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第37話 龍、討伐

 佳乃に憑依した白虎の手足から紅蓮の炎が噴き上げる。


 首元にしがみつかれている黒龍は、激しく体を揺さぶり振り落とそうとするが、白虎のバランス力と握力により無駄なあがきとなっている。


 黒龍は最後の力を振り絞るように上空へ舞い上がろうとするが、赤鬼に尻尾をつかまれているのでピーンとからだがまっすぐになり、その反動で地面にたたきつけられる。


 派手にめくれ上がる地盤。


 黒龍は断末魔の悲鳴をあげ、近くにいた生徒たちからもこの日一番の悲鳴があがる。


 それまで別行動をしていた黄龍が突然、体を蛇のようにくねらせて黒龍に近づいていく。自分たちの戦況が不利とみて、黒龍に加勢に向かうようだ。


「あの二匹の龍はちゃんと仲間意識があるようだな……それに引き替え、人間というものは……」


 庸平に視線を送られた生徒たちは思わず目を逸らした。

 小さくため息を吐き、


「東西南北の四神、青龍・白虎・朱雀・玄武よ、我に力を捧げよ。金色の龍神、黄龍の動きを封じろ! 急急如律令ー!」


 庸平の周囲を回っていた4枚の霊『シュルルル……』と空気を切り裂き、4枚の霊符が黄龍に向かう。

 貴龍の首の周りを輪を描くように高速回転し始め、やがて炎の輪と化す。


『ギュルルル――――』


 黄龍の動きが止まり、その場でもがき苦しみ始める。


「勾陣――!」


 庸平が足元の地面に手をかざすと、地面に六角形の光の輪が出現。

 地面を一蹴りすると、すさまじい勢いで走り出す。

 庸平が地面に足をつくたびに光の輪は移動し、庸平の体を後押しする。


「赤鬼、刀を寄越せぇぇぇ――――!」


 黒龍を押さえ込んでいた赤鬼はニヤリと笑いながら手を上にかざすと、庸平の進む進行方向の上空に刀が出現する。


 刀を右手でつかんだ庸平が、標的まであと50メートルというところまで来たとき、黄龍を拘束していた4枚の霊符による炎の輪が効力を失い落下。


 それと同時に拘束を解かれた黄龍が庸平にむけて牙をむく。


 大きな口を開けて、庸平をひと飲みにしようと襲いかかる黄龍を、寸前のタイミングで上空に身をかわす。


「白虎――! 今こそおまえの力を貸してくれぇー!」

『小僧が我の力を使いこなせるかなぁ? 隙あらば喰うてやるぞ、ワハハハハ……』


 佳乃の体から抜け出た白虎は白い霧に変化し、庸平の持つ刀を包み込む。


「やぁぁぁぁぁぁー!」


 斜めに振り下ろす刀の切っ先から紅蓮の炎が噴出し、黄龍の胴体を斜めに切り裂く。

 壮絶な断末魔とともに黄龍の体は地面に崩れ落ちた。


 空気が抜けるような音とともに、2匹の龍は霧のような気体に変わっていく。

 校庭全体が霧に覆われ、生徒たちは身を寄せ合って恐怖に耐えている。


 刀を鞘に戻し、庸平は一人たたずむ。

 その足下には白猫姿に戻った白虎がいた。


「また小僧を喰うチャンスをフイにしてしまったか……」


 白虎は低い声で呟いた。猫の姿では表情が分からないが、彼はおそらくにやりと笑っている。


「俺もおまえに喰われた方がせいせいしたかもしれないぜ、ふっ……」


 庸平は捨て鉢な態度でそう言った。

 

 やがて霧が晴れて視界が戻ってくるにつれ、校庭の荒れ具合がはっきりと見えてくる。赤鬼の巨体が屋上から飛び降りたときにできた陥没と、2匹の龍との戦いでできた地割れにより、すでに校庭としての原型は留めていない。


「坂本先輩、格好良かったっす!」

「えっ? わ、わたし? ありがとう……」

「坂本先輩があんなに身軽だなんて知りませんでした。それにすごく強いんですね」

「あ、あれは……私の力ではないんだけど。いえ、私には違いないんだけど。……ねえ、私強かった?」

「はい、とっても強くて格好良かったですよ!」


 荒れ果てた校庭の真ん中で佳乃が下級生に取り囲まれている。

 にへらにへら笑いながら照れている佳乃の姿を見て、庸平の殺伐としていた心にもわずかな変化が訪れる。


「こんな学校でも、良いという奴がいるんだ。俺もあと少し頑張ってみるか」


 庸平は独り言のようにつぶやいた。


 しかし―― 


「もうこの学校はもう廃校だろう、校舎がもうだめだなぁー」


 庸平の決意に水を差す言葉を発した者がいた。

 屋上からここまで、やっとの思いで到着した吉岡だ。


「屋上もかなりの被害だったが、中の状況はもっと酷かったぞ。ここまで階段で降りてくるだけでも冷や汗ものだったぜ! きっと、もう校舎は使えないぞ……なぁ?」

「そうね、いつ崩れてもおかしくないぐらいにひどい状態だったわ」


 吉岡と智恵子は体中のあちらこちらに擦り傷を負っていた。屋上でかぶった埃と合わさって、まるで瓦礫の中から救助された人みたいな風体である。


「君たちもけが人の救助を手伝ってくれ、土砂に埋もれている生徒がいるかもしれない」


 魔物の脅威が消え去った後は、先生たちが救助活動や安否確認に大あらわである。

 やがて救急車と警察車両がけたたましいサイレンを鳴らしながら到着し、一連の騒動は収束に向かって行くのであった。

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