五話 父親としての仕事
・・・実戦パートになる、予定だったんです。いえ本当に。
ちなみに次のお話は外伝なので、また実戦パートが伸びることになってしまいました。
実戦パートの次は何ともダークというか何というか・・・な、お話に入っていく予定なので苦手な方はご注意下さい。
その内本文を弄るかもしれませんがご了承下さい。
「―――うし、ちょっくら俺と本気で戦うか」
いつも通り、サウロスと木剣を打ち合った後唐突にそう言われた。
基礎トレーニングや素振りも終わり、サウロスとの模擬戦も終わったので本来であれば今日の鍛錬は終わりのはずだ。
それはサウロスも知っているはずである。
なのに、もう一度戦おうと言ってきた。サウロスも決してバカではない。
そこには何か理由があるのだろう。
だが本気で模擬戦をするのはあまり気は進まなかった。
正直、今の俺が本気でサウロスと打ち合ったら余裕を持って勝ってしまえる自信があるからだ。
ここ最近ではそう思える程に俺は強くなっていた。
「えっと、稽古なら今やったと思うのですが」
「いや、今の稽古はお前も本気じゃなかっただろ?」
「そんなことはありませんが・・・」
・・・うん、バレてた。
確かにサウロスの父としての尊厳を守るためという事というのもあるが、俺自身色んな技などを試していたからというのが主な理由だから別にふざけていたわけじゃないんだけどね。
でも、やっぱり手を抜いてることは見抜かれてたか。
「そのあたりの問答はまぁいいとしてよ。取りあえず最後に一回、立ち会え」
有無を言わせない口調でそう言ったサウロスは、颯爽と自分の立ち位置へ戻ってしまった。
(・・・こうなったらしょうがないか)
息子として、そして弟子として。
あんまり一方的に倒す事は進んでやりたいとは思わなかったんだけど・・・本人がそれを望んでいるのだから俺もそれに応えよう。
「・・・分かりました父様」
渋々ながらも頷いた俺も自分の立ち位置へと行く。
最近の打ち合いを鑑みるに俺とサウロスの実力差は結構開いているはず。
恐らく勝負は一瞬だろう。
「んじゃいくぜ?」
「お願いします」
いつもは開始の合図をしてくれるリーフィアが家の中へ先に行ってしまったので、お互いに開始の意をとる。
と、サウロスの周りの空気が変わったのを感じ取った俺はいつものように剣を構えたのだが・・・。
「・・・・うっ!?」
その瞬間、俺の体は自分の体ではないかのように固まってしまっていた。
そう、本気で立ち会えば余裕で倒せてしまうだろう思っていたサウロスが怖くて仕方なかったのだ。
何故かは分からない。
実際に父さんはまだ打ち込んできてないし、動いてもいない。
なのに、足が震える。
なんで・・・なんでだ?!
「・・・・ッ」
「!?う、あぁああああ!」
俺から打ち込んでこない事に痺れを切らした父さんが、ついに自分から動いた。
それと同時に俺も動く。
動くしか、なかった。
いつものように、剣筋を考えるとか技を試すとか。そんな余裕はどこにもない。
ただただ恐怖に駆られて一心不乱に身体を動かす。そんな感じだ。
当然、そんな剣が当たるはずもない。
滅茶苦茶な軌道で繰り出された俺の剣は空を切り、逆に、父さんの剣はピタリと首筋に当たるところで止まっていた。
――――惨敗だ。
本来なら、恐らく勝てるだろう相手に。
恐怖で身体が全く思うように動かなかった俺はたった一太刀で降参せざるを得ない状態に持っていかれたのだ。
これを惨敗と言わずして何というのか。
「・・・参り、ました」
呆然とした俺は、途切れ途切れになりながらもそう宣言する。
そうして、お互い本気でやろうと言った立ち合いが終わった。
―――――――――
ショックだった。
負けたことももちろん悔しいが、何より余裕で勝てるだろうと甘い事を考えていた自分に対して腹が立つ。
仮にも父さんは王都で騎士をしていたような人だ。
俺みたいな子供とは違い、自分の剣で他の人を守るっていう責任のある仕事をしてきた立派な大人なのに・・・たかが数年鍛錬を積んでいただけで強くなっていた気になっていた俺は何を思いあがっていたんだろう。
そういった様々な感情が自分の中で渦巻き弾かれた剣をしまう事もせず俯いてしまう。
すると、そんな俺を見かねたのかサウロスが気まずそうに声を掛けてきた。
「あー・・・。まぁそんなに落ち込むなよ。ってもお前もまだ七歳だ。そんなにすぐ感情の切り替えができるたぁ思わないけどよ。ま、お前が考えていた通りお前がいつも通りの動きができてりゃ俺はもうお前には勝てねぇ。七歳に勝てない父親ってのも情けねぇけどな」
「・・・では、何故ボクは勝てなかったのでしょうか」
確かに、今回の立ち合いはいつも通りの動きが出来なかった。
何故か、サウロスが酷く恐ろしく感じたのだ。
しかし理由は分からない。
別にサウロスが真剣を持っていたわけでも魔法を使ったわけでもなさそうなのに。
不思議そうに尋ねた俺に対しサウロスは満足そうに頷いた。
「そりゃな、お前が俺の出した殺気にビビったからだよ」
「殺気・・ですか」
殺気とは、あの殺気だろうか。
こう、殺ってやるぜぇ!っていう気満々の人が出すらしいアレ?
お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない!みたいな時に出るような。
何とも漫画脳な例えだが俺が知っている殺気についての知識なんてそんなもんだ。
殺伐としたような世界とは無縁な世界で生きてきたので仕方のないことだろう。
「あぁ。確かにお前は強い。けどな、練習での立ち合いが強いやつなんざごまんといる。だがそんな奴らでもいざ本番になったら実力の半分も出せず死んでいく奴なんていくらでもいるんだ。騎士をやってて腐る程見てきた光景だな。じゃあ何故実力が出せないのか?それは単純に実戦経験がねぇからだ。鍛錬なんかじゃ、本気で自分を殺そうとするやつの相手をする事はないからな。けど、実戦となりゃ相手は自分を殺そうとしてくる。鍛錬しかしてねぇやつらはその空気の違いにビビって上手く動けなくなっちまうんだよ。さっきのお前みたいにな」
長く語ったサウロスは「ま、中にゃ初戦から全然平気なやつもいるけどな」と付け加えた。
でも、そうか。
要するに俺はサウロスに殺気を向けられて・・・自分を殺そうとする気配にビビって上手く動けなかったのか。
そう聞けばなんだか男として情けない気がするな。
「お前がいずれ、冒険者になるのか剣士になるのか、それとも俺と同じ騎士になるのかは分からねぇけどよ。そのどれになるにしても命を懸けた戦いってのをする事になる。剣に関しては俺からお前に教えることはもうないが、最後にこういうことは教えとかなきゃと思ってな。俺も親だ。息子には死んでほしくないからよ」
そう言ったサウロスの目は確かに優しかった。
言葉は荒いが、本当に俺の事を想って言ってくれているのが伝わってくる。
でも・・・そうだよな。
考えてみれば、俺が強くなろうと思ったのはこの世界で生き抜くためだ。
決して、練習での打ち合いに強くなるためではない。
となれば、いずれ俺も自衛のために他者を手にかけたり、その逆で俺を殺そうとしてくる輩と対峙することになるだろう。
それが、この世界で生きていくという事なのだから。
今回、サウロスは打ち合いを通じてその事を伝えたかったのだろう。
・・・よし。
「父様。ボクに実戦を経験させてくれませんか」
この世界で生きていく。その覚悟を改めた俺はそう言った。
するとサウロスも、待ってましたとばかりニヤリと笑う。
「うし、んじゃあ―――――」
ここまで読んでくださった方に感謝を
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