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第71話 誤解と真相と

 しかし、しゃべり始めるのはやはり智恵子の方だった。


「豊田君遅いね、あの美人の先生に連れて行かれたっきり帰ってこないじゃん」

「そうね……何しているんだろう……」


 佳乃は立ち上がって窓の外を見る。

 窓からは校門が見えるが、そこには人影はなかった。


「やっぱり心配?」

「なっ、なに言っているの! 相手は先生でしょう?」

「わかんないよ-、男って一見して(かげ)のある美人には弱いからねー」


 智恵子は佳乃の顔を悪戯っぽくのぞき込んだ。

 佳乃は庸平の話になるとすぐに顔に出る。それが面白い。


「あの-、それって私のクラス担任の大橋先生のことですか?」


 小動物のような詩織が会話に入ってきた。勉強の邪魔をしないようにと、せっかく気を利かせてこちらからは話しかけずにいたというのに……。この程度の集中力しかないから全校でただ1人、英語の補習を受けることになるのだろう。


「そうそう、その大橋先生がねー、佳乃ちゃんの彼氏を連れて行っちゃったのよ!」


 智恵子は佳乃を指さして答える。

 すると詩織は、ぱあっと明るい笑顔になり――


「先輩は彼氏さんがいるんですね? 坂本先輩可愛いですものね! うらやましいです!」

「な、何言っているの。詩織ちゃんの方がずっと可愛いじゃない!」

「そんなことないですよ、坂本先輩の方が数段可愛いです!」

「はいはい、2人とも可愛い可愛い!」


 互いに褒め合っても誰も得しないこの状況を、ぱんぱんと手を叩いて智恵子が止めたちょうどそのとき――


 ドアが激しい音を立てて開かれた。

 図書室にいる全員の視線が入口に集まる。


「詩織は無事か――!?」


 聞き覚えのあるその声の主は――修学旅行の初日に出会った少年、桜木翔太であった。何という運命的な再会だろうか!


「い、いきなりどうしたの翔太? 私はただここで英単語の練習をやっているだけだよ?」


 呆気にとられている詩織の腕を、桜木翔太は強引に引っ張った。

 

「きゃあ! 何するの翔太ぁー!?」


 翔太は詩織を自分の後ろに隠すように、佳乃の前に立ちはだかる。

 そして人差し指をビシッと突き出し、


「黒魔術の女! ここでお前は何をしている!」

「はあっ? 何なのアンタ失礼ね……あっ!」


 佳乃も彼のことを思い出したようだ。

 

「あんたは京都にいた黒装束に変身したヘンタイ少年ね!!」


 佳乃も人差し指をビシッと突き出し叫んだ。

 互いに指を差したまましばらく静止。


「えっ!? 翔太は坂本先輩と知り合いだったの? しかも京都で!?」

「あっ……うん。おまえが白加味(しらかみ)神社で踊りの稽古をしているときに……」


 翔太は先程までの勢いが噓のように、頭をぼりぼりかきながら答えた。


(シラカミ神社って……どこかで聞いたような……)


 智恵子は腕を組んで考え込む。

 ふと京都の旅館のロビーが浮かび上がってきた。  


「詩織ちゃん、白加味神社って二匹の龍が封印されていることになっていた……」

「あの神社ね!」


 佳乃も同時に思い出したようだ。


「あのう、坂本先輩?」

「どうしたの詩織ちゃん?」

「翔太が京都でご迷惑をお掛けしたようでごめんなさい!」


 詩織はぺこりと頭を下げた。


「ねえ、翔太も謝って! 坂本先輩は優しいお姉さんなのよ!」

「ダメだ詩織! おまえはダマされているぞ、この女は黒魔術を使う悪い女だ!」

「何を言っているの翔太! 坂本先輩は黒魔術なんて……」

「やっているわ、黒魔術なら――」


 佳乃が言った。

 詩織は『えっ!?』と動きを止めた。


「でも、それは私の趣味なの。決して悪事をはたらくためではないわ。結果的に二匹の龍が中学校の校舎を破壊して私たちの学校はこの中学校と統合することにはなったけれど、それは結果論であって私の責任はない……わよね!?」


 そこまで言って、佳乃は動きを止めた。

 クラスメートと井上先生の視線が突き刺さっているのが分かったのだ。


 額に汗がにじみ出る。


 助けを求めるように顔を向けてくる佳乃の様子を智恵子はじっと見つめていた。

 心のモヤモヤが一気に晴れていくのを感じていた。   

 それは快感にも似た感覚。




 ――そう、智恵子は、佳乃のこの困った顔が見たかったのだ――




 詩織と翔太は顔を見合わせていたが、意を決したように詩織から声を出す。


「あの……先輩、二匹の龍って、黄金の龍と真っ黒な龍のことですか? それなら私と翔太が土地神様の力で封印していたはずですけど……ねえ翔太?」


「そ、そうだ。二匹の龍の魔物は、詩織の従姉(いとこ)がいる京都の白加美神社で封印したやつだ。しかし……」


 翔太は目を泳がせはじめた。

 その様子を詩織は見逃さない。


「翔太! また私に隠し事をしている?」


「うっ……、じつは俺たちが京都から帰ってきて土地神様に怒られちまったんだ。むやみに魔物を封印してはいけないって。だから大橋先生と一緒に空に放してしまったんだ。京都で俺が始末した赤鬼とかいう魔物と一緒に――」


「そんな大事なことを――」


 詩織は翔太に文句を言う。それを祥太があれこれと弁明する。

 その様子を眺めながら、佳乃は頭の中を整理していた。

 

 修学旅行先の京都の伏見稲荷大社で少年と出会い、その夜に旅館で戦った。

 その際に少年は赤鬼を退治したと言っていた。

 白虎の仲間の龍は白加美神社にいると知り、庸平と二人で京都旅行に行くことを密かな楽しみにしていた。

 しかし、修学旅行の翌日に赤鬼と二匹の龍は中学校の屋上に落下した。


 その一連の動きに詩織と翔太が関わっているということなのか――


 不明な点は数多くあれど、そんなところだろう。


「まあ待て詩織! 話はこの黒魔術の女を退治してからだ!」

「まだ分かっていないの翔太ぁー! 坂本先輩は悪い人じゃないから!」

「ありがとう詩織ちゃん! 私を信じてくれるのね……」

「任せてください先輩! 私は先輩の味方です!」

 

 詩織は佳乃の手を握って、真っ直ぐに見つめる。

 佳乃は涙ぐみながら、強く握り返す。

 その様子を智恵子は苦々しい表情で見ている。


「でも、その女が悪い黒魔術師ではないとしたら……この部屋にいる一人ひとりに憑いている悪霊は誰の仕業だというんだ……?」


 翔太は首をひねった。


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