第1話「わたし」
あなたは社会において、その他大勢に区分されますか?それは意識しなくても普通に生きていける、恵まれた環境。
でも世界には想像もできない、違う環境を持つ人が大勢いる。
そのほんの一部に触れたこの女性は、今までと変われるのか?
今日も朝から電車にゆられて、楽しくもなんともない仕事に行く。仕事は工場の作業員。いつもと同じ作業。いつもと同じ顔ぶれ。悪くはないけど、刺激もない。あーあ私一生この繰り返しなのかなぁ。も毎日のこと。
でもこれといってやりたいこともない25歳の私の名前は紺野ゆい。
恋人もいなければ、友達も少ない。職場でも人付き合いは苦手。
こんななんにもない自分が大嫌い。毎日なんのために生きてるの?私がいる意味はなに?
私が消えても誰も困らないよね?
いつも勝手に涙が出てくる。
でもこんな弱くてなんにもできないところがまた嫌いになる。
夜はいつもこうなんだ。早く私を眠らせて…
でも眠っても消えれる訳じゃなく、また朝になる。
電車にゆられて、仕事に向かう。
「おはようございます。」
「あ、紺野さん!ちょっといいかな」私の嫌いな上司だ。朝から何の用だ。
「実は今日から、違う現場に移動してもらいたいんだよ。隣なんだけど、ちょっと人が抜けて大変みたいで。悪いけど今から行ってね!」
上司はそれだけ言って去っていく。
は?まじで?
とくに楽しくもない職場だけど、なれてるから離れるのはつらい。人間関係を気づくのが苦手な私は新しい所に馴染めるかが不安だ。
「今日から移動なんだって。隣の現場。」ここでは一番仲のよかったりんちゃんにお別れのあいさつ。
「え~!?なんで?しかもそんなにいきなり移動なの?なんで?」りんちゃんは声が大きくて助かるな。他の人への説明は不要になった。
「わかんないけど、人がいないんだって。」
「そっかぁ。でも隣って、ちょっと大変だよね。耳がさ…どうやって仕事教えてもらうのかな?」
「あんまり行ったことないけど、聞こえる人もいるんじゃなかった?」
隣の現場は、特殊な職場。
耳の聞こえない、聾唖者※が多い。
※聴覚に障害があり、手話でコミュニケーションする人のこと。
別に激しい偏見とかはないけど、大丈夫かなぁ。
でも私、手話はできないし、きっと普通に聞こえる人が教えてくれるよね。
そうやって、新しい職場にやって来た。
変わりたかった日常がホントに変わったときには、とても怖くなる。
でもまだ変わったのは少しに過ぎなかった。