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第一話 ポストが生えてきた

その日、俺の家の床から――

ポストが生えてきた。

意味が分からないと思うが俺も分からない。



「やれやれ……これで、世界が一つ消えるな」

「本当にあの人は、人使いが荒いですわ」

「この配合で魔法陣完成です」

「最後に仕上げですわね……」

「おい、それは違う!!」

「え?」

 

次の瞬間、視界が白く焼き切れた……



西城直樹(さいじょうなおき)、二四歳。

実家暮らしのニートで、社会復帰の予定は今のところゼロだ。

 

「ほら、お兄ちゃん。起きなさい!!」


脳が揺さぶられる。

俺を叩き起こすこの声の主は、西城心優(さいじょうみゆ)

俺の実の妹であり、性格は天然だ。

最近少しふくよかになったが、その話題に触れると命に関わる。


「いきます……いきます……」

「あ、あと五分」

「まったくもう!! お兄ちゃんたら」

「私、学校に行くからね。リビングにいるよ」

布団の中で適当に返事をしながら、俺は現実逃避を続けていた。


視界が、白く弾けた。


――ドンッ!!


腹に響く衝撃。

床が震え、ガラスがビリビリと鳴った。

「ヒャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

心優(みゆ)の悲鳴が家の中に響き渡る。

「ど、どうした!?」

俺は反射的に布団を跳ねのけ、階段を駆け下りた。

ドタドタドタ――!!

「おい、大丈夫か?」

「な、なによこれ……!」

そこには――

あり得ないものが、床から突き出していた。

赤くて、筒状、見覚えのある形。

「ポスト……?」

「そんなことより、お兄ちゃん! お、起こして……!」


心優(みゆ)は壁にめり込み、足をばたつかせている。


「……いや、これはなかなかな光景だな」

「起こすのは勿体ない」

「そんなことは言ってないで助けてよ!!」

「はいはい、今やる」

俺は妹の腕を掴み引っ張り出す。

「はぁ……死ぬかと思った……」

「で、これは何なの?」


改めてみる。

床から突き破って生えている、それ。


どう見ても――


「ポストだね」

「我が妹よ……」

「そうだね、お兄ちゃん」


「いや、どんな世界線だよ」

「床からポストが生えてくるとか、聞いたことねぇぞ」


「私に言われても……」


「八時になりました。ニュースをお伝えします」

テレビからアナウンサーの声が流れる。

「本日未明、全国各地で原因不明の発光現象が確認され――」


「……は?」


「あっ、まずい。私学校に行かないと」

「いや待て待て、この状況で行く!?」

「大丈夫でしょ。じゃ、あとはよろしくね、お兄ちゃん♡」

「よろしくって何をだよ」


――バタン

ドアが勢いよく閉まる音。


「……行きやがった」

しばらく沈黙。

「……クソ、なんなんだよこれ」

目の前にある、あり得ない存在。

「……とりあえず」

俺はゆっくりと、ポストの投入口に手を入れる。


――カチッ。

「……は?」

中から出てきたのは、一枚の黒い板だった。

スマホ……いやタブレットか?

電源が入る。


【配送システム起動します】

無機質な機械音。

光が部屋全体を包んだ。

「こ、これはもしや。異世界転生?」

「ついに来たか、男のあこがれ!!」

「よっしゃ―――これで俺も異世界勇者に……」


まばゆい光が、部屋全体を包み込んだ。

「ここは……」

見慣れた我が家のリビング。

「……って、変わってねぇ!!」

思わず叫ぶ。

「いやいやいや!! なんでだよ!!」

慌ててタブレットを確認する。

【初期設定:失敗】

「失敗ってなんだよ!!」

――ガコン。

「…あ?」

背後から重たい音が鳴る。

ゆっくりと振り返る。

ポストの口がひとりでに開いていた。

「……マジかよ」

中を覗き込む。

暗い奥に、白いものが見える。

一枚の紙きれ。

「……なんだ、これ」

指先でそっとつまみ、引き抜く。

――パタン。

まるで意思があるかように、ポストが口を閉じた。

紙には見覚えのない文字列が並んでいる――はずだった。


しかし、不思議と読める。

宛名先:ドリースト城。

至急:リンゴを届けろ。

※時間はありません。

「……は?」


――ピロリン。

軽い電子音が鳴る。

「……なんだ」

手に持っていたタブレットが、ひとりでに光り出した。

画面の表示が、ゆっくり書き換わっていく。


宛名先:ドリースト城。

      ↓

宛名先:西城 直樹(さいじょうなおき)

「……え?」

思考が止まる。

「いやいやいや、待て待て待て」

思わず声が漏れる。

「なんで俺の名前が宛名先なんだよ」

――ピロリン。

タブレットが淡く光る。

【対象物:リンゴ】

【投入先:ポスト】

無機質な表示。

「……は?」

【リンゴをポストの中に入れてください】

「いや、なんで俺がやる流れになってんだよ」

思わずツッコむ。

だが、画面は変わらない。

無言の圧。

「マジかよ……」

しばらく睨み合ったあと、俺はため息をついた。

「やればいいんだろ、やれば」

キッチンへ向かい、冷蔵庫を開けた。

ひんやりとした空気。

「リンゴ……リンゴ……」

ガサガサ中を探る。

「あ、あった」

赤いリンゴを一つ取り出す。

「これを入れろってか……」

ポストを見る。

変わらず、そこに在る。

――だがさっきとはまるで違う。

まるで“待っている”ようにみえた。

「……はいよ」

投函口にリンゴを押し当てる。

「……入るわけないだろ」

当然、入らない。

「……はぁ、無理だ」

俺はポストの前にリンゴを置いた。

【確認】

タブレットが強く光る。

「っ!?」

リンゴが光に包まれ――

消えた。

「……は?」

何もない。

確かにそこにあったはずのリンゴが、跡形もなく消えた。


【お届け完了しました】


「……マジかよ」

確かに、リンゴは消えた。

異世界に送られた――のか?

タブレットが再び光る。

「……まだ何かあるのか?」

画面が、ゆっくりと切り替わる。

【次の配達対象】

一瞬の沈黙。

――嫌な予感がした。

そして――

【対象物:西城 直樹(さいじょうなおき)

【回収を開始します】

「……え?」

「待て待て待て」

背筋が、ゾクリした。

次の瞬間――

視界が白く弾けた。

「おい、待て――?!」


次回 配達対象、俺。

   いや意味が分からない。

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