第84話 恋愛成就の神様
翌日は私が顧問をしている吹奏楽部の活動が長引いて、帰宅がいつもよりも遅くなってしまった。急いで部屋に入りベランダの窓を開けると、カラスの彼がいつものように入ってきた。
「あれ、ちょっとやつれていない?」
私が声をかけると、「カー」と鳴いてガラステーブルにちょこんと上がった。
「ほら、羽がちょっとばさばさした感じになっているよ。大丈夫なの?」
カラスの頭をそうっと撫でながら声をかけると、また「カー」と鳴いた。
そう言えば……今朝の『もうすぐ寿命を迎える』という彼のことば……
もし、あの話が真実ならば、目の前にいる彼はまもなく寿命の時を迎える。
その前に私の願い事を叶えてくれようとしている?
恋愛成就の神様が?
「ううん、そんなおとぎ話のようなことが私の身に起きるわけがないわ」
私は頭を振って、食事の準備を始めた。
しばらくしてケイタイに着信があった。また実家の母からだ。
「ああ、その話…… うん…… うん…… えー、断ってくれたんじゃ…… えっ、そうなの? ……でもやっぱり困るから、私職場に好きな人がいるって言ったよね? ……うん、そう…… うん…… おやすみなさい」
先日のお見合いの話の続報だった。
先方に私の写真を送ったらえらく気に入ってくれたらしい……
いつ撮った写真だろう?
成人式の時のかな?
あの写真は反則よ! 写真館の人が腕によりをかけて盛ってくれた作品だし。
どうしよう……私、お見合いするの?
職場に好きな人がいるというのは、実は本当の話。
彼はサッカー部の顧問をしている。
イケメンではないけれど、さわやかな笑顔がすてきな男性。
でも、土日も祝日も関係なく部活三昧の生活をしているみたい。
付き合ってもどこにも連れて行ってくれなさそう……
よく私のことをチラチラ見てくるから私も気になっていたんだけど。
なんだか煮え切らないのよね。
あー、でもお見合いもねー…… 気が乗らないわ。
* * * * *
翌朝もうつらうつらした時間にイケメンの彼といちゃいちゃしている私……
「ね、恋愛成就のお願いの相手、決まったかな?」
こんな煮え切らない私にイケメンの彼は優しく問いかけてきた。
「ごめんなさい……まだ考え中なの……」
「じゃ、明日まで待ってあげる! 必ずお願いを言ってね。チュッ」
彼はいつものとろけるような笑顔で私のおでこにキスをしてくれた。




