39点の1日
「じゃあ今からテスト返すぞー!名前呼ばれたら取りに来い!」
「はーい」
皆が元気に返事をする中、私は一人教科書に頭を隠して震えていた。かに座、しし座、さそり座…と成績のいい順に名前が呼ばれていく。そして案の定、十二番目のしんがりは私だった。
「最後!うお座!」
「……はい」
蚊のなくような声で、弱弱しく立ち上がる。皆が私を見ているような気がして、顔から火がでるんじゃないかってくらい恥ずかしかった。教壇の前に立つと、先生が厳しい顔で私を凝視した。私は思わず肩をすくめた。
「うお座。39点だ!」
「ひぃぃ…!」
「最下位だぞ!」
…成績が悪いんだったら、そんなに大きな声で言わなくたっていいのに。
「『人に分かってもらえず、さびしい気分になってしまいそう』…悪くはないが、こんなもの誰にでも当てはまるんじゃないか?もっと言葉を具体的にするように」
「はい…」
「それからラッキーアイテムの『500円札』だが…これは逆に、今もってる人の方が少ないだろう?手に入らなかった大多数の人間を不幸にしてしまうことになるぞ」
「すいません…」
「お前の答案に、うお座の人たちの運勢がかかってるんだ。明日はもっと頑張れよ!」
「……はい」
答案用紙を受け取ると、私は誰の顔もみないように気を付けながら急いで自分の席に戻った。これで『星占い』は、今月3回目の最下位だ。55点、53点、昨日も45点…なんだかやればやるほど、成績が落ちていってる気がする。机の奥深くに答案用紙を隠しながら、私は知らず知らずのうちにため息をついていた。
「ただいま~…」
それから大分道草を食って、私は家に辿り着いた。誰にも見つからないようにこっそり玄関を開けると、水槽の中でお母さんが待っていた。
「あら、おかえりなさい。遅かったじゃない」
「う…!お母さん、いたんだ」
「当たり前でしょう?何言ってるの」
透き通る淡水の中で優雅に尾ひれをひらひらさせながら、お母さんが微笑んだ。だけど水の中では優しそうな素振りを見せるお母さんも、怒ったら恐ろしく怖い。最近私の成績が悪いから、お母さんは口から泡を吐きっぱなしだった。
「うお座ちゃん。そういえば今日のテストはどうだったの?」
「あ…あー、忘れてきちゃった…」
「そう…でも隠したって無駄よ?明日の朝のニュースで全部放送されるんだから」
「あはは…」
私は笑ってごまかし、急いで部屋へと戻った。全く、いい加減ニュースや新聞で点数を乗せるのは止めにしてほしい。プライベートも何もあったもんじゃない。
その日の夜は、やはり45点の1日だけあってあまり眠れなかった。そういえば答案にも、『深い悩みに陥ってしまいそう』と書かれていたっけ。もし明日の39点がお母さんにバレたら…怒りで水が沸騰してしまうかもしれない。
ああもう、明日になんてならなければいいのに。どうせ星占いじゃ明日も39点だし、『500円札』なんて持ってないし、いい日になんてなりっこない。毛布を頭からかぶり、私は震えながら浅い眠りに落ちていった。
「…うお座ちゃん、うお座ちゃん。遅刻するわよ」
「あ…お母さん…」
冷たい水を頬に感じ、私は目を覚ました。お母さんが水槽の中を跳ね回り、私に水を浴びせていた。私は昨日のことを思い出し、ハッとなった。
「もう星占い終わった?」
「ええ」
「!」
何も言わず微笑むだけのお母さんに、私は余計恐怖を覚えた。
「その…ごめんなさい…」
「いいの、うお座ちゃん。39点でも…また今日頑張ってくれれば」
「でも…」
「誕生日おめでとう、うお座ちゃん」
「え?…あ!」
忘れてた。そういえば、今日は私の誕生日だった。
「知ってた?誕生日占いではうお座ちゃん、今日は1位なのよ」
「そうなの?」
「学校が終わったら、真っ直ぐ帰ってくるのよ?今日はあなたの誕生日なんだから」
「うん!」
私はにっこり微笑んだ。星占いでは最下位だったけど、誕生日占いでは1位だったんだ…そう言われると、何だか今日はいい日になるような気がする。
着替えをすませ、急いで学校へと向かう。
「おはよう、みんな!」
私は声を弾ませた。いつもの交差点も何だか違って見える、39点でも一等賞の私の1日がこうして始まった。




