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アテにならない話

作者: 波拍こはる


何で?って問いに答えるのって難しくない?

という言葉が、頭の中でやけに反響して煩い。


今日は1人で、尚且つ家で飲もう。

そう決めて帰宅したのが20時前。

なんとなく頭が回らなくなってきたのが22時13分現在。

…なんだかいつもより早くないか、私。

まぁいいか、誰に迷惑をかけるでもないし、何より明日は休みなんだから気楽なモンねと、卓上にある開いたビールの缶を手にとって、残り2cm程になったグラスに残りを全て注いでやる。あー、泡ばっかり。


酔ってると、普段よりも色んな事を考える気がする。まぁ大半のそれに答えは出なくて、ただただ考えるのが楽しいだけなんだけれど。

今日は誰を家に呼ぶでも、飲みに出る訳でもなく、一人で、と決めたのはここに理由がある。

ちょっと考え事がしたかったのだ。

ただ、今日のはちょっとばかり面倒だなぁ…と、溜め息が吐きたくて煙草に火をつけた。


たまにある。

「思い出す」事によって始まるそれは、言うなれば遊歩道を散策していたら不意に現れた薄暗い獣道のような、危険だと解っていて足が勝手に踏み込んでいってしまうような、そうしなければいけないような。


私の意志とは無関係に始まっては、

毎度の如く、後悔するのだ。



言われたのは確か、2ヶ月前。

彼にとっては…いや、一般的に見れば理路整然とした、でも私からすれば下らない御託を並べられただけのような話で、終始落ち着いたトーンで語られる言葉がそれを理解したくないと暴れる私の中身を刺激して。

「要するに何、早く言えばいいじゃない」と、最後には彼を遮ってヒステリックに叫んだのを覚えてる。


私が叫んだ後、それまでとは違う上ずった声で「ごめん、もう無理だと思う。」と、やっと彼は口にしたんだったか。

その瞬間、それまでの怒りも悔しさも虚しさも全部鎮火されたのだから、何だか簡単だよなぁと思う。

いいんだけどさ、何となくの予感はあったし。

静まり返った彼の部屋で、「うん、わかった」と言った自分の声がやたらと高くて、なんだか滑稽だった。


私にしては珍しく、誰かを本気で好きだったんだよなぁ…。と、今になって改めて思う。

好き、というのも、きちんと向き合った上での。


その後、少し話をしている時に彼が言ったのだ。

それが私の「本日の獣道」へと繋がってる訳だが。


言った本人が今でもそれについて考えているかと言われれば、勿論違うだろう。

けれど、だからこそ最後に要らないモノ残してくれたよなぁ…。


「だってさ、"何で?"って突き詰めたらキリがないでしょ?それ聞かれちゃうと、もう答える側のこっちに主導権は無い訳。自分の理由じゃなくて、相手の納得する答えを用意しなきゃその質問が終わらないんだから。」


何それ、屁理屈?

っていうか私そんなに重たい事言って物分かり悪い上に駄々まで捏ねたっけ?と思ったけど、さすがによくよく考えれば思い当たる節がありすぎて言い返せなかったっけ。


もう、つくづく馬鹿な女だよなぁ…と思う。


おそらく、というか十中八九その思考に至る道に彼を導いてしまったのは私だと思う訳だ。

なんかもう、なんだかな。


次はもっといい女に捕まってくれ、ないし掴まってくれ。



…ほら、そうこう考えてたらもう23時回ってるんだよ。


身も蓋もオチもない、考え事とは名ばかりの脳内回想とコメンタリー。

酔っ払いなんて所詮こんなもんだと思ってるんだけどさ。


でも、それでも。

思い出して悲しくなるなら、私は


「今日、飲むんじゃなかったかな。」


口にしたら余計寂しくて、すごく惨めだった。


出ない涙の代わりに乾いた笑いが漏れた。

乾き物なら酒のアテにでもなればいいのに。


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