叫ぶ声
「チームから抜けてくれ」
開口一番に告げられた言葉はそれだった。
「はあ?何言ってるの?アタシの腕、知っているんでしょ?少なくともそこのぼんくらよりは出来るわ。…そんな私にチームを抜けろというの?」
「ああ。そうだ」
その言葉にアタシの目線は鋭くなる。
「どういうつもり?」
「どういうつもりも何もない。君はいらない…そう言っているんだ」
「はあ?何を言っているの?ねえ?皆?」
アタシはそう言って他のメンバーに同意を促した。だが誰もこちらと視線を合わそうとしない。
「え…?」
「これはチームの総意だ。チームが君をいらないと判断した」
その言葉を聞いた瞬間怒りが込み上げてくる。
「アタシが何をしたっていうの!」
「…一言で言えば。君は熱すぎた」
「はぁ?」
わけのわからない言葉にアタシは首を傾ける。彼は一人の人間を指さした。彼はメカニックをしている人だ。
「彼は言っていたよ。君からの注文が細かすぎるってね」
メカニックの人は大きく頷く。だがアタシはその評価に納得がいかない。
「それは、ロボ甲子園に出るなら。自分の機体を持っているなら最高の出来に拘るのは当然のことじゃない!」
「君にとっては当然のことかもしれないが。僕らにとって当然のことではない」
「…!!」
何を言っているんだ?この人は
「彼」
そう言って彼は別の人間を指さす。アタシと同じ部隊に居る人だ。
「彼は君の無茶な突撃にほとほと参っていたそうだ」
「勝つためよ。正しい判断だったわ。それにアタシたちの実力ならもっと」
「それも、必要はない」
「…!!」
その後も彼は一人ずつ指を指し、理由を説明していく。だがそのどれもがアタシに取って納得できないことだった。
「どれもやって当たり前のことじゃない。アタシたちはロボが好きなんでしょう?ロボ甲子園に勝ちたいんでしょう?ならこだわって当然のごく当たり前のことだわ。それをして何がいけないっていうの!!」
「誰も望んでねーんだよんなこと!」
突然、彼は激高する。アタシの勢いは思わず止まった。
「俺達はな。将来のためにロボに乗ってるんだ。ロボ愛?甲子園優勝?…どうでもいい。いいところまでいって話題に上がって。ランクの高い中学出身ですって言えればそれで満足なんだよ。自己アピール作りなんだ。ただのな」
「何を言っているの?ここはトップ校で…」
「トップ校だからそう思うだろうが!それともなんだ。誰もが自分みたいにキラキラと輝いて挑んでいたと思っていたのか?…皆俺と同じだよ。ランクの高い学校だから入って、ランクの高い学校から出た箔が欲しいだけだ。そんな中、一人勝手気ままにキラキラした奴がいると熱くて鬱陶しくてたまんねーんだよ。それが俺達の総意だ」
アタシはその言葉を聞いた後、わなわなとふるえながら他の人たちに問う。
「本当に…皆そう思っているの?」
何人かは気まずそうに眼を反らした。だがそれだけだ。皆この大きな流れの中に飲み込まれ…言葉を失っていた。
「そう…そうならこんな場所こっちからやめてやる!」
…そう言ってアタシは部を止めた。だがそこから待っていたのはつらい日々だった。
天動学園ロボ部。有名な部活を喧嘩別れした形となったアタシの居場所は天動学園から失われていった。もともとロボが大好きでロボ部に入り浸っていたアタシだ。よりどころを失ったアタシは友達好きも上手くいかず。様々な困難に見舞われることになる。そんな中でも耐え抜き。ここではロボが出来ないことを理解していたアタシは他校への転校を考えた。
…だが、有名な部活を喧嘩別れしたという噂がなぜか広がり、アタシを受け入れてくれるロボ部は存在しなかった。
思うようにいかない日々、そんな中、気持ちも沈んでいく。ロボに費やした自分には何も残っていない。これで本当に良かったのか?そんな思いが湧いてきたのだ。
結局アタシは腐った。全てを諦めたアタシは、ロボ部の存在しない底辺校に転入することにした。ここならロボのことを考えることも無く平和に暮らせる…そうだ、口調も変えよう。誰からも受け入られるキャラになって流れに任せて幸せに生きるんだ…。
アタシは自分が嫌った。あのくそったれな部活のメンバーと同じような屑になっていることを実感しながらも落ちていくことを止めることはできなかった…
☆☆☆
「あ、夢?」
目を覚ますと既にホームルームは終わっていた。目をこすりながら立ち上がる。目の前には部活の入部届があった。これを出せば本当にロボ部との関連を断ち切れる。何に入ろうか…深層の令嬢でも目指して読書部が良いかもしれない。いや、在りし日の青春を目指して何かスポーツ系の部活に…
そう考えたところで自分が誰かに見られていることに気付いた。そしてその方向へ目を向けるとそこには茶畑さんが居た。
「ヤッホー。目が覚めたみたいねミカ」
「茶畑さん?見てたなら起こしてくれてもいいのに…」
「いや~寝ている人を起こすのってレベルが高いからね~あれ、それ部活のあれ?」
「え?ああ、そうよ。何か部に入ろうと思って…そう言えば茶畑さんって何部に入っているの?」
私は入部届をなぜか隠した。いけないことをしている気持ちになったのだ。そして話題を反らすように会話を振る。茶畑さんはそれにあっさりと答える
「あーし?あーしはバスケ部だね。まあ入ることはお勧めしないけど」
「バスケ部?放課後だけど部活動はしなくていいの?」
「あれ?知らないの?」
「何が…?」
私はちょっとにやにやするように言う茶畑さんにイラつきながら素っ気なく返す。この人は何か苦手だ。他人の全てを見透かしているような気がする。これが本当のコミュ力のなせるわざなのか
「素っ気なく返さないでよ。もー。うちの部活の担任。二条って言うんだけどね。まあ、ロボ部を潰そうとしてる奴なんだけど。今日は機嫌がいいのよね~。だから部活なしなの」
「機嫌がいい?」
「そ、今日ロボ部がなくなるから」
「なくなる!?」
私は思わず声を荒げてしまう。何が面白いのか茶畑さんはニヤニヤしている。
「ふふふ。結構噂になっていたんだけどね。二条がロボ部の敗北の多さに目を付けて勝負を吹っかけたって話、なんでも御影二中の陣地を奪わなきゃ勝ちにならなくて敗北したらその場で廃部って話らしいよ?っで今絶賛攻められ中。部員二人しかいないから守り切るのは無理じゃないかな?ってのがもっぱらの話ね。あ、でもミカには関係ないかロボ嫌いだもんね」
その瞬間、地面がぐらっと揺れたような気持になる。絞り出すように言葉を出した。
「そ、それは…あの銀川君や赤井君は今も戦っているの?」
「戦ってるよ?ユウちゃんは負けるつもりはないみたいんだね~ロボ部を失いたくないんでしょ。意気揚々と出かけて行ったけど。まあパイロットとしての腕は良くないし、多勢に無勢だろうからね~」
ロボ部がなくなる?いや、私の知ったことか。もとよりここでロボ部をやるつもりはなかった。だから断ったんじゃないか。私がいれば多分勝てる。だけど私がする意味も無い…それでいいんだ。
その時、銀川の言った言葉が頭を過る。
『だってミカさん。ロボ好きでしょ?』
『わかるんだよ!だって同類だから!!その心の奥底から迸る熱いロボ魂が!!煮えたぎっているのをね!!』
何が分かると言うのだろうか、私の熱い魂は既に鎮火されていると言うのに。
「あ~。得にすることも無いし、部活動見学ついて行ってあげようか?それとももうそれ何か書いてあるの?だったら届けるの手伝って…」
私は…
「っておーい?聞いてる~?」
『このままでいいのかよ!アタシ!!』
そう叫ぶ心の声が聞こえた。気がした。