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10日目 魔力学:魔度計について

10日目


 ギルの筋肉が照れ屋さん。見つめた部位が赤くなって燃え上がる。筋肉に独立した意識が宿っているとでも言うのだろうか。


 ギルを起こして食堂へ……行く前に、ルマルマのみんなで揃って学生部へと赴く。レポートの提出場所がここに定められていた故である。朝餉の前の時間だから全然人気は無い。レポートを回収しに来たキイラムら上級生とピアナ先生くらいしかいない。ちょっと眠そうなピアナ先生が最高にキュートで一瞬で目が覚めた。


 で、提出。『なんでこんな時間と場所で提出することになってんの?』とポポルがキイラムに愚痴をこぼしたところ、『例年そうなんだから諦めろ。俺たちだってそうだった。だいたい、お前らは授業だからしょうがないだろうけど、こっちは完全にボランティアでやってんだぞ』とキイラムは返す。


 なんでも、ティーチングアシスタント(実験中)こそバイト代が出るものの、それ以外のこういった時間には一切お金は支給されないらしい。『お前らが来るより前にここに来なきゃいけないし、お前らが全員提出するまで離れられない。実験だって、授業時間中に終わらなければサービス残業だ』ってキイラムは言っていた。貰えるバイト代もピクシーの涙より侘しい金額なのだとか。


 そして、『この時間だって金は出ない。この後控えているお前らのレポートチェックにも金は出ない。めちゃくちゃ大変で膨大な量があるのに。自分の研究の時間が潰れるのに。なのに、先公どもはその辺を考えず無茶ぶりをしてきやがる。時間が無いのはわかりきってるはずなのに、実験で成果を出せとか言ってくる』と、キイラムは続ける。ちょっと顔が死んでいて怖かった。


 『ぶっちゃけサービス残業の時間のほうが長いよな』、『レポートチェックに一日潰すのも珍しくないし、実労働時間に対して給料が出る時間って三割くらいだよな』、『ピアナ先生がこの場にいなければ回収作業だって来たくなかった』と上級生は口をそろえて言いだす。


 ピアナ先生、『それを言われると弱いんだよねぇ……。正直な話、私が回収の担当をしているのは若手だっていうのと、先生側の懐柔策の一面があって……』って言っていた。例年レポートの回収をしながら愚痴を言い合っているらしい。


 『早起きは大変だけど、私なんかで良ければいくらでも愚痴に付き合うからね!』ってにこって笑うピアナ先生が最高に可愛すぎた。この笑顔のためなら、何だってできる気がした。


 で、ピアナ先生に見とれていたせいで朝食を食い損ねる。ちょうショック。この学校、やっぱり提出時間を見直すべきだと思う。


 今日の授業はアラヒム先生の魔力学。相変わらずあの教室はカビ臭くて困る。早起き&空腹&カビ臭さでルマルマのメンツのイライラもマックス。朝食にありつけた人も、時間が無くてあんまり食べられなかったらしい。


 『きゅう……』って不満げなちゃっぴぃには、こっそりローブの中で秘蔵のクッキーを食べさせてやった。ホントは俺のおやつだったんだけど、授業中に癇癪を起されるよりはマシだろう。


 内容は魔度計について。前回に魔度平衡だとか第ゼロ法則について学んだわけだけれど、じゃあそれって具体的に何に使われているのって話。


 『私たちが当たり前のように取り扱っている魔度ですが、その定量的な大きさをどのように測っているのでしょうか。魔度をどのように定義し、どのように評価しているのでしょうか。──その身近な道具として魔度計が挙げられるわけですが、その仕組みはどうなっているのか、どういう原理で動いているのかを学ぶのが今日の大きな目標です』ってアラヒム先生は言っていた。


 とりあえず、大事そうなことをメモしておく。



・魔度計


 魔度変化に伴う物体の魔法的挙動(膨張、励起魔力、魔法抵抗など)、およびそれに伴う物性量の変化を利用した、魔度を計測するための機構。一般的にはすでに完成された道具を示すが、広義で言えばその仕組みを持つ魔法陣、ひいてはファンクションパターンも含まれる。魔度計は魔度の測定に何を用いるかでその原理は変わるが、【魔度を測定する】ためのものであるならば、総称して魔度計と呼ばれる。なお、魔度計で示される魔度はあくまで魔度計自身の魔度であるため、魔力学第ゼロ法則の成立によってはじめて魔度計は測定器具と定義されるものである。


・ガラス製棒状魔度計(流体膨張魔度計)


 棒状のガラス容器内に例えば水銀、人魚の血、フェアリードロップといった魔法的流体を封入したもの。容器上部には不活性ガス(ラミアの溜息など)が封入されている。魔度の変化に伴う魔法流体の膨張(変形)を見ることで魔度を測定することが出来る。封入する魔法流体によって測定精度や使用環境の条件が変わる。特に、最高魔度と最低魔度による影響が大きいため、予想される測定範囲に合致した魔法流体を用いることが重要である。原理が比較的単純であり、測定も簡便であることから、身近で最も使われている魔度計の一つである。


・魔法対魔度計


 線状にした二種類の異なる魔法体(主に魔法金属)をループ状で繋ぐ。このとき、二つの接点に魔度の差があると励起魔力が発生する。この励起魔力はそれぞれの魔法体に与えられた魔度に差があるほど大きなものとなる。そのため、片側を解放すれば魔位差(魔圧差)の形で魔度を測定することが出来る。この【魔度差があると回路に魔圧が発生する】現象をジーバック効果と呼ぶ。ジーバック効果で生じる魔圧の大きさは使用された魔法体の種類と魔度差に依存するが、大きさ、形状には依存しないため、魔度計の形状や大きさにある程度の自由がある。


・抵抗魔度計


 魔法体の魔法抵抗値が魔度により変化することを利用した魔度計。魔法抵抗にどんな材料を使うかで細かな特徴は変わるが、総じて超高精度、極低魔度を測定できるといった特徴がある。半面、高魔度測定には不向きである他、精密であるがゆえに構築にある程度のノウハウが必要とされる。



 難しく書いたけど、どれも魔度を測るといった面では同じもの。一般的に軽く扱う場合はガラス製棒状魔度計を、学術的というか、ちょっとガチな感じで使う場合はそれ以外をって感じらしい。


 『なんだかんだで本格的な測定器具には抵抗魔度計を原理としたものが多いです。しかし、抵抗魔度計は高魔度での測定が難しいため、そう言った場合は魔法対魔度計が用いられています。使えるならば抵抗魔度計、そうでないなら魔法対魔度計といった風に使い分けることが多いでしょう。魔法対魔度計も精度は悪くありませんからね』ってアラヒム先生は言っていた。いずれにせよ、使用用途、目的に合った魔度計を使うことが重要であるらしい。


 座学の授業だったし、みんな早起きで眠いはずなのに、居眠りする人間は一人もいなかった。アラヒム先生がちょっと厳格だからか……と思ったけど、『こうもカビ臭いと寝られるものも寝られないの……』、『俺この前ちゃんと掃除しといてって言っといたじゃん!』とお子様二人に言われる。


 そういった意味では、週明けの授業がこの魔力学、いや、カビ臭い教室なのも悪くないのかもしれない。もちろん、鼻が人一倍敏感なロザリィちゃんは何度も俺のローブをすーはーすーはーくんかくんかしようとトライしていた。そんな様子もめっちゃプリティだった。


 夕飯食べて風呂入って雑談して今に至る。夕飯はみんなめっちゃ食べた。とにかくたくさん食べた。俺はシチューを二杯もお代わりしたし、ジオルドは贅沢にデザートにケーキを二つも食べていた。『うめえうめえ!』ってギルもジャガイモをしこたま食べていた。デザートもジャガイモだったんだけど、あいつ食べ物ってジャガイモしか知らないのだろうか。


 そんなギルは今日もやすらかにクソうるさいイビキをかいている。なんとなく天使の胡椒を鼻に詰めてみた。みすやお。

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