第二章 第36話 ──静かな街に潜む影─
第二章 36話 ──静かな街に潜む影─
朝の街は、驚くほど平和だった。
通勤する人々。
開店準備をする店員。
子どもたちの笑い声。
その中に、
変装した三人が紛れ込んでいた。
悠斗は黒髪を短く切り、
紗月は眼鏡をかけ、
玲奈は帽子を深くかぶっている。
三人は、
街の喫茶店「ルミエール」の扉を開けた。
カラン、と軽いベルの音。
店内は落ち着いた雰囲気で、
朝の光が木のテーブルを柔らかく照らしている。
壁に掛けられたテレビでは、
朝のニュース番組が音量低めで流れていた。
カウンターの奥で、
栗色の髪の女性が振り返った。
ミリア
「おはようございます。
今日は少し冷えますね。」
それは、
どこにでもある喫茶店の店員の挨拶だった。
紗月
「おはようございます。
いつもの席、空いてますか?」
ミリア
「はい、どうぞ。
ブレンドでよろしいですか?」
悠斗
「……お願いします。」
ミリアは軽く会釈し、
静かにコーヒーを淹れ始めた。
その動きは丁寧で、
慣れている。
特別なところは何もない。
ただの喫茶店の朝。
ただ――
コーヒーを淹れながら、
ミリアが一瞬だけ店の外へ視線を向けた。
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■ テレビのニュース
三人が席に着くと、
壁のテレビからアナウンサーの声が聞こえてきた。
テレビ
『続いてのニュースです。
昨夜、国境付近で不明な軍事活動が確認され――』
紗月
「……軍事活動?」
玲奈
「最近、こういうニュース多いね……」
悠斗
「……ただの演習じゃないのか?」
ミリアがコーヒーを運んできて、
三人の前にそっと置いた。
ミリア
「最近、物騒なニュースが多いですよね。
でも、ここは静かでいい街ですよ。」
紗月
「そうですね……。
こういう場所があると、落ち着きます。」
ミリア
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです。」
テレビでは、
専門家らしき人物が地図を指しながら解説していた。
テレビ
『現時点では演習との見方が強いものの、
一部では“第三国の特殊部隊の展開”との情報も――』
悠斗
「……特殊部隊?」
玲奈
「なんか、嫌な感じ……」
ミリアはテレビをちらりと見たが、
特に反応は示さなかった。
ミリア
「ニュースって、必要以上に不安を煽ることもありますから。
あまり気にしすぎない方がいいですよ。」
その言い方は自然で、
店員としての気遣いにしか聞こえない。
だが、
ほんの一瞬だけミリアの目が鋭くなったように見えた。
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■ 軍の動き
同じ頃。
日本軍の情報部では、
数名の幹部が国境付近の地図を囲んでいた。
情報部長
「……第三国まで動き始めたか。」
参謀
「はい。
規模は小さいですが、通常の演習とは思えません。」
情報部長は頷き、
机の端に置かれた書類に一瞬だけ視線を落とした。
施設で起きた“あの事件”に関する簡易報告書。
表紙には名前はない。
ただ、
“深層接触者関連・暫定”
とだけ記されている。
情報部長
(……いずれ向き合わねばならん問題だ。)
ほんの一瞬、
そんな考えが頭をよぎった。
だがすぐに、
国境情勢の議論へ意識を戻す。
情報部長
「まずは外側の火種を抑える。
内側の問題は……後回しだ。」
報告書は開かれないまま、
机の端に静かに置かれていた。
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■ 喫茶店
紗月
「ミリアさんって、
こういうニュースとか気にします?」
ミリア
「んー……どうでしょう。
あまり詳しくはないですけど、
平和が一番ですよね。」
玲奈
「……うん。」
ミリア
「でも、もし何かあっても、
この街はきっと大丈夫ですよ。
人も優しいし、落ち着いてますから。」
悠斗
「……そうだといいけどな。」
ミリア
「大丈夫。
あなたたち、最近ちょっと疲れてるみたいだから……
ゆっくりしていってくださいね。」
その言葉は優しく、
どこまでも自然だった。
しかし、
ミリアの視線は一瞬だけテレビの地図に向かい、
すぐに柔らかい笑顔に戻った。
その“間”に気づく者はいない。
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■ 夜の喫茶店
閉店後の喫茶店。
ミリアは椅子を片付け、
カウンターを拭いていた。
ミリア
「……ふぅ。今日は忙しかったな。」
独り言。
本当にただの店員の声。
店の奥の棚に置かれた古い携帯端末が
一度だけ小さく光った。
ミリアは気づかないふりをして、
照明を落とした。
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