第二章 第38話 ──静かに寄り添う影──
第二章 38話 ──静かに寄り添う影──
昼下がりの喫茶店「ルミエール」は、
いつもより少しだけ客が多かった。
窓際の席で、
悠斗・紗月・玲奈の三人は
控えめに注文したランチをつついていた。
紗月
「今日は混んでますね。」
玲奈
「……人が多いと、少し安心します。」
悠斗
「そうですね。
紛れやすいですし。」
三人は声を潜めながらも、
どこかほっとした表情をしていた。
そんな彼らのテーブルに、
ミリアが静かに近づいてきた。
ミリア
「お待たせしました。
お水のおかわりです。」
紗月
「ありがとうございます。」
ミリア
「いえいえ。
今日は暖かいですね。
外を歩くと気持ちよさそうです。」
玲奈
「……そうですね。」
ミリアは柔らかく微笑む。
ただの店員の笑顔。
それ以上でも、それ以下でもない。
そのとき、
店内のテレビからニュースが流れた。
テレビ
『続報です。
国境付近で確認された不明な軍事活動について――』
音量は小さいが、
店内のざわめきが一瞬止んだことで
三人にも普通に聞こえた。
紗月
「また……ですか。」
玲奈
「最近、多いですよね……」
悠斗
「……演習じゃないんでしょうか。」
ミリアもテレビを見た。
ほんの一瞬だけ。
その反応は、
三人よりわずかに早かった。
まるで、
“その話題を待っていた”かのように。
しかしすぐに、
いつもの柔らかい表情に戻る。
ミリア
「物騒な話題が続きますね。
でも、この街は落ち着いていますから。
あまり気にしすぎない方がいいですよ。」
悠斗
「……そうですね。」
紗月
「ミリアさん、ニュース詳しいんですか?」
ミリア
「いえいえ。
朝の仕込みのときにテレビがついているだけです。
なんとなく耳に入るだけですよ。」
自然だ。
完璧に自然。
ただ――
悠斗はふと気づいた。
悠斗
「……さっきのニュース、
反応が早かった気がしましたけど……
気のせいですかね。」
ミリア
「え?
ああ……癖かもしれません。
音がすると、つい反応してしまうんです。」
軽い冗談のように笑う。
紗月も玲奈も、
特に気にしていない。
ミリア
「それより、
今日はゆっくりしていってくださいね。
最近、お疲れのようですし。」
玲奈
「……わかります?」
ミリア
「ええ。
顔色でなんとなく。」
そう言って、
ミリアは別の客の対応へ向かった。
その背中は、
どこにでもいる喫茶店の店員そのもの。
しかし――
その歩き方は、
妙に静かだった。
床板が軋むはずの場所でも、
音がしない。
不気味な程静かだった。
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