第7話 ──模擬戦──
『空間欠損の魔法師』
第7話 ──模擬戦──
エリートクラスの午後。
訓練場に足を踏み入れた瞬間、悠斗は空気の張り詰め方に気づいた。
静寂。
だがその静けさは、戦闘前の緊張そのものだった。
教師が前に立ち、淡々と告げる。
「今日は対人戦訓練を行う。
魔法師にとって最も危険なのは“人間”だ。
全力でやれ。遠慮は不要だ」
その言葉に、訓練場の空気がさらに引き締まる。
『悠斗、呼吸整えて。
今日は負荷が大きいよ』
「……わかってる」
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■ 第一戦:御門玲奈 vs 天城紗月
「御門玲奈、前へ」
玲奈が静かに歩み出る。
その一歩一歩が、空気を切り裂くように鋭い。
「対戦相手、天城紗月」
「はーい!」
紗月は軽く跳ねるように前へ。
白衣の裾がふわりと揺れ、魔力の光がちらりと走る。
紗月は観測科寄りの研究生でありながら、
魔力制御・反応速度・近接判断の三項目でエリートクラス基準を満たしている“例外的な戦闘適性者” として、
時折こうして上位クラスの実技訓練に“臨時参加”していた。
教師が手を上げる。
「構え」
玲奈は無駄のない姿勢で魔力を収束させる。
紗月は軽く肩を回し、リズムを取るように足を動かす。
「始め!」
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● 開戦
玲奈の魔力が爆ぜた。
「《拘束式・三重》」
空間に三つの魔法陣が同時に展開され、
そこから光の鎖が“音もなく”紗月へ走る。
速い。
視界に残像すら残らない。
だが紗月は――
「わっ、速っ!」
床を蹴った瞬間、
彼女の身体が“跳ねるように”横へ飛んだ。
鎖が床を抉り、石片が散る。
玲奈は表情一つ変えず、次の魔法式を重ねる。
「《偏向》」
空気が歪み、
紗月の逃げ道を塞ぐように魔力の壁が形成される。
「うわ、囲んでくるタイプね!」
紗月は笑いながら手をかざす。
「じゃあ、こっちもいくよ!
《魔力散弾》!」
指先から放たれた光の粒が、
雨のように玲奈へ降り注ぐ。
玲奈は一歩も動かない。
「《反射膜》」
透明な膜が展開され、
散弾が触れた瞬間に“弾かれた音”が響く。
パァンッ、パァンッ!
紗月の散弾が逆方向へ跳ね返り、
床に小さな穴を穿つ。
(……どっちもレベルが違う)
『玲奈ちゃんは精密、紗月ちゃんは直感。
タイプが真逆なのに、どっちも強い』
紗月が一気に距離を詰める。
「近接はどうかなっ!」
玲奈は足元に魔法陣を展開。
「《反転》」
紗月の踏み込みが“逆方向”に引っ張られ、
体勢が一瞬崩れる。
「わっ……!」
玲奈はその隙を逃さない。
手を伸ばし、紗月の肩に触れた。
「そこまで!」
教師の声が響く。
勝者、御門玲奈。
紗月は肩を叩かれながら笑った。
「いやー、玲奈ちゃん強い!
でも楽しかった!」
玲奈はわずかに目を細める。
「あなたも速かったわ」
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■ 第二戦:篠原悠斗 vs 朝倉
「次、篠原悠斗」
「……っ」
『大丈夫。
私が補助するから』
悠斗は深呼吸し、前へ出る。
「対戦相手、朝倉」
短髪の少年が拳を握り、軽く笑った。
「よろしくな、篠原」
「……よろしく」
教師が手を上げる。
「構え」
朝倉は拳に魔力を纏わせる。
青白い光が拳を包み、空気が震えた。
悠斗はペンダントに意識を向ける。
『魔力の流れ、私が見てる。
落ち着いて』
「……ああ」
「始め!」
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● 開戦
朝倉が床を蹴った瞬間、
風が“爆ぜた”。
「《強化・脚部》!」
その速度は、
悠斗の視界から一瞬消えるほど。
(速い――!)
反射的に魔力を流す。
「《防壁》!」
光の壁が展開され、
朝倉の拳がぶつかる。
ガッッ!
衝撃が腕に伝わり、
壁が波打つ。
「おっ、受け止めるかよ!」
朝倉は後ろに跳び、
次の魔法式を組む。
「《衝撃波》!」
拳を振り抜くと、
空気が“砲弾のように”押し寄せてきた。
悠斗は咄嗟に横へ飛ぶ。
『悠斗、右!』
ギリギリで衝撃波を避ける。
床が抉れ、石片が飛び散る。
朝倉が口角を上げる。
「へぇ、避けるか。悪くねぇな」
悠斗は息を整え、魔力を再び流す。
だが――
「……っ!」
悠斗の周囲の空気が、
一瞬だけ“沈む”ように揺れた。
その刹那。
朝倉の拳に纏っていた強化魔法が、
ほんの一瞬だけ、薄く揺らいだ。
朝倉は眉をひそめる。
「……あれ?
今、俺の魔力……?」
だがすぐに首を振る。
「いや、気のせいか」
玲奈も一瞬だけ目を細めたが、
すぐに視線を戻した。
紗月は測定器を覗き込みながら小さく呟く。
「ノイズ……かな?」
誰も“異常”とは断定しない。
ただの違和感として流れていく。
悠斗は小さく息を吐く。
(……俺のせいか?)
『現象としては、ほぼ間違いなく。
あなたの魔力が外側に流れた時、
周囲の魔力を“引っ張った”んだと思う』
「……引っ張った?」
『うん。
でも“なぜそうなるか”までは、まだ解析できない』
朝倉が構え直す。
「篠原、まだいけるか?」
「……ああ」
二人が再び構えた瞬間――
教師が手を上げた。
「そこまで!」
二人とも動きを止める。
「今の時点で十分だ。
双方、実力は拮抗している。
この試合は“引き分け”とする」
朝倉は少し悔しそうに笑った。
「ちぇっ……続けたかったのに。
でも篠原、次は勝つからな」
「……望むところだ」
玲奈は静かに頷き、
紗月は「いい勝負だったね!」と手を振る。
誰も“異常”には気づいていない。
ただ、篠原悠斗という存在が
「思ったより強い」
という印象だけが、クラスに残った。
教師は短く告げる。
「篠原。
魔力制御に課題がある。
後で少し話をしよう」
それは“報告”ではなく、
ただの指導の延長にすぎなかった。
(……まだバレてない)
『大丈夫。
でも、気をつけていこうね』
夕陽の中、
悠斗の胸に“疑問”と“不安”が静かに積もっていった。
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