第8話 ──通達──
『空間欠損の魔法師』
第8話 ──通達──
模擬戦が終わり、訓練場の熱気がようやく落ち着き始めた頃。
悠斗は教師に呼ばれ、職員室へ向かっていた。
『魔力の揺らぎ、外からは“誤差”にしか見えなかったよ』
オルタの声は、いつも通り落ち着いていた。
「……そうか」
『うん。観測器の精度では解析できないレベル』
それだけを淡々と告げると、オルタは黙った。
必要以上に安心させようとはしない。
その冷静さが、逆に心強かった。
職員室の扉をノックすると、
中から教師の声が返ってきた。
「入れ」
悠斗が入ると、教師は端末を閉じ、こちらを向いた。
「篠原。
今日の模擬戦だが……魔力制御に課題がある」
「……はい」
「魔力量が多い者は、初期段階で魔法式が乱れやすい。
お前もその傾向が強い。訓練すれば改善する」
教師は端末を操作し、画面を悠斗に向けた。
「それと――司令部から通達が来た。
エリートクラスは来週から“外部警戒任務”に入る」
「外部……?」
教師は続ける。
「最近、学園周辺で無許可魔法師の活動が確認されている。
司令部は、エリートクラスに初動対応の訓練を兼ねた警戒任務を命じた」
「……俺も、行くんですか?」
教師は少しだけ眉を寄せた。
「本来なら、制御が安定してからにしたいところだが……」
画面には名簿が表示されていた。
篠原悠斗:補助要員(魔力観測・支援)
「司令部の判断だ。
“補助要員として同行させろ”と指示が来ている」
「……どうして俺が?」
『魔力量の多い新人は、後方支援に回されやすい。
一般的な運用だよ』
オルタは事実だけを述べた。
教師も同じ説明をした。
「魔力量の多い者は、後方支援として役に立つ。
それだけだ。深い意味はない」
(……本当に“それだけ”なのか?)
胸の奥に小さな不安が残る。
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■ エリートクラスの反応
教室に戻ると、玲奈と紗月が待っていた。
「篠原くん、どうだった?」
玲奈が静かに尋ねる。
「……外部警戒任務に、補助として参加することになった」
紗月がぱっと目を輝かせる。
「えっ、ユウトくんも!?
すごいじゃん!」
「いや、すごいって……」
「だって、外部任務だよ?
普通はもっと後にならないと行けないのに!」
玲奈は少しだけ表情を緩めた。
「あなたの魔力量なら、補助要員としては妥当ね。
危険な前線に出るわけではないし」
(……そういうものなのか)
オルタは何も言わない。
ただ、悠斗の魔力の流れを静かに監視している気配だけがあった。
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■ 司令部からの正式通達
その日の放課後。
エリートクラス全員が講堂に集められた。
壇上には、軍服を着た中年の男性――
司令部直属の連絡官が立っていた。
「エリートクラス諸君。
君たちには来週より、学園外での“警戒任務”に就いてもらう」
ざわめきが広がる。
連絡官は続けた。
「最近、学園周辺で無許可魔法師の活動が確認されている。
彼らは魔法の使用規制を無視し、一般人への被害も出ている。
君たちには、監視・初動対応を任せたい」
玲奈が小さく息を呑む。
紗月は真剣な表情で前を見つめていた。
「なお、篠原悠斗。
君は補助要員として同行する」
名前を呼ばれ、悠斗は背筋を伸ばした。
「魔力量の観測、魔法式の解析、後方支援。
危険な前線には出さない。
だが、任務の一部を担うことになる」
(……俺が、外に出るのか)
『悠斗。
外部任務は、あなたの魔力の“傾向”を把握する良い機会になる』
オルタの声は淡々としていた。
不安を否定するでもなく、煽るでもない。
ただ事実を述べるだけ。
それが逆に、心を落ち着かせた。
連絡官は最後にこう告げた。
「任務開始は一週間後。
各自、準備を怠るな」
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■ 帰り道
夕陽が差し込む廊下を歩きながら、
悠斗は胸元のペンダントを軽く握った。
「……オルタ。
俺、本当にやれるのかな」
『やれるよ。
ただし、慎重にね』
「……ああ」
夕陽の光がペンダントに反射し、
淡い光が揺れた。
(外部任務……か)
胸の奥で、不安と期待が静かに混ざり合っていた。
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