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午後23時、ベランダの上で  作者: 冬野まこ
3/6

待ってるよ、颯ちゃん(3)


突然思考を遮った物騒な言葉で我に返り、抱きしめられている事実にようやく気付いた私。


『ごごごごめんなさい!』と叫んで盛大に後ずさると、その拍子にベランダの内側の壁に後頭部をぶつけてしまった。地味に痛い。心が折れそう。


じわじわと広がる痛みに、ぶつけた部分を両手で押さえて(うずくま)る。




「ぶっ」



「もうやだ・・・お嫁に行けない・・・」



「元から(もら)い手いないくせに」



「後頭部殴られるとか信じられない・・・」



「聞けよ今の怒るかツッコむかするところだろ」




ていうかそれ、自業自得な。


そう付け足した颯ちゃんは相変わらず無表情のまま立ち上がり、服の汚れを(はら)った。




「・・・で、立たないの?不法侵入者さん」




しゃがんだまま彼をただ見上げるだけの私に向かって、彼はそう問いかける。




「・・・立ちたい」



「なら立てよ」



「・・・・・・」



「・・・ったく、正直に言えバカ」




はあ、と呆れるようなため息を零し、私の前にしゃがむ彼。


よくよく考えると間近でしっかり彼の顔を拝むのは久々で、その整った顔立ちに私は思わず視線を逸らした。




「で、どっちの足痛めた?」




---こういうところだ。




「・・・なんで気付くの」




こういうところが、ずるいんだ。




「・・・右だな」




ほら、と私に背中を向ける颯ちゃん。


ああ、やっぱり、ずるい。




「いいの?」



「今日だけな」



「部屋に上がるのも?」



「・・・今日だけ、な」




どうして、なんて聞けなかった。


その答えを聞いてしまったら、きっと私の感情はもう抑えきれなくなるような気がした。




「颯ちゃんも、素直じゃないよ」



「・・・早く乗れ」




肩に乗せる手が、少し躊躇(ちゅうちょ)した。


もう、全然うまくいかない。こんなに颯ちゃんって、男の人だったっけ。

ここ最近ずっとベランダから声を掛けてしかいなかったから、こんなに近くで触れられる距離にいる颯ちゃんなんて、・・・そんなの全然、分からない。



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