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僕と幼馴染み

作者: シュウ

僕には幼馴染みがいる。

とっても仲が良くて、とてもノリのいい幼馴染みだ。


「ねぇ」


僕が声をかけて手を差し出すと、なにも言わずに微笑んで手を握り返してくれる。

そして雨の中、縦横斜めに渡ることが出来るスクランブルな交差点の真ん中で一緒に踊ってくれるような幼馴染みだ。


僕はそんな幼馴染みを持てて嬉しかった。


でもある日、幼馴染みは交通事故で死んでしまった。

幼馴染を轢いた運転手は、居眠り運転でハンドル操作を間違えたのだそうだ。

僕はお葬式に出て幼馴染みの親族と一緒に彼女の亡骸を見た。

幼馴染みの顔は本当に死んでいるのかと疑いたくなるような穏やかな寝顔で、今にも起き上がってきそうだった。

葬式を終えた僕は、特に泣きもせずに普段通りに生活をした。

またいつか幼馴染みと会えるような気がしていた。つまるところ、死を受け入れられなかったのだ。

幼馴染みが死んだなんて何かの間違いに違いない。

そう思いながら生きていたある日、学校帰りの道で、幼馴染みに出会った。

幼馴染みは電柱の影からふわっと現れた。

僕は嬉しかった。

また戻ってきてくれた。そう思った。

それと同時にやっぱり死んでいなかったんだと思った。

僕は家に帰って両親に話そうとした。

しかし幼馴染みがそれを遮った。


「私の両親から自由になりたかったから死んだの」


僕は意味がわからなかったけど、幼馴染みは嘘をつかないので信じた。

その日、僕は家に帰らずに幼馴染みと大きな公園で夜を過ごした。

コンビニでパンを買って二人で食べた。

1週間ぐらいしか離れていなかったのに、すごく久しぶりな感じがしてとても楽しかった。

次の日、幼馴染みがなんの脈絡もなく旅がしたいと言い出した。

僕は少し驚いたけど、こんなやりとりが僕と幼馴染みの普段のスタイルなので、不思議と受け入れることができた。


「どこに行く?」

「うーん。山がいいかな」


提案した幼馴染みの希望通り山に行くことにした。

足となる乗り物が無かったので、少し歩いてバスで行くことにした。

こんなこともあろうかと貯金しておいたお金が役にたって良かった。

幼馴染みも家に忍び込んでお金を持ってきたらしい。

そして二人で談笑をしながらバスに乗り込む。

乗っている他の乗客の迷惑にならないように小声で話ながらバスに揺られた。

しばらく乗っていると、だんだんと田舎の山道へと来ていた。

バスは終点まで到着し、この辺り一帯の山に入るための遊歩道の入口に到着した。

僕と幼馴染みはそれぞれお金を払って降車する。

街中とは違い、澄みきったキレイな空気が僕らを出迎えた。

季節外れということもあって、僕らの他に登山客はいなかった。

ちょっと静かすぎる気もしたが、久しぶりに会えた幼馴染みと一緒にいられるだけで、僕はワクワクしてきていた。

二人で遊歩道を進んでいく。一応一本道なのだが、登山客にはすれ違いすらしなかった。本当に誰もいないようだ。


「なんか変じゃない?」

「私は二人だから怖くないよ?」


そうだ。

幼馴染みといるんだから怖いはずがない。これはワクワクのドキドキなんだ。そう思うことにした。

でも異様な雰囲気が漂っているように感じた。

でも幼馴染みはズンズンと進んでいく。僕もそれについて行く。

そして進んでいくにつれて、傾斜が出てきて足にかかる負担が多くなる。

それに伴って進むスピードも少しづつ落ちていく。


「ちょっと待って」

「ダメだよ。待てない」


幼馴染みは僕よりも早く歩いていく。

だんだんと幼馴染みとの距離が開いてきた。


「待ってよ」


少しでも目を離すとはぐれてしまいそうなぐらいまで離されてしまった。

いつもの幼馴染みらしくない。

僕はそう思った。

ついに幼馴染みを見失ってしまった。

一体どこへ行ったのだろうか。

僕は辺りを見回したがそれらしい姿はなかった。

とりあえず山頂を目指して上へと進む。

きっと幼馴染みも上を目指しているに違いない。そう信じて上へと進む。

しかし幼馴染みの背中を追いかけているうちに、いつの間にか遊歩道から外れてしまったようで、今どこを登っているのか全くわからない。

さっきまでは幼馴染みと一緒にいたこともあって気にならなかった静けさも、今ではとても不気味に感じる。

自分を囲む木々。時々聞こえる動物の鳴き声。虫の声。カサカサと風が葉を揺する音。

そして自分以外誰も見当たらないこの空間。

僕は怖くなってきた。

進む足もスピードが落ちてきて、ついには止まってしまった。

怖い。

背中に変な汗をかいているのがわかる。

僕は考えた。

どうして幼馴染みは居なくなってしまったのか。

遊歩道を歩いていけばいいのにどうして逸れて歩いたのか。

そもそもどうしてこの山を選んだのか。

選んだのは幼馴染み・・・いや、この山に決めたのは僕だ。

山に行きたいと言ったのは幼馴染みだけど、この山に決めたのは僕だ。

じゃあなんで僕はこの山を選んだ?

それはバスで行けるからだ。

バスに乗って幼馴染みと話しているうちに到着して・・・

あれ?何を話していたのか思い出せない。

たしか・・・久しぶりに会ったから嬉しくて・・・

久しぶりに会った?

僕は彼女の亡骸を見ている。そして法事もお通夜も済ませて燃えて灰になったところまで見ている。

横で母さんが泣いていた。

じゃあさっきまで一緒にいたのは・・・誰?


「思い出した?」


ふと横から話しかけられた。

幼馴染だった。

やっと会えた喜びと今考えていたことがグチャグチャになってしまって近寄れない。


「君はやっぱり死んだの?」

「うん」


じゃあ今僕に見えているのは・・・幽霊?


「幽霊っていうよりも、君が勝手に見てるだけの幻想ってやつ」


幻想?


「うーん・・・もし私が生きてたらいいなって考えてたら見えてきちゃったイメージの塊って感じかな。むずかしいや。要するに君の思い込みで君がここに私が居るって思い込んでるわけ」


つまりは幼馴染の彼女はやっぱり死んでいるし、僕がいつまでも死んだと認識していなかったからそれが原因で僕の頭がおかしくなってしまったと。そういうことか。


「なんとなくわかった。でも会話してるよ?」

「だって君がなかなか私が死んだ事を認めてくれなかったから。今ここにいるのは幽霊の私。さっきまで君が見ていたのは君のイメージ。つまり別人」


なんでこんなことに・・・


「君ね。早く私が死んだ事を認めないと、君も死んじゃうよ?」

「君に会えるなら死んでもいい」


僕は素直にそう思った。

幼馴染みが居ない世界なんて楽しくもなんともない。ただの普通しかない。


「そんな子供みたいなこと言わないで。私だって死にたくなかったよ。でも死んじゃったんだから仕方ないじゃん」

「僕も連れてってよ。一人は寂しいよ」

「私だって寂しいよ。でも君が死ぬのはそれ以上に悲しい。私の分まで生きてよ」


幼馴染みは泣いていた。

涙は流れていなかったけど、泣いていた。

幼馴染みが泣いているところは1回だけ見たことがあった。

小さいときに僕が転んで膝からすごい量の血を流した時だ。

痛みもなかったし普通に歩けたんだけど、少し深く切れてしまっていたようで血がドクドク溢れ出していた。

それを見た幼馴染みが『痛そう』と言って、泣き出したのだ。

僕はそんな幼馴染みを見て必死に泣かないでと言っていたのをよく覚えている。

今思うと、泣かない僕の代わりに泣いてくれたのかもしれない。

もしかして、今も僕の代わりに・・・?


「お願い・・・君は死なないで・・・」


うつむいて顔を伏せる幼馴染み。

僕は近寄っていって優しく抱きしめた。


「泣かないで。僕は君の泣き顔は見たくないよ」


それを告げると、幼馴染みはまた泣き出した。

僕は昔のように泣かないでと言って幼馴染を落ち着かせた。


「励ましに来たつもりだったのに、逆に励まされちゃった」

「そういうもんだよ」

「じゃあ私行くね」

「うん。元気でね」


そう言うと幼馴染は木々をすり抜けるようにして静かに消えていった。

僕は幼馴染みが消えていなくなるのを見届けると、彼女とは逆方向に向かって歩いた。

なんとなくこっちが正解の道だと思った。

すぐに視界は開けて、他の登山客が集まっている山頂と思われる場所に出ることができた。

ちょうど夕焼けが綺麗に見える時間帯で、登山客達もその夕日に見とれていた。

僕もその夕日を眺めた。

その夕日を見ながら僕は幼馴染みとの思い出をゆっくりと思い出した。

すると突然涙が溢れてきた。

今まで泣いていなかった分の反動なのか、それとももう幼馴染みに会えないことを思ってあふれ出た涙なのかはわからないけど、僕は周りの人たちに気づかれないように泣いた。

そう。もう幼馴染みには会えない。

本当は一緒に行きたかった。

でも幼馴染みは僕に死なないでと言った。

だから僕は生きていく。

精一杯生きて、寿命で果てるまで生ききって、それから彼女に会いに行こう。

それが僕と幼馴染みの約束だから。

僕は沈んでいく夕日を見ながら涙が枯れるまで泣き続けた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると幸いです。


いつもとは違った感じで書いてみました。

夏といえばホラー!

でも怖いホラーは書けないので・・・というわけで出来たのがこの作品でした。


お楽しみいただけたのでしたら幸いでした。

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