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第18話 封印された白虎

 気を失っていた庸平が回復したと見るや、赤鬼は彼の頭の上に跳び乗った。余程居心地が良いのだろう。愛玩動物のように目を細めている。

 その様子を見た佳乃は――

「あなた達、随分仲が良くなったのね……1ヶ月前に命を賭けて戦ったことがまるで嘘のように思えてくるわ」

「いやいや、若造がトヨダの血を継ぐ者と知っていたらワシは無用な戦いは挑まなかっただろう……いやはや懐かしい思い出が胸に蘇ってくるわい」


 赤鬼は胸に手を当てて感慨深げに目を瞑った。


「ワシがトヨダに仕えていた頃は愉しかった。全国行脚の後、この地に根ざしてからも数多の敵をばったばったと倒してなぁ……いやぁ、愉しかったわい」

「嘘つけ! 赤鬼は今で言うところのアシスタントみたいな立場で役に立ったと本に書いてあったぞ? 実はお前、そんなに戦いが得意ではないんだろ?」

「ぐぬぬ……おい若造、余計な詮索は止めろ! 人間というものは厄介なものだ。本という物があるとはな……今度それをワシに見せろ」

「あっ豊田、私にも見せて!」

「見せねーよ、あの本は豊田家が守り継いできた門外不出の古文書だから!」


 とは言ったものの、蔵に埃まみれになっていたのを庸平が引っ張り出してきた訳で、そこまで貴重な物であるとは彼自身も思っていなかったのである。

 しかし、万が一にでも中二病の佳乃に真似をされ、陰陽師の術が使えたりしたら彼の出る幕がなくなる訳で……


「おおっ、そんなことはどうでもいいのだ。それよりも白虎がこの近くに封印されておるのだよ。先日、ワシがこの地に降り立ち魔力を使ったせいで、その封印が緩んでしまったようでな……」

「白虎って、十二天将の白虎か? マジ?」


 青龍、白虎、朱雀、玄武は十二天将の中でも天の四方を司る霊獣とされている。先日の赤鬼との対決において、庸平は彼らの文様を描いた霊符を使い、九字を切り『破邪の法』を完成させていた。その中の1体、白虎の本物が近くに封印されているという赤鬼の話に庸平は興奮した。


「この地に封印されておると言うことは、恐らくはワシが仕えた者とは異なる若造の先祖が使役しておったのだろう。通常、主人が死ねば式神は自由の身となって魔界へ転生される。しかしお前の先祖は使役を止め、白虎を封印し、この地に眠らせてしまったのだ」


 赤鬼の話を聞いて、庸平には幾分思い当たる節があった。陰陽道は平安時代から日本の政治や文化に関わって継承されてきたものの、明治維新を境に衰退した。庸平の先祖もその頃に陰陽師を廃業したという記録が残っていた。恐らくはその時、白虎の力を持て余した先祖がこの地に封印したのであろう。


「それで、もし白虎を見つけ出すことができたら、俺たちはどうすればいい?」

「あのぉ……豊田? 『俺たち』って……もしかして私も入っちゃった?」


 佳乃が恐る恐る尋ねると、庸平はニコリと笑い――


「坂本の好きそうな案件じゃないか。もちろん協力してくれるよな?」

「うっ……そ、そうね……うん、私にできることがあれば……」


 なぜか及び腰になっている佳乃だが、赤鬼は構わず話を進める――


「若造が討てばいい! そうすれば奴は魔界に戻ることができるのだ」

「十二天将の1体、霊獣の白虎を討ち取れというのか? 俺に?」

「安心しろ! ワシを式神として使役させてやるわい」

「だーかーら、赤鬼は戦いは不得手なんだろ?」

「フハハハ……喜ぶがいい若造! 特別にワシから得物を進呈しよう。さあ、この中から選ぶが良い」


 赤鬼は空に向かってと手を上げると――


 中学校の屋上の上空10メートルの地点に黒い空間が出現し、無数の兵器が落下した。


「あぁぁぁ――――ッ!!」


 庸平と佳乃は頭を抱え叫び声を上げた。


 兵器の落下の衝撃で仮補修された屋上の床に再び亀裂が入っていた。衝撃音に駆けつけた先生達に酷く叱られ、2人は後始末をしてから職員室に来るように言いつけられてしまったのである。




「坂本よかったな。午後の授業サボれたぞ?」

「ホントね……ありがとう赤鬼さん、あなたのお陰よ」

「ウム、喜んでもらえて何よりじゃ」

「……」


 ジト目で赤鬼を見る二人だが、赤鬼には冗談も皮肉も理解できないのだ。


「おい赤鬼、以前にも言ったがこんな幻影はいらん。すぐに消してくれ!」


 赤鬼の出す武器や炎は全て幻影。だから庸平が断るのも道理である。

 しかし赤鬼は――


「若造は思い違いをしておるようだな。いいかよく聞け。お前が着ている服もこの建物も元を正せばすべて幻影。しかしそこにあるべきものと認識するからそこに存在するのだ。ならばこれら得物もお前がそこにあるべきものと認識すれば存在することになるのだ。分かったか?」

「うーん、分かったような分からないような……」


 庸平は腕を組んで悩み始める。

 ふと、佳乃のぽかーんとした顔を見て――


「じゃあさ、坂本が着ている服を無い物と皆が思えばその場から消えちゃう……そんなことが起きてしまうんじゃないのか? そんなことはさすがに――」

「フム、その通りだよ若造」

「いやぁぁぁ――、豊田がまたヘンタイにぃぃぃ――!!」

 

 屋上にビンタの音が響き渡り、校庭の樹木から白と黒の渡り鳥が一斉に飛び立った。




「フム……若造と小娘の力関係はワシには理解できぬのだが、小娘を怒らせると若造の命が危なくなることは理解した。これから気を付けることにしよう」

「そ、それは助かるよ……で、話は戻るがそもそも陰陽師に武器は要らないんじゃないか? 俺らは呪術で勝負だろう?」

「甘いな若造。陰陽師と言えども得物は必要だ。古代の武器から最新兵器まで用意たから一つ選べ。ワシのお勧めは日本刀だ。お主は炎の太刀を使っていただろう。日本刀と相性が良いと思うぞ」


 それなら日本刀だけ出してくれたらいいのにと庸平は思った。彼は足下にある一振りを持ってみた。柄の部分には赤い紐が巻かれていて、鞘は木製で黒色の漆塗りの上に赤い紐が巻かれている。見た目以上にずっしりとした重さがある。

 

「しかし、今の時代こんなものを持ち歩いていると、銃刀法違反で警察に捕まってしまうのだが」

「ならばワシが持っていてやろう。必要なときに言え」


 赤鬼が日本刀を手で触れると1メートル余りの長さが30センチメートル足らずのサイズに縮んだ。庸平には刀よりその便利な能力がうらやましかった―― 



 *****


 赤鬼が出現させた武器を回収し、新たに入った屋上のヒビの部分に防水シートを張るなどの作業を終わらせ、職員室へ『出頭』したのは午後の授業も終わりの頃であった。


 職員室のドアを開けた瞬間に、2人は異変を感じた。

 職員室の中はもぬけの殻だったのだ。


「この時間にはいつもなら2、3人の先生はいるはずよね……」

「このコーヒーカップはまだ暖かいな……ついさっきまでここにいたようだが……」


 庸平が探偵ばりに分析した。

 2人が動きを止めると、校舎内が妙に静まりかえっていることに気付く。

 職員室の真上には教室があり、いつもならイスや机のガタゴト音や足音が響いてくるはずなのだが、それすら聞こえてこない。


「俺たちの他には誰もいない……という感じだな……」

「もしかして避難訓練とか? それとも私たちに集団ドッキリを?」

「俺たちが集団ドッキリとかそんな楽しいイベントを企画してもらえる立場か?」

「……絶対ないと断言するわ」


 庸平と佳乃は再び考え込む。

 庸平の肩に足を乗せ、頭の上にちょこんと掴まった赤鬼が――


「これはひょっとして、これは白虎の封印に関係があるかもしれんぞ?」


 甲高いトーンの声で言った。


「白虎のせいで人がいなくなるとか、そんな記述は本には書かれてはいなかったが」

「Webページでもそんな話は見たことがないわよ」

「ところがな、白虎ほどの魔物ともなれば、人間の精神を支配して操ることなど造作もないことなのだよ」


 なぜか赤鬼がどや顔で言った。


「さすがは十二天将に数えられる魔獣ということか……」


 庸平は事務机からB4用紙を拝借し、それを正方形に折る。そして油性ペンで直径10センチメートルの円と北斗七星の図柄を描く。しかし、その図柄は表裏逆の星の配置となっている。その周囲に十二天将の文様をはじめとして様々な記号をかいていく。


「そ、それは式盤ね!」 


 佳乃は初めて見る本物の式盤に興奮しているようだ。

 彼女が顔を寄せてのぞき込んで来るので、庸平は赤面した。

 彼の鼻腔が女の子特有の良い香りで刺激された。


 男子中学生が女子の香りと思っているもののほとんどは、彼女らの髪から漂うシャンプーやリンスの人工的な香りであるが、そんなことはどうでも良いことなのだ。


「これが白虎の仕業というなら、式盤に反応があるはずだ……」


 庸平は呪文を唱えながら霊符を細かく千切り、式盤の上に落としていく。

 千切られた霊符は、ひらひらと北北西の方角に集まっていった。


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