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第34話 封印された龍

 白髪の老人は、庸平が放った3枚の霊符を懐かしむように眺めながら言う。


「そうですか……武蔵国の陰陽道はこうして受け継がれておるわけやね。昔、武蔵国にはえらく力のある方がおられたんよ。式神に青鬼と赤鬼を使役しておられたと聞きます。もう遠い昔の話ですけれど……」

 

 意外なところで赤鬼の話題が出たことで、庸平は更に興奮した。


「赤鬼のことはよく知っています! 俺の学校を襲いに来たので、一度は俺が倒したのですが、仲間になってくれたんですよ!」

「な、なんとあなたは赤鬼を使役されておられるのですか!? お、おおお…… それほどまでのお方とはつゆ知らず、失礼いたしました」


 老人はベンチから崩れ落ちるように芝生に膝を付けて、深く頭を下げる。

 庸平は顔を真っ赤にして、顔を上げてもらうように頼み込む。

 その様子を見た円錐形の麦わら帽子に隠れていたコビトは、老人の隣にチョコンと座り、一緒に頭を下げている。


「この麦わら帽子の子はお爺さんの式神ですか? さっき小川で遊んでいるところを見かけて、不思議に思って追いかけてきたんですよ」

「これには赤鬼のような強さはありはしませんが、天涯孤独な私の唯一の家族のようなもんですよ。あの……もし宜しければあなた様の使役されとる赤鬼に会わせて頂くことはでせきまっしゃろか?」


 白髪の老人からそう頼まれた庸平は、少し躊躇いながらも説明する。


「じつは……赤鬼はすでに退治されてしまいました……京都の旅館で桜木翔太という名の少年に……」


 老人は何か思い当たることがあるようで、身を乗り出して庸平に問う。


「少年……でっしゃろか? 20代の青年ではなくて……?」

「はい。少年です。本人も中学1年生と言っていましたし、明らかに少年でしたよ?」

「そう……どすか……これは先月の話ですが……」


 白髪の老人の話によると、今から1ヶ月前に20代半ばぐらいの男がやってきて、老人の式神を退治しようとしていたそうだ。結局、対決には至らなかったのだが、その男は各地の魔物を封印してまわっている悪霊退治を生業にしている者だった。ここへ来る前も京都の大文字山に封印されている魔物を退治して来たと言っていたという。


「じゃあ俺たちが探していた魔物たちはその男に退治されていたのか! すでに1ヶ月前に……俺たちが探していた魔物がいなくなったのは桜木翔太という少年の仕業ではなかったのか……」


 しかし、赤鬼を退治したのは少年であることは確かであり、庸平の怒りの矛先が変わることはないのだが……


 老人は更に続ける。


「人間もそうであるように、悪い魔物がいる一方で善い魔物もおる。なんでもかんでも退治すればええという考えに囚われてはならんと諭したのですが……この老いぼれの言うことは耳に入らなかったようで……」


「あの……魔物は退治されたらどうなるんですか? 人と同じように死ぬんですか?」


「魔物には寿命という概念はないという話を聞いたことがあります。現世から消滅した魔物は魔界に降り、また現世に現れることもあるとか……ただ、あの青年の話では京都の魔物は妖力が強く、一先ずは壺の中に封印したとか。魔物を封印した壺は白加美神社に奉納したといわはっていましたよ」


「えっ! じゃあ、白虎が探していた魔物は白加美神社にいるということ!?」

「ちょ、ちょっとあんさん、今、白虎といわはったか!?」


 白虎という名を聞き、白髪の老人は驚きのあまり後ろへ仰け反った。


「おい最弱、のんびりしている余裕はなさそうだぜ!」


 吉岡が声をかけてきた。庸平と老人が振り向くと、立派な角を生やした雄鹿が二人を見ていた。よく見ると、鹿の背中にちょこんと白猫姿の白虎が乗っている。


「なんだ白虎かよ、驚かすな。鹿に乗って遊んでいたのか? ちょっとは元気を取り戻してきたみたいだな。良かったよ」

「まあ、我はそんなところだ。しかし、人間の女どもはそうではないぞ」

「俺らがいないって、女子2人が探し回っているってよ。すぐに戻るぞ最弱!」


 どうやら佳乃と智恵子が甘味屋を出たところに2人がいないと騒いでいるらしい。それを白虎が鹿の背中に乗って遊ぶついでに伝えに来たのである。

 庸平は彼女らがカンカンになって怒っている姿を想像して笑った。こんな日常も悪くない、そう思った。

 庸平は老人に別れの挨拶をし、吉岡とともに元の場所に向かって走りだす。


「お前の仲間、まだ消されずに京都の神社に封印されているかもしれないってよ!」


 途中、隣を走る鹿の背に楽しそうに乗っている白虎に、老人から聞いた情報を伝える。白虎は『えっ!?』と一言だけ返したが、それ以上の反応はなかった。


 彼女らとは甘味処の付近で再会する。

 庸平の想像していた通りに佳乃と千恵子は怒っていたが、吉岡が2人の機嫌とりをしてくれて、奈良見学は予定通りに進んでいった。

 吉岡という男は、自分が想像していたよりもずっと人間らしいところがある。人間だから当たり前か……庸平は旅館への帰りのバスに揺られ、そんなことを考えていた。



 *****



 旅館に帰り、庸平はロビーにあるパソコンで白加美神社について調べてみた。奈良公園で出会った老人の話によると、そこに白虎の仲間の魔物が封印されているという。


「あちゃー、洛北の外れの山中にあるのか……」


 旅館からちょっと抜け出して行ってくることもできないと知り、額に手を当てて悔しがる。


「なになに? 何を調べているの?」


 佳乃がモニターを覗き込みながら言った。

 石けんの香りがふわっと漂ってきた。


「佳乃、また浴衣に着替えたのか……」

「えへへ、庸平が似合っているって言ってくれたから」

「ゴホン! ほんっとうに妬けるっ! アンタ達それでも付き合っていないって言い張るの? いい加減にしてよね!」


 智恵子が腰に手を当てながら呆れて言った。

 

「そ、そんなことより白虎の様子はどうだ? 変わりはないか?」

「う、うん、仲間の魔物が消滅したわけではないと分かって少し安心したみたいよ。部屋でテレビを観ているわっ!」

「そうか……また日を改めて来ようぜ、白虎の仲間を探しに京都へ!」


「え!? ふっ、二人で……?」


「いや、白虎を連れてさ!」


「う、うん……」


 まん丸の目で智恵子の顔を見る佳乃。

 智恵子は呆れたように両手を広げ、


「うちは来ないからね! おじゃま虫になりたくないもんっ!」


 と言って、大きなため息を吐いた

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