第二章 第31話 ──追跡──
第二章 31話 ──追跡──
夜の冷気が肌を刺す。
施設の外へ飛び出した三人は、
息を切らしながら暗い森へ駆け込んだ。
紗月が先頭で枝を避け、
悠斗がその手をしっかりと握ってついていく。
御門玲奈は少し後ろを走りながら、
二人の背中を見つめていた。
その光景を見た瞬間、
玲奈の胸に、かすかな痛みが走った。
――どうしてだろう。
紗月と悠斗が並んで走っているだけなのに、
胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
分かりたくもない。
今は逃げることだけを考えなければいけないのに。
玲奈
「紗月、右!
その先、斜面になってる!」
紗月
「ありがとう、玲奈ちゃん!」
悠斗
「助かる……!」
二人の息が合っている。
その距離が自然に縮まっていく。
玲奈は、
その後ろ姿を見つめながら、
胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。
――どうして、こんな気持ちになるんだろう。
紗月が笑ってくれるのは嬉しいのに。
悠斗が生きていてくれるのは安心なのに。
その“理由”だけが、
どうしても掴めなかった。
その時――
背後から低い振動音が響いた。
紗月
「……なに、この音……?」
玲奈
「ドローン……!
施設の監視機だよ!」
赤い光が木々の隙間を揺れながら迫ってくる。
玲奈
「見つかったら終わり……!
紗月、もっと奥へ!」
紗月
「分かった!」
三人はさらに森の奥へ走り込む。
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■ 深層の囁き
紗月が突然足を止めた。
紗月
「……っ……!」
悠斗
「紗月!?
どうした!」
紗月
「……また……聞こえる……」
玲奈は息を呑んだ。
深層干渉。
紗月の感応が反応している。
悠斗も胸を押さえ、
苦しげに息を吐いた。
悠斗
「俺にも……来てる……」
玲奈は二人を見つめ、
胸の奥がまた痛んだ。
――二人は、同じものを感じている。
私には見えない“何か”を共有している。
それが何なのか、
玲奈は分からなかった。
ただ、置いていかれるような感覚だけが残った。
その時――
紗月が小さく息を呑んだ。
紗月
「……北……」
玲奈
「え……?」
紗月
「北に……“抜け道”があるって……
聞こえた……」
悠斗
「俺も……感じた。
行くしかない。」
玲奈
「ちょ、ちょっと待って!
北って……崖だよ!?
抜け道なんて――」
紗月
「でも……オルタは嘘をつかない。」
悠斗
「紗月の感応は……間違わない。」
玲奈は唇を噛んだ。
――二人は、もう同じ方向を向いている。
私には見えない“何か”を信じている。
でも、紗月の手は、
玲奈の手も離していなかった。
玲奈
「……分かった。
信じるよ。
紗月の“勘”を。」
紗月
「玲奈ちゃん……ありがとう。」
三人は北へ向かって走り出した。
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■ 崖の前で
崖の前に立つと、
玲奈は息を呑んだ。
玲奈
「ほら……やっぱり崖……!」
紗月
「違う……
“抜け道”がある……!」
悠斗
「見える……
旧施設の排水路だ……!」
木々に隠れて見えなかっただけで、
崖の下には古いコンクリートのトンネルが口を開けていた。
紗月
「行こう……!」
悠斗
「大丈夫だ。
俺がいる。」
その言葉に、
玲奈の胸がまた痛んだ。
――どうして、こんなに苦しいんだろう。
どうして、涙が出そうになるんだろう。
理由は分からない。
玲奈
「行こう。
私も……一緒に行く。」
三人は――
崖下の排水路へ向かって飛び込んだ。
暗闇が三人を包み込む。
だがその闇は、
“深層の影”ではなく、
現実の逃走路だった。
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