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第69話 ぱっつん前髪

 智恵子は書棚を回りお目当ての本を探しつつ、一人黙々と数学のワークを解いているであろう佳乃のことを考えていた。

 自分が話し相手になってやらなければ、また良からぬ事を考え始める。智恵子はそれを心配していたのである。


 ようやく探し物が見つかり、佳乃が座るテーブル席へ向かうと、佳乃は時間を持て余すようにぼうっとしているように見えた。

やはり彼女は勉強は二の次。孤独をカムフラージュするために数学のワークを開いていたのか……。智恵子はそう思ったが、それは彼女の勘違いだった。

 意外なことに佳乃は誰かとしゃべっていた。

 対面に座る小柄な女の子と会話をしていたのだ――


「余計なお世話なのかもしれないけど、あなたは英単語の練習をしているのよね?」

「はい、そうですが。それが何か?」


 佳乃の問い掛けに怪訝な表情で聞き返すぱっつん前髪の小柄な少女。

 彼女は山ノ神中学校で唯一の英語の補習を課せられた神崎詩織である。


「英単語の暗記って、日本語の方を書いてもあまり効果がないと思うのよね。ううん、全く無意味というわけではないとは思うけれど……」


 佳乃の言葉を聞いた少女は『ええ――ッ!?』と大仰に驚いている。

少女の書いているプリントをのぞき込むと、たしかに英単語の下に日本語を10回繰り返し書いて練習しているようだ。


「でもぉー、これ英語を日本語に直す問題なので、答えは日本語なんですよ?」


 少女は周りを気にしながら小声で訴えかけるように話す。

 まるで小動物のような仕草が可愛い。

 しかしそれはこの子の計算かも知れない。

 そう直感した智恵子は少女の隣に腰をかけ2人の様子を傍観することにした。


「それでも英単語を書き取りするのよ。そして書きながら声に出して読むの。そうすれば早く覚えられるよ?」

「そ、そうなんですか? ありがとうございます先輩!」

「いえいえどういたしまして。あなたこの学校の……1年生?」

「はい! 神崎詩織と言います。先輩達は隣村の学校の方達ですよね?」

「ええ、ここにいるのは皆3年生。ほとんどのメンバーが集まっているわ。私たちの学校、3年生は18人しかいないの」

「本当に小さな学校なんですね……あの……もしかして先輩は学級委員長さんですか?」

「わ、私が? ととと、とんでもないない!」


 佳乃は若干うわずった声を上げ、両手を横に振って否定した。


「ふふーん、佳乃ちゃん良かったわね、頼れる先輩って思われたみたいね!」


 佳乃の反応が面白くて、智恵子はついに声をかけてしまった。

 ぱっつん前髪の小さな少女、詩織は智恵子の胸元から目が離せないという感じで横からじろじろ見てきた。智恵子は胸の大きさを自慢したことはないが、同性に羨ましがられるのは嫌いではない。


「ちょっと冷やかさないでよ。あっ、ごめんね。私は山水中3年の坂本佳乃。学級委員じゃないけれど……似たような立場の人間よ。そして隣にいる胸が重そうな子は――」

「佳乃ちゃんの親友、長谷川智恵子よ。よろしくね詩織ちゃん!」


 智恵子が手を出すと詩織は素直に応じるが、握手をしながらまだ智恵子の胸元を気にしている様子だった。

 同時に『委員長に似たような立場』って何だろうと想像して笑いが止まらなくなった。



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