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第66話 山ノ神村へ

 夏の太陽が燦々とふりそそぐ日中とはうって変わって、山間の村の朝は清々しい。

 豊田庸平と坂本佳乃、そして長谷川智恵子の3人は自転車に乗り、農道を走行している。

 庸平の自転車の前かごには、学生かばんと赤鬼が座っている。


 今日は夏休みの初日。


 本来なら家でのんびりと過ごしているはずの彼らが、制服に身を包み黙々と自転車を漕いでいる。


 2学期から彼らの中学校は隣の村の学校と合併することが正式に決まり、一連の騒動により休校となった分の補習が夏休み中に行われることになったのだ。


 彼らの住む山水村は山に囲まれた地形である。唯一開けている方角が南西方向。その方角に山ノ神村がある。従って、山水村の住人がどこかへ行くためには必ず山ノ神村を通過しなければならない。山水村と山ノ神村は切っても切れない関係にある。 


 起伏のある山水村に比べ、比較的平坦な土地が多い山ノ神村は昔から稲作が盛んである。道の両側には稲の緑色が映え、朝の澄んだ空気とともに頬に当たる風が心地よい。


「ねえ智恵子、すごく立派な神社があるわよ?」


 佳乃は振り向いて、指を差した。

 『下賀美神社』という立て看板と、その奥に立派な鳥居が見える。


「佳乃ちゃん……それって、うちの寺と比較して言ったのかな?」


 普段なら笑って済ませるはずの智恵子が不機嫌な表情を見せた。

 すごく立派な神社という佳乃の何気ない一言が智恵子の胸に突き刺さる。

 彼女は寺の娘としてのプライドをもっているのだ。


「ごめん、別に深い意味はなかったのよ?」

「ふーん、そうかしら……」


 智恵子は一度顔を背けてから、すぐに笑顔を作った。

 佳乃は安堵した。

 後ろを走る庸平の自転車カゴの上で、赤鬼は智恵子の様子をじっと見ていた。


 下加美神社から更にたんぼ道を進む。

 佳乃の家の前で集合してから自転車を漕いで30分。

 ようやく山ノ神中学校の校舎が見えてきた。


 3階建ての校舎は新しく、廃校となる山水中学校とは比べものにならないぐらい立派な佇まいをみせていた。


 石造りの正門の前には、若い女性の先生が立っていた。


 セミロングの髪に口元にほくろのある彼女は、整った顔立ちをしているが、どこか影のある印象。年は20台後半といったところか。

 ピンク色の音符マークが入った白地Tシャツにエンジ色のジャージを羽織って、腕を組んで立っている。まるで庸平たちの侵入を拒むかのように。


 庸平は嫌な予感がした。

 そのまま何食わぬ顔で通過しようとしたら……


「ねえキミ、そのカバンの中身……先生とーっても気になっちゃうんだけどぉ-。何が入っているのかな?」


 彼女は一見穏やかな表情で、しかし眉間にしわを寄せて庸平に話しかけてきた。


「えっと……カバン、ですか……?」

「そう、カバン!」

「中には勉強道具が入っているだけですけど……?」

「うーん、ちょっと中をのぞかせてもらってもいいかな?」

「いや、止めた方がいいですよ!」

「ええーっ!? だってだってぇー、お勉強道具なんでしょう?」


 庸平は焦る。この場はできれば穏便に済ませたいところだが、この女の先生はやけにしつこい。

 ふっくらとした赤い唇の端を上げて、二重まぶたの切れ長の目でじっと見つめられている。

 庸平は観念して、自転車から降り、カバンのチャックを開ける。


「この女は邪神だ。隠し事は通用せんぞ!?」


「邪神――!?」


 ちょこんと頭を出した赤鬼の言葉に驚き、思わず庸平は叫んでしまった。


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