待ってるよ、颯ちゃん(4)
「降ろすぞ」
「・・・うん」
降ろされたベッドに腰かけながらあたりをきょろきょろ見回していると、ふと颯ちゃんの言葉を思い出した。
『お前もう、俺の部屋来るの禁止』
・・・思えば、それが私の、ベランダでのお出迎えの始まりだった。それまでは部屋に勝手に上がり込んで待つのが当たり前だったから。
その時颯ちゃんは受験生だったから、てっきり勉強に集中するためかと思って素直に頷いたけど、大学受験から数年が経った今もその禁止令は解約されていない。
かと言って彼女がいた気配もなかったし、謎は深まる一方なのだ。あの有名な少年探偵団にでも応援を要請するしか道がないんじゃないだろうか。
「とりあえず湿布で冷やしとくから、炎症治まったらちゃんと温めろよ」
「うん、ありがとう」
「ん。・・・で、本題」
キャスター付きの椅子を引っ張ってきて、私の少し前で腰かける颯ちゃん。
本題、ってなんのことだろう。そう思って首を傾げる私に、少し呆れた様子で彼は、『不法侵入までした理由だよ』と付け加えた。
「えっ」
「えっ、じゃないわ」
「・・・・・・今日が今日であるから」
「哲学的表現はやめろ」
華麗なツッコミをかました颯ちゃんは、キイッと椅子を鳴らして立ち上がる。その動向を目で追っていると、隣に勢いよく腰かけた彼の重みで私とベッドが同時に揺れた。
「・・・なんで俺の部屋、出入り禁止にしたか分かる?」
そう問いかけながらも目を合わせようとしない彼の表情は、いまいち読み取れない。
「・・・わかんない」
「だろうな」
「教えてくれれば、わかるよ」
「教えてもわかんないよ、お前は」
「・・・どうして?」
そう尋ねた時、彼が私に目を向けた。
どこか切なげで、だけど奥底に熱を込めた、惹きつけて離させない眼差し。