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第22話 積年の恨み

「怨念の塊となった白虎を式神として使役する方法はあるのか?」


 庸平は足元の赤鬼に尋ねた。


「斬るしかなかろう、若造がワシを斬ったときのように真っ二つにな。若造に使役される道を選ぶか魔界に転生されるかは、奴が決めること――」

「しかし実体の無いあれをどう斬るんだ? ただ闇雲に刀で切りつけたところでどうにかなるとは思えないのだが」

「怒らせろ! さすれば今よりも更に凝縮されるだろう。そのうちそれが実体となるやもしれん。やってみせろ若造――!」


 赤鬼にはやし立てられ、庸平は一か八かの勝負に出る。


「白虎――! 俺はお前を封印した陰陽師の子孫だ。その、悪かったな……」


 威勢良く出たものの佳乃の『彼は寂しかった』という言葉を思い出しトーンダウンしてしまう。


「いやほんと、悪かったと思っているよ。150年もの間、お前はこんな山の中に閉じ込められていたんだろ? その間、何度も逃げだそうとしたと思うけど力が及ばなかったんだよな。分かるよその気持ち。赤鬼が魔界からやってきて暴れたりしたから、それに刺激されて俺らを呼んだんだよな。良かったじゃん、助け出されてさ。これで寂しい思いをせずにすんだよな。あっ、良かったらついでに俺の仲間になってくれないか? 俺の式神として使役してやるけど、悪い話ではないと思うんだが」


 隣で聞いていた坂本佳乃はなぜかむかついてきていた。

 どうしてこの人はこんな言い方しかできないんだろうと……

 白虎を心底気の毒に思っていた。


 白虎は――


「トヨダ……きさまのことはよくおぼえている……せきねんのうらみはらす……」


 地響きのような声を発し、空中に漂っていた怨念の塊が一カ所に凝縮していく。

 目鼻が形成され、龍と虎をあわせたような顔がはっきりと現れた。

 体は顔の大きさに対してかなり小さいが、しっぽはライオンのように先端がフサフサしている。

 体長は5メートルを超える、白虎の実体化した巨体が地面にゆらりと着地した。


 庸平は日本刀を構え、足元の赤鬼とアイコンタクトをとる。

 赤鬼はこくりとうなずく。


「赤鬼、いくぞ!」

「おうよ!」


 庸平が一歩踏み出す瞬間に魔法陣が出現し、白虎に向けて加速する。


「刀身乱舞紅の術――ッ」


 刀を振り上げると赤鬼の身体が炎と化し、刀身に吸い込まれ紅蓮の炎となる。


『シャァァァァァァ!!!』


 白虎は牙をむき、庸平をむかえ撃つ。

 庸平の太刀筋を見切り、高くジャンプして刃先を躱すが――


「うぉぉぉ――ッ」


 水平に斬りかかっていた刀身が真上に向けられた。

 刀は白虎の身体を真っ二つに斬った――かに見えたが……


 白虎は庸平の肩に前足をかけ、押し倒すと同時に左肩に牙を立てた。

 庸平が右手で抵抗しようとすると、白虎はその腕を噛む。

 牙が食い込み――


「ぐわぁぁぁ――!」


 庸平は叫び声をあげる。

 白虎は腕を噛んだまま首を横に振り回すと、庸平の腕がちぎれた。


「うぉぉぉ――!」


 白虎はさらに顔を近づけてくる。

 その恐怖心で庸平は左腕を振り上げると、その腕にも噛み付いてきた。


「うわぁぁぁ――! や、止めてくれぇぇぇ――!」


 庸平は絶叫し悶絶する。


 しかし――


「ど、どうしたの豊田?」

「腕が、両腕がぁぁぁ……」

「あなたの腕がどうしたというの?」


 佳乃はすべてを目撃していた。

 庸平の刀は空を切り、次の瞬間には自ら柄から手を離して後ろに倒れ込む。

 刀から分離した赤鬼は元の姿に戻り、庸平に声をかけるも通じない。

 そして、彼は一人で絶叫し始めていた――


「若造は幻影を見せられておるのだ。情けない。いや、無理もないか。相手は白虎であるからな……」

「幻影? それって豊田がいつも言っているやつ?」

「そう、その幻影だ。情けない。いや、無理もないと言うべきか……怨念に成り下がっているとは言え、相手は十二天将の1人、白虎なのだからな」


 佳乃はしばらく考え込み、そして白虎がいるであろう空間に向かって――


「白虎さん! あなたの悲しみも苦しみも私は理解しています。でも、それはあなた自身が何とかして解消しなければならないもの。その人を傷つけても癒やされることはないの。お願い、もう許してあげて……」

 

 佳乃は懇願し、膝を付いて泣きじゃくる。


 赤鬼は見た。


 白虎が庸平の肩から前足を下ろし、目を瞑って後退する姿を。


 しかし、なお庸平の幻影による幻覚作用は続いている。

 苦しみ悶える庸平を見かねて赤鬼は――


「小娘! 白虎はもう若造から手を引いておる。しかし、若造自身が幻影に囚われたままなのだ!」

「どうすれば救えるの?」

「白虎にかけられた幻影に勝る、何か決定的で衝撃的な出来事に感情が向けられれば立ち直れるかもしれぬ」

「衝撃的な……感情……」


 佳乃はしばらく考え込む。

 そして、庸平の胸ぐらを掴み、


『バチ――ン!』


 渾身のビンタを食らわせた。


 続いて彼の顔をたぐり寄せて――




 唇と唇を重ねていく。




 木々のざわめきと小鳥のさえずり――


 やがて庸平の身体から力が抜け、硬直していた両腕がだらりと下がる。


 顔を真っ赤にさせた佳乃がゆっくりと顔を上げ、両手で口を押さえて……

 倒れた――


 彼女は呼吸をするのを忘れていたのだ。

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