で出来る量だとは思わないし、魔法的なマーキングってことは一つ着けるだけでもそれなりに時間がかかるだろう。ましてや、俺にバレないようにとなると……それこそ、俺がぐっすり寝入っている夜中くらいしかない。
何より厄介なのは、男には一切その存在が感知できないことだろう。少なくとも、俺たちの中では誰一人としてマーキングを見抜くことは出来なかった。もしこれが敵性の夢魔からのマーキングだったと思うと背筋がぞっとする。
ともあれ、俺の全身に入ったエグめのマーキングは有志の女子によって落とされる運びになった……んだけど、あまりにも強力だったゆえに完全に落としきることは叶わず。特に首筋を始めとした一部は密度がダンチだったため、ほとんどどうしようもなかったとか。『ちょっとはマシになったけど、やっぱり耐えられないくらいエグい』って女子のみんなが鼻を押さえていたっけ。
ロザリィちゃん? なんか涙目で膝から崩れ落ちていたよ。『うそ……そんなのうそ……うちのちゃっぴぃはそんなこと……!』ってずっとブツブツ言っていた。そんな姿もマジプリティだった。
一応書いておく。ギルはこんな騒動の中でも『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。しかも、呆然としているロザリィちゃんに『なんか悲しいことでもあったのか? ジャガイモ食えばなんとかなるって!』ってジャガイモを勧めていた。
『ギルくん……ありがと』ってもそもそジャガイモを頬張るロザリィちゃんのなんとかわいいことか。ギルの奇行に嫌な顔せず和やかに対応するロザリィちゃんのなんと優しいことか。秒速百億万回惚れ直したっていう。
朝にいろいろあったものの、その後は普通に授業。今日の授業はアラヒム先生の魔力学。今日も教室はカビ臭く、男子一同かなり辟易としていた。女子に至ってはそれに加えて夢魔特有の匂いに苛まされ、大半の人が顔を真っ青に。
……こっちを見て露骨に顔をしかめられるとさすがにちょっと傷つく。俺ってばマジセンチメンタル。あと、そんな光景を見て腹を抱えてゲラゲラ笑っていたフィルラドとクーラスにはこむら返りの呪をかけておいた。
肝心の授業内容だけれど、ある意味予想通り『来週は期末テストなので、テスト勉強の時間とします。わからないところがあれば聞きに来てください』との通達が。『カビや夢魔の匂いがきついみたいですが、勉強に集中すれば問題ありませんよね?』との宣告も。女子の全員が泣きそうな顔になっていたのは書くまでも無い。
ともあれ勉強開始。べたべたしてくるちゃっぴぃを膝の上に乗せ、ポポル、フィルラド、ギルに魔力学の基礎を叩きこんでいく。ホントはロザリィちゃんとミーシャちゃんとパレッタちゃんも勉強会に加わるべきだったんだけど、『一人で勉強してた方がマシなの』、『はながもげる』と言われちゃったんだよね。
とりあえず、ギルの筋肉の調整は問題なさそう。単語を確認次第反射でその説明を書けるように仕込んでおいた。難しい記述問題については、俺の腕の動きをコピーしてもらうほかない。
ポポルとフィルラドはヤバそげ。そもそも基礎の概念を理解していない。基礎式を教えて、『サイクルでは魔力総量を出して、基礎式にわかっているものをぶち込め。残ったのが答えだ』って言っておいたから、計算問題もそれなりにはできるはずだけれど……。
勉強中、とうとう耐え切れなくなった女子が裂造精密円形魔法陣を用いた風の魔法を天井付近に構築した。『今から換気をしますが構いませんね!』って魔法を作ってからアラヒム先生に宣言。順番が逆じゃないかと口に出さなかった俺を誰か褒めて。
『……魔法陣の出来栄えに免じて認めましょう。せっかくですし、魔力学的サイクルに基づいた疑似熱魔法機構も加えますか。実物がある方が理解も深まるでしょうし』ってアラヒム先生は風魔法陣に魔力学的サイクルを再現するファンクションパターンをあっという間に組み込んでいた。
その結果、温風だの冷風だのが魔法陣が吐き出されるように。しかもちょいと軽く杖を振るうだけで切り替えられるって言うからすごい。さすがはグランウィザードだって思ったよね。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。未だにケツが痛い。風呂に入って沁みたのもそうだけど、女子たちのケツビンタの威力があがっているのだろう。換気の手伝いとしてローブをばさばさしただけなのにこの仕打ちとか、女の子って本当によくわからない生き物だ。
ギルは今日も大きなイビキをかいてぐっすりと寝こけている。そしてちゃっぴぃもスヤスヤ。俺もなんか疲れたのでさっさと寝ることにする。ギルの鼻には風のはなびらでも詰めておこう。みすやお。