第二章 第55話 ──深層の声──
第二章 55話 ──深層の声──
宗谷へ向かうフェリーは、
冬の海を切り裂くように進んでいた。
甲板に出ると、
冷たい潮風が頬を刺す。
紗月
「……寒っ。
なんでこんな時期に海なんか渡るのよ。」
ミリア
「文句を言っても仕方ありません。
宗谷沖に行くには、これしか手段がないのですから。」
玲奈は俺の隣に立ち、
海の向こうをじっと見つめていた。
玲奈
「……あの先に、戦略級魔法師がいるんだね。」
悠斗
「……らしいな。」
胸の奥が、また熱くなる。
(……呼ばれてる……
ずっと……)
ミリアが俺の顔を見て、眉を寄せた。
ミリア
「篠原さん。
深層反応が……また強くなっています。」
紗月
「ちょっと、無理してない?」
悠斗
「いや……大丈夫……」
そう言った瞬間だった。
――視界が、揺れた。
海も、空も、甲板も、
全部が遠ざかっていく。
玲奈
「悠斗……!?」
ミリア
「深層が……引きずり込んでる……!」
紗月
「ちょっと、まずいって!」
声が遠い。
世界が薄くなる。
(……まただ……
深層に……)
意識が沈んでいく。
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■ 深層領域
暗闇。
静寂。
何もない空間。
いや――
“何もない”のではない。
(……ここ……
知ってる……)
訓練施設で何度も落ちた場所。
深層の“底”。
そして――
淡い光が、
脈打つように揺れた。
それは“形”ではない。
輪郭も影もない。
ただ、
ペンダントの魔力波形がそのまま意識として浮かび上がったような揺らぎ。
その“気配”は、間違いなく。
悠斗
「……オルタ……!」
光が微かに震え、
まるで笑ったような反応を返す。
『久しぶりだね、悠斗。
ずっと呼んでいたのに……君は来なかった』
悠斗
「……呼んでたのか?」
『ああ。
君の深層が揺れるたびに、僕は反応していた。
でも……今の僕は“完全”じゃない。
ペンダントの核がまだ起動しきっていないんだ』
悠斗
「……どうすれば、戻れる?」
『簡単だよ。
“鍵”を使うんだ。
君のそばにいるだろう?
御門家の……“切り札”が』
胸がざわつく。
(……玲奈……?
でも、どういう意味だ……?)
『深層に触れられるのは御門の血だけ。
そして……君を安定させられるのは――
僕だけだ』
悠斗
「……玲奈が……?」
『そう。
僕が完全に戻るには……
“あの子の力”が必要だ』
光が弱まり、
波形が薄れていく。
『急いで、悠斗。
戦略級魔法師は……深層の“向こう側”に触れている。
このままじゃ……先を越される』
悠斗
「オルタ……!」
光が消えかける直前、
オルタは静かに言った。
『次に会う時は……
“ちゃんとした姿”で会いたいな、悠斗』
光が完全に消える。
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■ 現実
「――悠斗!」
玲奈の声で目が覚めた。
俺は甲板に倒れていて、
玲奈が必死に肩を支えていた。
玲奈
「大丈夫!?
急に倒れたから……!」
ミリア
「深層反応が急激に上昇しました。
今は安定していますが……危険です。」
紗月
「……見たんでしょ。
深層の“向こう側”を。」
俺は息を整えながら、
ゆっくりと答えた。
悠斗
「……オルタに……会った。」
三人が息を呑む。
悠斗
「まだ完全じゃない。
でも……
“玲奈の力が必要だ”って言ってた。」
玲奈
「……私の……?」
悠斗
「ああ。
御門家の“切り札”……
それが、お前なんだって。」
玲奈は驚き、
そして――ゆっくりと覚悟を宿した瞳で俺を見た。
玲奈
「……分かった。
悠斗。
私……あなたを助けるよ。」
ミリア
「篠原さん。
戦略級魔法師との接触は避けられません。
準備を。」
紗月
「行くよ、悠斗。
あんた一人じゃ行かせない。」
海風が吹き抜ける。
その向こうに――
戦略級魔法師が待つ宗谷沖がある。
そして、
オルタの“完全復活”も。
俺は立ち上がり、
遠くの海を見据えた。
悠斗
「……行こう。
全部、終わらせるために。」
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