第90話 白蛇の襲来!?
「では、詩織ちゃんの再テストの合格と、私たちの短~いけど充実した夏休みのスタートを祝って、乾杯しましょう! カンパーイ!」
「佳乃先輩、ありがとうごさいまーす!」
佳乃と詩織はガラスのコップを軽く合わせると、ごくごくと麦茶を飲み干した。
冷房のかかっていない部屋は暑く、のどがカラカラに乾いていたのだ。
「ほら、庸平も乾杯しよ!」
「お? ……ああ」
空になったグラスと合わせると、カーンと涼やかな音色が響いた。
慌てた様子で、詩織は二人のグラスに麦茶を注ぐ。
「ねえ、翔太もそんな部屋の隅っこにいないで、先輩たちとお祝いしようよ!」
「いや、今日の俺は監視役だからな! 詩織が危ない目に遭わないように、ここで見張っててやるから、安心しろ!」
詩織は小さな肩を落として、はあーっとため息を吐く。
「すみません、先輩。翔太ったら、いつもあんな感じなんです」
「詩織ちゃんも苦労しているのね――」
「おい、今『も』を強調して言ってなかったか?」
「いいの! これは女同士の話しなんだから!」
「はー?」
庸平はすこしムッときた。
「あ、そうだ! 豊田先輩の猫ちゃんたちにもお水をあげなくちゃ……」
ハッとしたように、詩織は立ち上がろうとするも、それを庸平が手で制した。
「あいつらは、何も口にしなくても大丈夫なんだよ」
「ええーっ!? だっておはぎをあんなに沢山食べていたじゃないですかー?」
そう。三匹の猫たちは、山盛りになっていた詩織の母の手作りおはぎのほとんどを、争うように平らげてしまっていたのだ。
「あれはな、きっと俺たちが旨そうに食ってたから、自分たちも喰ってみたくなったんだろう。魔物のやつらは、意外と俺たち人間のことに興味津々なんだよ」
「そうそう。付き合ってみると意外に可愛いところもあるんだよー」
「佳乃は魔物に気を許しすぎだからな! そのうち喰われちまうぞ!」
「ええっ?」
そんな二人のやり取りを聞きいて、詩織は一人腕を組んで考え事を始めた様子。
「んー、魔物や悪霊は見つけしだい退治するのが翔太と私の方針なんですけどー、んー、魔物が可愛い……? んー、困りましたぁー……」
「し、詩織ちゃん大丈夫? あまり深く考えすぎると頭が爆発しちゃうよ?」
佳乃のその言い方はどうかと思う庸平だったが、ここは聞き流すことにした。
それよりも気がかりなのは、1年生ペアの魔物は退治するものという考え方である。
「人間にも良い奴と悪い奴がいるだろ? 相手が魔物だって同じことなんだよ」
「はあー、そう言われましても、魔物は魔物……この世に存在してはいけないモノなのでぇー……」
「人間にだって、この世に存在してはいけないという奴がいるだろ!」
「佳乃せんぱーい! 豊田先輩がなんか怖いことを言ってますよぉー」
「ごめん詩織ちゃん……私も庸平と同じ考えだから……」
「ええーっ!?」
詩織はまるで万歳をするように、全身で驚きを表した。
明るい世界を歩んできた詩織と、暗い過去をもつ二人。
両者の間には深い溝が存在しているのだ。
「わ、私……猫たちに水をあげてきますね!」
気が動転してしまったのか、はたまた気まずいこの場から逃げ出したくなったのか。
魔物は何も口にしなくても構わないという庸平の言葉を無視するように、詩織は縁側に座っているはずの猫たちのもとへと向かっていく。
「……おい、いいのか? あんなこと言っちゃって」
「ど、ど、どうしよう! 私、詩織ちゃんに嫌われちゃったかなぁ~?」
庸平が小声で声をかけると、佳乃が身を乗り出して、机越しに庸平の腕にすがりついた。
「そんなに後悔するなら、適当に話しを合わせておけばいいのに。俺たちはそうやって、これまでも危機的状況から逃れてきただろう?」
「だって、白虎さんなんかよりも、よっぽど山水中の人たちの方が魔物みたいだよー」
「お、おう。それは俺も同感だが……少し離れろ! あいつが見ている」
「あっ……」
部屋の隅から、翔太が腕を組んでじっと二人の様子を観察中。
二人と目が合うと、すっと視線を落とした。
「なんだあいつは……急に大人しくなったな」
「そうね……」
二人は首を傾げた。
そこへ詩織が血相を変えて飛び込んで来た。
「きゃあぁぁぁぁー! 蛇がぁぁぁぁあああー! 蛇が来たぁぁぁああー!」
外を見ると、白い大蛇が首をもたげて、二つに分かれた赤い下をチョロチョロと出し入れしていた。




