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第33話 独白

「ばかやろう、大声を上げるんじゃない! 誰が聞いているか分からないだろうが!」


 吉岡は庸平の口を押さえ、周りを気にする素振りをしている。しかし2人を気にしているのは近くで休んでいた鹿ぐらいのようで、吉岡は庸平を座らせ、自身も彼の隣に座り直した。


「突然そんなこと言われて驚かない訳がないだろう。俺へのいじめを煽動しているのは吉岡、お前自身じゃないか!」

「まあ、最弱がそう思うのも当然だ。すまん……」

「いや、待て待て待て、そんな軽い感じで謝られても俺としては……」

「じゃあどうすれば俺の話にきちんと向き合ってくれるんだ? 何でも言ってくれ!」

「く――ッ」


 真剣な表情で訴えかけてくる吉岡に対して、庸平は言葉を飲み込む。

 吉岡が何かを企んでいる、そんな疑心暗鬼になる気持ちを捨てきれないでいる。


「分かった。ではその話とやらを一応聞こうか。いいか、聞くだけだ。それを聞いたからといって、俺がお前を許すことはないし考えを変えることもない。それでいいか?」

「それでいい。すまんな」

「だから謝るなって……」

「……そのぐらい良いだろ。単なる会話の流れだ。では本題に入るが、なぜ赤鬼が俺の分身と思うかを説明するぞ」

「よし、聞こうじゃないか」

「赤鬼の奴は『オニ役』を俺たちから選ばせた。そしてオニ役を追い込んで捕まえろと命令した。捕まえたらオニ役以外を助けると言っていたが、実際には次のオニ役が選ばれて最後の1人までゲームを続けるつもりだった――」

「確かに赤鬼はそう言っていたな。仮に俺に倒されていなかったら、人間を皆殺しにしていただろうと……」

「そして俺の場合だが――生徒から『最弱』を選び、そいつをターゲットにして追い込んでいく。ターゲットがいなくなったら次の『最弱』を選びゲームを続ける――」

「おい待て、ターゲットがいなくなるとはどういう意味なんだ?」

「文字通りの意味だよ。学校からそいつがいなくなる――親の都合で急に転校することになったり、ある日突然失踪したり……俺らが山水中に入学した当時はもっと生徒がいたんだよ。それが一人二人といなくなってな……」

「そんなことって……そんな状況になったら村が大騒ぎになるんじゃ……」

「確かに生徒が失踪した時は村中が騒ぎになったが……やがて村は日常に戻っていく。それが山水村の不思議だ。赤鬼や白虎が出現して騒ぎになっても、すぐに落ち着いたのはお前も見てきただろう?」


 確かに……と庸平は思った。それが彼が以前いた学校であれば、校舎の窓ガラスが全壊した時点で大騒ぎとなり、新聞やテレビで連日報道されたことだろう。しかし、今回の騒動はどちらも僅か数週間後には通常授業が再開され、村は平穏を取り戻していた。


「しかし、随分と他人事みたいに言うんだな。そのターゲットを選んだ張本人だろ?」

「いや、俺が『命名者』になってからは1人も犠牲者は出していないぞ! なぜなら、俺が最弱と命名した奴はすぐに()を上げて俺に服従した。服従されたらいじめ甲斐がねーからな。すぐに次のターゲットを選んださ」

「なぜ選ぶ? お前が選ばなければ……そこで終わりにしたら良いだけの話じゃないか!」

「駄目だった(・・・)んだ!」


 吉岡は声を張り上げた。


「選ばなければ……俺が殺されていた!」


 吉岡は目を見開き、庸平を見る。その表情は助けを求める弱者のもの――


「いや……今の言い方は少し違うかもしれない。最弱……俺たちは今、どこにいる?」

「奈良公園だろ」

「そう、奈良にいる。これが重要な事なんだと俺は考えている。山水村の外に俺はいる。だから今、こうしてお前に話ができているんだと……思う……」


 庸平は頭を抱えて深くため息を吐いた。


「つまりは――吉岡は山水村の中ではいじめのリーダーとして俺を最弱と呼び、皆にいじめを扇動していたけれど、それはお前の本心ではなかった。村を離れて冷静になってみて自分の罪に気がついた。ごめんなさい……ということが言いたいのか?」

「違う」

「違うのかよ!?」

「赤鬼はお前に不思議な力で倒されたとき、『100年振りの現世で楽しくなった』と言い『お前が止めなかったら本当に皆殺しにしていた』と言っていた。赤鬼の言う楽しくなったという言葉の意味を俺なりに考えてみたのだが――」


 吉岡は周囲を見回して、庸平の耳元で――


山水村(あの土地)には魔物をも狂わせる何かがあるんじゃないだろうか?」


 吉岡は腰を上げて、木々の間から覗く太陽の光を見つめる。

 そして――


「最弱お前は……不思議な力を手に入れたお前は、その気になれば簡単に俺を倒せるだろう? だから、最弱……いや、豊田庸平。お前はこのまま山水中学校で最後の最弱になっていてくれ!」


 そう言って振り向いた吉岡は穏やかな表情だった。

 庸平は首を傾げたまま、しばらく硬直していた。


『パシャン――……』


 水音に振り向いた2人は、奇妙な光景を目の当たりにする。 

 円錐形の大きな麦わら帽子が小川の飛び石をぴょんぴょんと移動している。

 ちらりと見えた足元は、草履を履いた人の足のようにも見えたが、あまりにも小さい。

 それは体長30センチメートル足らずのコビト。


「はあっ!?」


 吉岡の驚いた声に反応し、石の上でぴたっと動きを止めた。

 こうして見ると麦わら帽子が石の上に乗っている様にしか見えない。


「最弱、あいつは何者だ?」

「俺たちに見えると言うことは、妖精……というわけではなさそうだ。とはいえ、赤鬼や白虎のような強い気配は感じないし……」

「捕まえてみればわかるぜ!」

「捕まえるの!?」

「俺は川の向こう側に回り込むから、最弱はこちら側の退路を塞いでいろ。挟み撃ちにしようぜ!」


 庸平としては吉岡の話の続きを聞きたい気持ちもあった。何しろ、中途半端なところで吉岡自身が吹っ切れたように終わらせてしまった訳で……得体の知れぬもやもや感だけが彼の胸の中に残っている。しかし、不可思議生物を相手に、吉岡は俄然やる気を見せている。仕方なく付き合ってやることにした。


 わずか5メートル弱の川幅だが、川を渡る際の水音で相手に気づかれないように吉岡は大回りして向こう岸へ渡る。その間、庸平は身をかがめてじっとしているのだか……


 鹿が川の中でバシャバシャと歩く音に驚いたのか、円錐形の麦わら帽子がピョンと飛び上がり、一目散に川下に向かって走り出した。


 庸平はポケットから取り出した霊符を空中に放り投げ、

「あの魔物の行き先を追ってくれ!」

 指を差して指示をすると、霊符が勢いよく飛び去っていく。

「久しぶりに見たぞ、最弱の術!」

「なんかそれ、すごく弱そうな術名に聞こえるからその言い方はやめてくれ!」


 2人は霊符を追って走る。途中で小川から外れ、林の中を通過していく。霊符を見失いそうになる前に、庸平は別の霊符を取り出し追わせる。4枚目の霊符を取り出そうとしたころ、草むらにベンチのある林間広場に出た。


 大きな木の木陰に設置されたベンチに白髪の老人が座っている。

 紺色の作務衣をゆったりと着こなしている80歳ぐらいの老人だ。

 年齢の割には背筋が伸び、凛とした雰囲気を持っている。

 ベンチの隣には、円錐型の麦わら帽子が置かれている。


 庸平と吉岡の2人は、ゆっくりと老人に近づく。


「最弱…… おの爺さんも魔物だろうか?」

「おい、どう見てもあの人は人間だろ。吉岡は疑心暗鬼になりすぎだと思うぞ?」

「そっ、そうか……しかし爺さんの脇にある帽子はどう見てもあのコビトが被っていたものだぞ? 本当に魔物の関係者ではないのか?」

「魔物の関係者というなら、俺やお前もそうだろ。白虎と仲良くしているじゃないか」

「ん!? 俺がお前らと仲良くしている?」


 吉岡は立ち止まり、腕を組んで考え込む。

 庸平は老人のすぐ近くまで歩み寄り、どう声をかけようか思案していると……


「これとよく似た霊符に覚えがありますよ。あんさん達は武蔵国から来やはったのですか?」

 老人の方から声をかけてきた。ごつごつした手には庸平が追跡に使った霊符3枚が乗せられている。


「霊符のことが分かるということは……あなたはもしや……」


 庸平の声は弾んでいた。


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