背水の契約
部活動が終わった後、ボクはなぜか校長先生に呼び出されていた。扉をノックし、中へと入る。
「1年1組銀川ユウ。来ました!!」
「入りたまえ」
中に入って辺りを見回し…ボクは思わずうめき声を漏らす。
「げ、二条先生…」
「おうおう銀川。先生に向かってげっとは良いご身分だなぁ~?」
嫌らしくメガネを上げる、中年の男性。見た目はパリッとしたサラリーマンだがその言葉言葉には棘と汚い言葉使いが光る…ボクら、ロボ部の天敵…バスケ部の二条先生だ。
彼は性格が悪いことで有名だ。それなりに実績のある高校のバスケチームに所属し、プロを目指していたらしいが、視力の低下で夢を断たれ、完全に腐ってしまったと聞く。サラリーマンとして活動したあと、脱サラしてこの学校の教師となった。バスケ部の指導はしっかりとしているらしいが、時折女子選手の脇をガン見するなど問題行動が目立つ。セクハラまがいのことをしているともっぱらの噂だ。もっとも証拠はないが…
そんな彼がなぜ、ボクらロボ部を目の敵にしているかというと、単純に夢だ楽しみだと部活動をやっているボクらが気に食わないらしい。だからこそさっさと部活を潰そうと今までも色々な手を打ってきた。もっとも何とかしのいでは来ているが…
そんな二条先生がいる。ボクは思わず身構える。にやりと笑った二条先生が何か言おうとしたところで校長先生が口を挟んだ。
「二条先生。喧嘩はやめてくださいね」
校長先生はダンディな老人だ。渋みが溢れている。何よりも心を大事にしていてボクらロボ部の存続に力を注いでくれた恩人とも言える相手だ。
「わかってますよ。校長先生。それにもう。そんなことをする必要もありませんから」
「必要もない?」
二条先生の発言が気にかかったボクは言葉を繰り返す。二条先生は嫌らしい笑みを浮かべている。これからおこることが楽しみで仕方ないといった感じだ。一方校長先生は憐れみの目っていうかなんか悲しい目つきをしている。
「そう必要ないんだな~これが、なんてたってロボ部は廃部になる運命だからな」
「はぁあ!何を言ってんだあんたは!もともと部があったのを再建しただけだから部員数が下回っていても許してくれるっていうことに決まっていたじゃないか」
ボクはそのあんまりな言い方に憤慨する。だが、二条先生はその様子を見てけらけらと笑いながら言葉を綴る。
「くくく、誰が部員数の話をしたよ~。俺が言ってるのはそんなことじゃない。もっと根本的な問題だぜ」
そう言って二条先生はプリントを机に投げた。紙が散らばり内容が露わになる。そこに映っていたのは数値のデータだった。
「こ、これ、ロボ部の…」
「そう、勝敗データとその他もろもろだ。商社勤めの経験が生きたぜ。これをみるとさ~お前ら随分と負け越しているみたいだな。今回もあと一歩のところだったって話じゃねーか」
「…!」
「わかってんだろう?ロボ甲子園の結果は学校の評判に関わる。あ~あ。いけね~な~。負け越されちゃ~この学校の悪評が広まっちまうかもしれね~な。それはいけね~よな。なあ?銀川?」
ボクは悔しさで拳を握りしめる。確かに勝ててはいない。だけど楽しめている。部活ってそういうもんじゃないのか?いつかは勝てるかもしれない。いや、勝てるように努力はしているまだ結果が出ていないだけだ。
「そ、それは…」
「銀川君」
反論しようとしていたボクの言葉を遮ったのは校長先生だった。彼は穏やかに語るように離し始める。
「私は学校の長だ。君のロボを愛する姿勢は好ましい物だと思っている。その為に信念を曲げない気持ちもね。…だが、それが学校に被害をもたらすと言うなら切り捨てなければならない。私は言ったね?「何よりも心が大事だ。君がそこまでロボを愛しているならロボ部を存続させよう」っと」
「それはわかっています。だからこうやって!」
ボクは校長先生を説得しようと言葉を続ける。だがその言葉を遮ったのはまたしても校長先生だった。
「思うだけなら誰にでもできるよ?」
「え…?」
何を言っているのかわからなくて固まってしまう。横では二条先生が腹を抱えて笑っているのが見えた。
「心…意気込みというのは結果が伴わなければいけない。思うことなら誰にでもできる。大事なのはそこから一歩踏み出して不可能を可能にする…何かを成すということだ。…私は意気込みは買ったが、ただ思うだけで何もしない場所を提供したつもりはない…」
そう言って一枚の紙を校長先生は出した。
「とはいえ、いきなりでは君も納得しないだろう…誓約書だ。二条先生と君、そして私でサインをする。内容はこうだ『今日、君たちを攻めてきた学校…御影二中の陣地を一つでも奪うこと、これに成功すれば部の存続を当面は認めよう。だがこれから二週間の間に攻め落とせない。または自身の陣地を失うようならば部を廃部する』っと言う内容だ」
そこでちらっと校長先生は二条先生を見た、そこには有無を言わさない迫力がある。
「…これで。二条先生もいいですね?」
「ええ、構いませんよ。相手の御影二中は上位校…万が一にも負ける可能性はない。もう私の勝ちは決まったようなものです」
そう言ってサインを書く、校長先生の目がボクに向いた。
「…銀川君もそれでいいですね?」
もはや、ことここに至っては何もできない。最大の理解者が敵に回った瞬間敗北は決まっていたのだ。
「…はい…」
ボクは力なくペンを握りサインを書いていく、そのサインはいろんな気持ちが混ざり合いぶれていた。
「君たちの心意気を期待していますよ?」
校長先生の言葉が重く響いた…
☆☆☆
とぼとぼと校長室から帰還する。どうしたものかと頭を悩ませる。
くっそ!二条め!…やめよう心の中で悪態をついても仕方ない。負け続けているのは事実なのだ。ただ、このタイミングで話を付けてきたのは明日も御影二中が攻めてくる可能性があると理解していたからだろう。まったくやられた。実際問題今の戦力では御影二中には…
そこまで考えたところでミカさんの存在が頭を過る。そうだ彼女ならきっと戦力になるはず。今からでも頼みに…
そう思って向かおうとした足は自然に止まる。彼女はロボ好きだ。…そんなロボ好きがマシニクルワールドを止めた。理由は知らないが何等かの事情があるんだろう。そんな人を巻き込めるか?
「これはボクたちロボ部の問題だ…だから何とかしないと…」
そう言ってボクは両頬を叩く。
「よし、やってやる!!どんな戦況だって逆転するのがロボものの醍醐味だ!!」
とりあえず龍玄に相談しよう。そう思ったボクは駆け出した。