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第38話 陰陽師の末裔

 地元警察署での取り調べが終わっての帰り道、庸平は無言でハンドルを握る父の軽トラックの助手席にいた。時折、暗闇の中にヘッドライトの光に野生動物の目が反射して見え、庸平はどきりとする。

 警察署から二人が身を寄せる父の実家までは車で20分。街中を抜けた後は細い山道をひたすら進む。時刻は9時をまわり、街灯のない山道は車のライトだけが頼りである。

 やがて、父が重い口を開く。


「庸平、お前が爺さんのあとを継いで陰陽道を志すのは止めはしない。爺さんの念願だったからな、それは……」

「えっ、そうなの? お爺ちゃん陰陽師だったの? 俺、初耳だけど」


 庸平は今回の騒動に対して叱られることを覚悟していたのだが、父の意外な話に驚きを隠せない。


「実は爺さんに頼んでおまえにはその話は口止めしていたんだ。まあ、陰陽師とは言っても現代では決して表舞台には立つことのない陰の存在だ。爺さんは農業の傍ら、陰陽道の研究を続けている程度なんだが……」

 

 それでも庸平はうれしかった。奈良公園で出会った白髪の老人にも刺激を受けたように、これからは祖父にもいろいろな教えを受けることができるのだから。父は庸平の表情をちらっと確認し、話を続ける。


「父さんには陰陽師を受け継ぐには素質がなくてな……それを知ったときには相当がっかりしたものだよ。爺さんに申し訳ない気持ちにもなった。それでお前にはそんな気持ちを味わわせたくはなくて、隠していたんだ…… すまん」


 いつもは口数の少ない父にはめずらしく今日は饒舌である。その驚きと初めて父の気持ちを知った庸平は、うつむき加減に首を横に振る。


「いいよ、俺のために黙っていたんだろう?」


「ああ、探求心の強いお前のことだから、蔵の古文書にもすぐに気がつくとは思っていたが……お前は昔からそういう方面に関心が高かったものな。結果的には父さんが心配するまでもなかったか……学校を破壊するほどの力のある魔物と戦って退治してしまうほどの力があるとはな」


「警察は信じてくれなかったけど……」


「まあそうだろう。特に今回のような未成年者の関わる事件は警察も慎重になる。すぐにマスコミに報道されるようなことはないだろうが、人の口に戸は立てられない。いずれ今回の件は公になるだろう。その時にお前自身がどう振る舞うかが大切だ」


 父は慎重にハンドルを操作しながら庸平をちらりと見た。

 

「うん……そうだね。考えておくよ……」


 庸平はそのとき、奈良公園で聞いた吉岡の言葉を思い返していた。山水村の不思議の話――それが本当ならば、今回の件もやがて収束し騒がれることもないのだろう。


 また野生動物の目が光る。

 野生の猿だろうか。

 もう、それを見ても庸平はどきりとすることはなかった。

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