表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御局様の会社  作者: 七宝しゃこ
2/2

1、お辞儀をマスターしよう

まずは3人を並ばせると、私は大型の半円分度器を見せる。


「はい!会釈、敬礼、最敬礼!順番にやりましょう!まずは会釈!上司やお客様と廊下などですれ違った際の挨拶よ!はい!『こんにちは』」


すると、3人は三様の挨拶をし、特に西部にしべ君をぶん殴った。

えっ?拳でよ?

分度器高いんだから!


「何してるの!首を曲げるだけじゃないの!横柄なと怒られるわよ!大馬鹿者!」

「いってぇぇ!お……美代みよちゃん酷すぎる〜!」

「私は北原きたはら先輩!ついでに、御局様と言いかけたでしょう?」

「申し訳ございません!御局様!」

「ふざけるなら、即、退職届を書きなさい!」


言い捨て、2人に向き合う。


山南やまなみ君。貴方のお辞儀は堅苦しいけれど、きちんと出来ていました。会釈は貴方の腰から約15度。上手だわ。あとは緊張しないで硬さを抜きましょう。お辞儀も少しゆっくりとでいいのよ」


褒める。

そして、東雲しののめさんを見ると、微笑む。


「残念だったのは東雲さんね。貴方がしたのは敬礼になります。30度。お客様をお迎えした時や営業などであちらに伺った時にするお辞儀ね。15度だからもう少しあげましょう。廊下ですれ違う時に、失礼しますという感じで横を通り抜ける時に必要だから。でも、姿勢が……背中が丸くなっているのは良くないわ。心持ち胸を張るようにして、腰から曲げる……そう。上手だわ。腰から曲げることと、胸を張ることに注意しましょう」

「あ、ありがとうございます!」


頬を赤くする東雲さんに、微笑み返し、2人にもう一度会釈をさせる。


「はい。上手よ。この分度器を1回目から使うことがなくてよかったわ」

「美代ちゃん〜」


ヘタレとタラシと人をオバハン呼ばわり男は無視である。


「はい、次は、敬礼です。こちらはお越しになられたお客様に『ようこそお越しくださいました』と言って頭を下げるの」

「北原先輩〜」

「先程の東雲さんのお辞儀の位置である30度が、その位置だから、練習しましょう」

「済みませんでした!先輩!真面目にします!許してください!」


その声に振り返り、ニッコリと笑う。


「貴方1人にかまけている暇はないの。本当は私、本来午前で上がる予定だったのを、社長と部長と貴方達のそれぞれの課の課長に頭を下げられて、予定を返上して貴方達を教育しているのよ?残業代は会社から出るけれど、私は本来、今日の午後の予定を全部潰す羽目になったの。謝るなら潰れた予定、時間を返して頂戴」


西部君は息を飲む。


「ちなみに、本日の予定は、外国語の勉強、ボランティアの資格取得の講座に、点字の勉強。外国語は英語と中国語とイタリア語とドイツ語ね。西部君。次ふざけたことをしたら、即社長に報告します。私も、貴方に構う余裕はないわ。そんなに暇じゃないのよ。手話の勉強もしてるし」

「……す、済みませんでした」

「まずは、先輩に謝る時は、『申し訳ありませんでした』です。ほら、時間はないの!とっとと位置に戻りなさい!」


叱りつけ、今度は大人しくなった青年の会釈をビシバシと直し、敬礼、そして最敬礼を繰り返す。

ちなみに、最敬礼は45度。

謝罪の時とか、お世話になった方に敬意を示す為にする丁寧なお辞儀。

男性は手は横でも良いけれど、女性は前で手を重ねてお辞儀をするととても上品に見える。


そして、逆にそれ以上頭を下げることは品位が下がるとも言われているので、何回も繰り返し、特に首だけを下げようとする西部君を徹底的に直し、立つ姿勢から直すことにした。

姿勢が悪いと余計に、特に怒っている人にとっては見下されている、さっきのようにふざけていると取られても仕方がない。

マナーを身につけるなら自分にされてどう思うか……これを思うのも大事だと思うの。


つまり、さっきの西部君を本気で怒っているのよね、私……なんて、お子様かしら……?


しばらくビシバシと調教……おほん、教育して、何とか見られるようになった3人に、


「はい、何とか3人とも、今日は合格。明日は、名刺交換の特訓よ。名刺入れと名刺を持って来なさいね。時間はそれぞれの課長に伝えておくわ」

「名刺?最近そんなの使いませ……」


ヒールのかかとで西部君を黙らせる。


「最近は名刺交換は減っているとも言われているけれど、地域によってはゆるキャラをモチーフにした名刺などが印刷されていて、交換が流行しているのよ。なかったら名刺ケースを買って来なさい。入社時に渡された名刺をちゃんと持ってくること。……もう一度聞きたい?もう一度っていうのは、普通会社ではあり得ないのだけど……?」

「いいえ!解りました!」

「ありがとうございました」

「また明日もよろしくお願いします」


西部君だけ何故か最敬礼で、部屋を出て行ったのを見送り、私はこめかみの痛みを堪える為に、我慢していた頭痛薬を口にし、ペットボトルの水を飲み、


「……本当に、一から教育なの?最近の大学ってマナーレッスンもしないの?最悪……」


と呟いたのだった。

愚痴は聞き流してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ