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前篇

前編は恋愛のれの字もありません。

近くて遠い4つの世界のお話


世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水

天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し

波紋は大地となった


波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて

それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している


これはそんな世界の《4の国》の話





欲と機械の国、科学が発達した国

仕組みを理解できずとも使える”力”に溺れるかもしれない、危うい国。



それは偶然だった。

彼と彼女はクラスメイト、すでに1年と2か月経過していたのだが、特に話す機会もなく、あぁそんな人もいたね位の認識。


それはたまにしか訪れない図書室だった。

レポートの資料を集めようとして、どうしても紙媒体で見たかった彼は図書室に向かい、休んでしまった日の授業ノートを友達から借り受け、コピーをとろうとしていた彼女も図書室へ。


「あ、ごめん。ぶつかった」

「あ、こちらこそ……。資料落としちゃってごめんなさい」

「どうみても、君の方がえらいことになっているけど」

「ウ、ウン。ソウダネ」

「拾うから、俺の本持っていて」


かたや本を2冊おとした彼。

かたやコピー紙数十枚を床にぶちまけた彼女。


どちらが悲惨か、考えるまでもなかった。





そんなことがあってから、時折話すようになった二人。意外にも彼らの趣味が合ったようだ。


たとえば料理……彼の両親は共働きで、出来合いのモノは飽きたという理由で、自分で作るようになったそうだ。暖かい飯はそれだけでごちそうという、少々チョロイ感性の持ち主だったが。彼女も似たような境遇で、どうせなら自分で納得できる味のものが食べたいといろいろ試行錯誤しているらしい。むしろ父親を実験台にしている節あり。


たとえば音楽……二人ともに某有名クリエイターの作品の音楽が好きだった。彼はその作品自体は好きでも嫌いでもないのだが、音楽だけは好きだと言う。彼女は作品も含めて好きなのが、ちょっと違うところ。


たとえば映画……そう、映画好きだったのが二人の転機。




「まさか電車が止まるなんて」

「人身事故だって。これは当分動かないな……」


スマートフォンで交通状況をチェックしつつため息。


見たい映画が、たまたま少し遠くのシネコンでしかやっていないということで、一緒に見に行こうかなんて出かける約束をしたのだが、丁度乗換駅である待ち合わせ駅で急停車。

携帯が鳴って、迎えに行くから動かないようにと連絡があってから、数分で走ってきてくれた彼。


「ここは陸の孤島だからな。映画はまた今度にしておこう……最寄駅は○○駅だったっけ?」

「うん。この路線1本しかないから振り替えもないし、家に帰れない」

「下手にタクシー使うと出費が大きいし。ここで待っていた方がいいか」

「そうだね。2時間位で動くといいけど……」


移動手段を失った乗客が右往左往するなか、駅の壁側、ちょうど窓があって腰かけるのにちょうどいい手すりがあるところに陣取って、ぼんやり電光掲示板を眺める二人。せめて映画を見た後ならば、話題には事欠かなかったのだろう。しかし二人は無言でもそれほど苦痛を感じていなかった。


それは、気に掛けるほどの相手でもないからだろうか、それとも……。




数時間後、いまだ電車は復旧せず。

ファストフード店も喫茶店もファミリーレストランも座ることができず、食事だけ確保して駅の壁側で食べていると、彼女の携帯が震えた。どうやら彼女の父親が仕事から帰ってきて、帰宅していない彼女を心配したようだ。訳を言い、車で迎えに来てもらえる事となり、少し安心し少し残念に思う二人だった。




そして駅の外に出て、バスターミナルの端で待っていると、彼女の父親の運転する車が入ってきた。二人隣り合って立つ姿に、わずかに眉をひそませたが、車から降りてきて丁寧にお礼を言った。娘が世話になった、ありがとうと。



「君がついていてくれたのは感謝する。家まで送っていこう」

「いえ、結構です。近くなので歩いて帰ります」

「恩知らずと思われたくないのだが?」

「本当に結構です」



俺の家、あそこなのでと指差したのは、駅前にある高級そうなマンションだった。ここから歩いて3分程。彼女と彼女の父親は目を丸くしてマンションを仰ぐ。そんな表情はそっくりで親子なんだなと彼は思った。



「……本当に近かったのか」


なんとも微妙な顔をする父親、娘を保護してくれていたことには感謝するが、ずっと傍にいたことは父親として複雑なのだろう。そもそも2人で出かけているなんて聞いていない、デートじゃないか、と。

思っていても口には出さない、何故なら娘はそういう認識をしていないように思えたから。墓穴を掘ることもないだろうと父は思う。


「ご、ごめんなさい。私に気を使ってくれたんだね……長い時間立たせちゃって」

「今日は親がいないので、家に上がってもらうわけにはいかなかったので」

「?」

「思春期真っ只中の青少年なので」



最後のセリフは、彼女の父親にだけ聞こえるように告げ、高校生とは思えない艶やかな表情を見せた彼。父親は急いで娘の手を取り、車に乗せ去って行った。彼女はのんきにありがとうと手を振って、彼も気を付けてと手を振った。

次は23日投稿予定です。

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