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第49話 主様

 庸平の手の上にすっかりやつれた白猫が横たわっていた。いつもはピンと伸びている尻尾が力なく垂れ下がっている。

 

 目を開けない白猫姿の白虎に向かって庸平が名を呼び続ける。上空で回転していた2匹の龍も、それぞれに奇声を上げて呼びかけている。


 しかし反応はない。


「白虎は大丈夫なのか? このまま死んでしまうとか……そんなことがあるのか?」


「忘れたか若造。我ら魔物は死という概念はない。現世で消滅すれば魔界へ転生されるだけだ。しかし……だ。それは若造たち人間にとって、死と同じことかもしれぬがな……」

 

 そう言いながら、赤鬼は白虎の体に手を当てる。すると、赤鬼の手からピンク色の穏やかな光が放出された。しばらくの時間、それは続けられ、赤鬼は庸平の肩に飛び移った。


 白猫の尻尾がピンと伸び、身体がピクンと反応した。


「白虎!? 目を覚ましたか、白虎!」

「五月蠅いな小僧よ。もう少し静かにできぬのかっ!」


 低い声でいつもの調子に悪態をつき、白虎は庸平の腕から飛び降りる。

 しかしまだ本調子ではないらしく、白虎はよろけて地面に倒れた。


 その姿勢のまま、白虎は身に起きた不幸を語りはじめる――


 *****


 これは今朝、庸平が母屋へ出かけたすぐ後のこと――


 白虎は森の中からぼんやりとした妖気を感じた。興味を抱いた白虎は同時に目を覚ました黒龍と連れ立って森の中へ探索に出かけた。

 妖気に吸い寄せられるようにこの場所へ来てみると……白い手だけが地面から出て、彼らを手招きしていたらしい。


「我ながら迂闊であった。小僧ら人間と戯れていたせいで魔物としての感性が鈍っていたのだろうか。それに強い妖気を発していたものだから、強い魔物であれば小僧の役に立つかも……などと考えてしまったのだ」


 白虎は庸平に新しい式神を用意してくれようと考えたのだ。陰陽師と式神は主と従の関係。しかし普段から何かと言葉では反発するようなことを言ってくる白虎。そんな彼も(あるじ)の役に立とうという気持ちはあるのだ。


 白虎の独白は続く――


 まるで吸い寄せられるように手招きを繰り返す白い手に近づいていくと、突然その手が伸びて白虎の前足を掴んできた。白猫の姿に変化している彼には、その力に抗うことができなかった。


「おい、仮にもお前は十二天昇の1人、四神の霊獣だろう? いくら猫の姿をしているとはいえ……」

「フフフ……笑うがいいさ。我がことながら笑える。小僧に斬られたこと以上の不甲斐なさだ」


 珍しく自虐的な物言いをした白虎は続ける――


 やがてもう一つの腕が地中から現れ、地面をつかむ。

 ずずっと人間のような白髪の頭が現れ……

 老婆の顔が現れる。

 異様に大きな黒い瞳が白虎の姿をなめ回すように見ている。


「おまえは……とよだ……の……しきがみ……だね」


 黒龍が老婆を威嚇するも、老婆は気に留める素振りすらしない。

 老婆の狙いは白虎にだけ向けられているようだ。

 前足を掴まれたままの白虎は老婆の手に食らいつこうとする。

 しかし、老婆はもう一方の手で白虎の首根っこを押さえつける。

 その力は白猫姿の白虎のそれを凌駕した。

 黒龍は老婆の首に食らいつこうと飛び掛かる。

 しかし、老婆の目がカッと見開き黒猫姿を捉えると、まるで氷付けにされたかのように黒龍の身体が硬直し、放物線を描いて石ころのように地面へと落下した――



「ワシの記憶はそこまでだ。気づいたら土の中に溶け込むような感覚……つまりは封印されてしまっていたのだな……我ながら情けない。小僧らが来てくれなかったら今頃はこの世から滅せられていただろう」


「なあ……その白髪の婆さん……たぶん俺も会ったんだよ。でも見た感じはただの婆さんだったぞ。白い着物姿で、足首に紐が絡んでいたから助けたんだよ。ほら、そこにある紙が絡んでできた紐なんだけど……それをずりずり引きずって山を下りたんだろうな。困っていたから陰陽術で切ってあげたらとても喜ばれてさ。お礼に紙人形をくれたんだぜ?」 

 

 庸平の言葉を聞いて、白虎が目を見開いて尋ねる。


「お主……その紙人形はどうした? もう滅したんだろうな……」

「えっ、いや……その人形は……佳乃が欲しいって言うからあげたんだけど?」

「……まったく、手のかかる主様だ。おい小僧! 早くあの女のところへ連れて行け!」

「え? いま、お前……俺のことを主様って……」

「ええい、いいから早く連れて行け! あの女の命が危ないぞ!!」


 白猫姿の白虎はゆっくりと身体を起こし、長い尻尾をぴんと立てて言った。



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