四話 悔しくなんてないもん
本来、この話で実戦する予定でしたが一話伸びてしまいました。
今回の話しは実質父であるサウロスのパートです。
魔法の才能がないと分かったあの日から、俺はひたすら剣を鍛えた。
それはもう必死に。
決して、折角魔法がある世界にきたのに使えなかった事が悔しかったわけではない。
いや本当に。
とにかく、来る日も来る日も剣を振るった。
一振り一振り、もっといい動きがあるのではないか。もっと最短の軌道があるのではないかと考えながら。
そうして気が付けば二年が経過していた。
この世界へと転生してから七年が経過したわけだ。
「お兄様、飲み物を用意しました!」
そう言って嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくるリーフィア。
二年前まではたどたどしかった口調も最近では大分滑らかになってきていた。
俺としては一歳しか歳は違わないのだしタメ口でも全然良かったのだが、そこら辺は厳しいサーシャさんである。
そういうところの線引きを曖昧にすると教育にも良くないと、断固として譲らなかった。
実際リーフィアにも聞いたところ別段敬語が嫌だというわけではなかったので、口調に関しては俺から何も言わないことにしていた。
母親がそういう教育をしていて、子も嫌じゃないというのならわざわざ俺が口を出す事でもないと思ったからだ。
「うん、ありがとうリーフィア」
「ううん!お礼なんて別にいいよー!あ、いいですよ!」
・・・こうしてたまに敬語が抜けるのが可愛いからというわけではない。
「よし、素振りは終わったな。じゃあ父さんが相手をしてやろう!」
そういうやいなや、意気揚々と木剣を手にするサウロス。
その表情はとても嬉し気だ。
やはり元は騎士として働いていたような人間なので、主な仕事が領主だけというのは退屈なのだろう。
俺が鍛錬をしていると嬉しそうに自分も参加してくるのがその証拠だ。
「はい、よろしくお願いします父様」
俺としても相手がいるに越したことはないのでサウロスの申し出を断ることはない。
剣を構えた俺を見て一つ頷いたサウロスは少し距離を取るとリーフィアに目配せをする。
視線を受けたリーフィアは、小声で「お兄ちゃんがんばれー」というと気を取り直すように大きな声で「はじめっ」と宣言した。
――――――――
唐突だが、俺の息子は天才だ。
王都で同僚だったリニアと結婚し、外れの村へと移住してから数年。
幾度となく行った行為が功を奏したのかリニアは子を身籠った。
こうした関係になる前からお互い子供ができたら剣を教えたいといっていたくらいだ。
子を身籠ったという事実にリニアも俺もそれは喜んだものだ。
そうして間もなく出産を迎えた。
産婆によって抱き上げられた我が子を見た時、思わずうるっと来てしまったのは死ぬまで俺だけの秘密だ。
ともあれ待望であった我が子を得た俺達であったが、生まれてきた子は何とも不思議であった。
それは見た目の話しではない。
むしろ見た目はリニアの血を良く継いでいて、性別を女の子だと間違えそうになる程だった。
不思議だったのはその雰囲気で、俺の考えすぎだと思うが初めて俺が我が子を見た時に見返してきた瞳が知性を宿しているように見えたのだ。
赤子のはずなのに、これから普通にしゃべり始めるのではないか。
そんなありえないことを思う程何とも不思議な瞳をしていたのだ。
しかしそんな俺とは違い何の疑問も持っていなかったのだろうリニアは嬉しそうに頭を撫でていた。
その姿を見て勘違いだろうと頷いていた俺だったが、それでも心のどこかには疑う気持ちもあった。
が、俺の疑問を裏切るように我が子の口から出たのは声にならない声。
それこそ、赤子らしい「あー」だか「うー」だかという声だった。
やはり俺の勘違いだったのだ。
そう思った俺は改めて我が子を得た嬉しさを実感した。
――――――――
我が子の名前はリニアと話し合った末に「ルカ」にした。
俺はもっと男らしい名前にしたかったのだが、見た目があまりに可愛らしかったため中性的な名前のほうがいいだろうというリニアの意見に渋々賛成したのだ。
そしてルカが一歳になった頃。
ルカはたどたどしいながらも話始めたのだ。
普通、単語などを呟くところから始まると聞いていた俺たちはその事に大層驚いた。
リニアに至っては「きっとルカは天才なんだわっ」と小躍りするくらいに喜んでいた。
対する俺はというと、驚いたことには違いないがそれよりも先に「やっぱり」という気持ちが先行していた。
感じていた違和感がスッと消えた瞬間だ。
きっとこの子はリニアのいうように天才なのだろうと。
不思議とそこには疑問を抱くことなく俺の中で納得する事ができた。
――――――――
二歳になったルカはユグドに対する知識を貪欲に吸収していった。
まさしく、吸収するという言葉が相応しいだろう。
何せ、こちらが教えることを乾いたスポンジに水を与えた時にのようにどんどん覚えていくのだ。
この頃になると、ルカの天才具合に慣れてしまっていたリニアはその事にあまり驚くことはなかったみたいだが俺は薄ら寒い感覚を覚えていた。
この子は将来、どうなるのだろう、と。
それは親としての楽しみもあり、一人の騎士として、様々な人を見てきた者としての純粋な興味でもあった。
そうでなくとも、人に教えるという事が好きな俺達だ。
ルカが求める知識をリニアと共にどんどん与えていった。
そしてある時に、あまりの成長の速さからつい昔からの願望が口に出てしまう。
「そろそろ剣を握ってもいい頃合いだな」と。
それを聞いた我が子の反応は「よろしくお願いします」という肯定的な返事だった。
その返事に思わずニヤリとしてしまったのを今でも覚えている。
そしてルカが三歳になる頃。
ついに剣術を教えることになった。
勿論、この歳で真剣なんて持てるわけないので子供用の木剣をつかって、だが。
そうしていざ教えてみると、意外な結果が待っていた。
顔もリニアに似て女みたいなルカだが、体の線も細い。
なので運動などは苦手なのだろうと勝手に思っていたのだが、いざ基礎から体の使い方をレクチャーしてみると初心者とは思えない程綺麗な動きを見せたのだ。
俺は歓喜した。
この子は今から鍛えればきっと将来物凄い剣士になる、と。
それからというもの、毎日剣を教えた。
そんな中、意外だったのはリニアだ。
結婚する前には自分も剣を教えたいと言っていたリニアだったが、母親になると心境が変わったのかあまり俺とルカの鍛錬には口出する事もなくにこやかに見ている事が多かった。
それでもたまに教えたりはしていたが。
そうして鍛錬を初めてどれくらいになるだろうか。
俺はこの子の才能に再び驚くことになる。
剣についての天賦の才能があるのは確かなのだが、本当に凄いのはそこではなかった。
何せこのルカは、この歳にも関わらず教えたことに対して自分なりのアレンジを加えるということをし始めたのだ。
それも独りよがりなアレンジではなく、こちらの教えたことを踏まえた上でだ。
そして剣を打ち合っていると、たまに俺も知らないような技術を使ってくることがある。
我が子ながら凄まじい才能だと震えた。
この子には、俺の知っている全てを教えよう。
そう決めた日でもあった。
―――――――――
そしてルカが七歳となってから、俺は全力で挑んでも殆どルカに勝てなくなっていた。
いや、結果だけを見れば引き分けに終わることが多い。
しかし、必死に打ちかかる俺に対してルカは日によって様々なことを試すように打ってくるのだ。
明らかに、倒すという意味での全力ではない。
これでも王都ではそれなりに名の知れた騎士だった俺だ。
いくらルカに勝てなくなったとはいえ、そのくらいのことはすぐに分かる。
だが不思議と悔しいという気持ちはあまりなかった。
無論一人の剣士としてその才能に嫉妬しないと言えば嘘になるが、それよりもとんでもない剣士を生み出したという満足感のほうが大きかったのだ。
剣や知性に対してこれだけの才能があるのでもしやと思っていた魔法に関しては、残念ながら才能はなかったみたいだがこれだけ剣が扱えれば歴史に名を残すことも不可能ではないかもしれない。
俺はそう考えるまでになっていた。
しかし父親のしての威厳もある。
「父様はやっぱり強いですね」とこちらに笑いかけてくるルカに対して「あったりめぇだろ?俺を誰だと思ってんだ」と自信満々に返した俺だったが心内では違う事を考えていた。
今のルカに、剣に関して教えられることはもうない。
となれば俺から教えられることはあと一つ。
それは「実戦」に対する心構えとそれを経験させてやることだ。
ふむ、と少し考え込む仕草をした俺は、不思議そうな顔するルカに向かってこう言った。
「――――うし、ちょっくら俺と本気で戦うか」と。
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