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空をね、飛べると思ったの

作者: 丹赤

「空をね、飛べると思ったの」

 そう言って彼女は微笑みながらこちらの方へ振り向いた。

「それで、思ってどうしたの」

 僕は正直どうでもよかったけれど、続きを聞いてあげようとした。

「それで、試しに飛んでみた」

 本当かよ。意外な答えが返ってきたので少し驚いたけれど顔には出なかった。


 きっと月明かりよりも明るい街灯の照らす夜の公園、そこのブランコに座って、時々僕らはこうしてお話にならないお話をする


「反応が欲しいんだけど」

 いつものことだけどさ、と彼女はため息をついた。

「じゃあ……飛んだ感想は?」

「あんたって過程よりも結果を重視するタイプよね」

 確かにそうかもしれないが今はそんなこと関係あるのだろうか。

「まあ、悪くはなかったわよ。なんてったって空を飛ぶんですもの」

「どんな景色だったの?」

「太陽を見たの、すっごい近くで。太陽が照らしてる空って明るくて綺麗なものだって知ったわ」

 太陽、か。それってすごいことなのかよくわからないなとやはり顔に出さずに思った。

「太陽ってとっても温度が高いって聞いたんだけど近づいたりなんかしていいの?」

 僕は単純に疑問に思ったことを尋ねた。

「さあ、そこはよく知らないわ」

 やっぱりこの人は色々と適当だな。自分の中の既知の事実を再確認しながら、そしてもう一つ、そういうところが嫌いではないということも確認して僕は一つ尋ねた。

「僕にも飛べるかな?」

 もし飛べるなら、僕も機会があったら、そんな巡り合わせがあるのなら空を飛んでみたい。

「さあね、知らないわ。そんなの」

 できるなら飛び方を教えて欲しかった。でも半分くらいはこうやって返事が返ってくるって知っていた。

 少ししてから、でもね、と彼女は言葉を続け直した。

「私が飛べたんだからそのうち飛べるでしょ、あんたにも」

 彼女は僕に微笑んだ。そして、僕もそれにつられてついにはにかんだ。

 そろそろ帰ろうか、とどちらが切り出すでもなく二人はブランコから降りて公園の外に歩き始めた。そして公園の入り口までくると、二手に分かれてそれぞれの帰る道をそれぞれのペースで歩いて行った。



 きっと月明かりよりも明るい街灯の照らす夜の公園、そこのブランコに座って、時々僕らはこうしてお話にならないお話をする


 照らされるはかすかに揺れるブランコ、それを見下ろすは天井


 際限がすぐそこにある僕らの空は、今日も僕らが未だ見たことのない月をその画面に映し出す


 これは地下のお話。人々が地下に逃げてからちょうど二百年たった頃のお話

 

 


 



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