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第41話 寺の娘

 警察署のある新町から山ノ神村を抜け、一本道を更に山間部に入り込んだ場所に小さな寺がある。規模は小さいが、先祖代々続く山水村の家々のほとんどが檀家であるほど地元に根付いた寺でもある。


 現在、その寺の敷地内に長谷川智恵子は両親と祖母と共に住んでいる。先代の住職である祖父は彼女が小学生のときに亡くなり、現在はサラリーマンから転職した智恵子の父が住職を継いでいる。

 

「本当に大変な目に遭ったんだねえ、智恵子や。今夜はゆっくり過ごしなさい」


 祖母が智恵子にお茶を煎れてくれた。


 智恵子はちゃぶ台の前に行儀良く座り、両手で湯飲みを持ち、お茶をすする。


 仏壇と食器棚の他には何もない六畳間。部屋の真ん中のちゃぶ台を囲むための質素なこの部屋が家族団らんの場であり、智恵子はこの場所が大好きである。小型のブラウン管テレビは置いてあるが、スイッチのつまみを引こうとする者はいない。


「智恵子、ちょっと話があるんだが……」


 父は車のキーを柱のポケットにしまいながら智恵子の対面に座る。

 気を利かせた祖母は台所へ夕食の準備をしている母を手伝いに行く。


「警察でお前達が話していた魔物のことなんだが、空から降ってきたというのは本当なのか? お前、何か隠し事はしていないか?」


「うっ…… な、なんでそんなことを訊くのかな……? お父さんはうちのこと信じていない……の?」


 智恵子は父から目を逸らす。

 父は苦笑する。


「父さんは智恵子を信じているさ。その隠し事が下手くそなところ、母さんにそっくりだもの。で、本当は誰がが呼び出したんだろう? それは豊田さんところの息子か?」


「ちっ、違うけど……どうして豊田君だと思ったの?」


「えっ、違うのか。そうか……それは父さんの思い違いだったな。実は父さんと豊田君の父親とは中学校の同級生でな。当時の彼はしきりに中学校の敷地近くに魔物が封印されているとかで騒いでいたんだよ。あの地域一帯は魔界と通じ易い地脈があるんだとか言って、いろんな儀式っぽいことをやっていたぞ」


「もしかして……豊田君のお父さんは陰陽師だったの?」


「いやいや、彼は騒いでいただけで、結局、3年間何も起こらなかったんだ。『俺には素質がないのか』とか言ってふさぎ込んで、なだめるのに苦労したんだよ……」


「そ、そうなんだ……」


 庸平の破天荒ぶりは親譲りなのかと、智恵子は納得した。


 今回の騒動は庸平が深く関わっているとはいえ、きっかけは佳乃が黒魔術を使って呼び出した魔物である。しかし父には佳乃の黒魔術の件についてはまだ伏せておこうと智恵子は思った。


 母の呼ぶ声がした。2人は立ち上がり食卓へ向かう。一家団欒の遅い夕食がようやく始まろうとしていた。

赤外線リモコンなど存在しない昔のブラウン管テレビ。

ボリュームつまみを引くと電源が入ります。

チャンネル切り替えはローテリースイッチをガチャリガチャリと回す仕組み。

あんまり急いで回すと壊れると、よく親に叱られたものです。


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