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空間欠損の魔法師  作者: 猫宮みけ
第二章 深層拒絶編

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第二章  第29話 ──裂け目の向こう──

第二章 29話 ──裂け目の向こう──


観測室の床には、吹き飛ばされた軍兵や魔法師が倒れ、

壁には空間欠損の痕跡がまだ微かに揺らめいていた。


その中心で――

悠斗は、静かに呼吸を整えていた。


紗月は震える手で、彼の背中に触れた。

その温度を確かめるように。


紗月

「……ユウトくん……本当に……大丈夫……?」


悠斗

「……ああ。

 大丈夫だよ、紗月。」


その声は、以前よりもずっと落ち着いていた。

まるで何かが“定まった”ような響き。


その時――

観測室の奥から、白衣の男が歩み寄ってきた。


天城。

紗月の父であり、この施設の深層研究主任。


彼は倒れた軍兵を一瞥し、

破壊された観測装置を確認し、

最後に悠斗へ視線を向けた。


天城

「……紗月。

 君は……何をしたのか分かっているのか?」


紗月

「何をしたって……

 私はただ……ユウトくんを助けたくて……!」


天城

「助けた?

 君が呼んだ声で、深層反応が跳ね上がったんだぞ。」


紗月

「……っ!」


天城は紗月を責めるような口調ではなかった。

ただ、事実を淡々と述べているだけ。

しかしその冷静さが、逆に紗月の胸を締めつけた。


紗月

「お父さん……

 ユウトくんは……どうしてこんなことに……?」


天城はゆっくりと息を吐いた。


天城

「……紗月。

 彼は“深層に触れた”人間だ。

 それだけで、世界は彼を放っておかない。」


紗月

「そんなの……関係ないよ……

 ユウトくんは……ユウトくんなんだから……!」


天城

「君は優しい。

 だが、優しさだけでは深層は扱えない。」


紗月

「優しさじゃない……!

 私は……ユウトくんが……!」


声が震えた。

涙が滲む。


天城は娘のその姿を見て、

ほんの一瞬だけ、父親の顔を見せた。


天城

「……紗月。

 君の気持ちは分かる。

 だが――」


天城は悠斗を見た。


天城

「彼の“内側”には、別の意志がいる。」


紗月

「……別の……意志……?」


天城

「深層に触れた者は、必ず“影”を宿す。

 だが彼の影は……異質だ。

 まるで――」


言いかけて、天城は口を閉じた。

その先を言うことを、ためらった。


紗月

「まるで……何なの……?

 お父さん、教えてよ……!」


天城

「……今は言えない。

 だが一つだけ言える。

 彼は、もう“ただの人間”ではない。」


紗月

「そんなの……関係ない……

 ユウトくんは……ユウトくんだよ……!」


天城は目を細めた。


天城

「……その言葉を、

 彼がどれほど救いに感じるか……

 君は分かっていないだろうな。」


紗月は悠斗の手を握った。


紗月

「ユウトくん……

 私は……離れないから……

 どんなことがあっても……」


悠斗はその手を握り返した。

その瞬間――


胸の奥で、深層が静かに波打った。


そして、

悠斗にだけ届く“女性の声”が、

深い水の底から浮かび上がるように響いた。


---


(……聞こえているわ、悠斗……

あなたの“選択”は……確かに届いた……)


---


その声は、

紗月にも天城にも届かない。


悠斗の内側だけに触れる、

静かで、温度のない、

しかし確かに“女性”の声。


オルタ。


悠斗はわずかに眉を寄せた。


(……オルタ……)


オルタ

(……紗月の言葉に……揺れたのね……

あなたの深層が……)


悠斗

(……揺れた……?)


オルタ

(……ええ。

あなたは……“自分で選んだ”。

それが……深層を動かした……)


声は淡々としている。

優しくも冷たくもない。

ただ、事実を告げるだけ。


だがその響きには、

どこか“満足”にも似た静かな色があった。


オルタ

(……進みなさい、悠斗。

あなた自身の意志で……

私は……見ているから……)


声はそれだけを告げ、

深層の奥へ静かに沈んでいった。


紗月は気づかないまま、

悠斗の手をぎゅっと握りしめた。


紗月

「行こう……ユウトくん……

 ここから……一緒に……」


悠斗は小さく頷いた。


(……俺は……もう逃げない……

 紗月が……いてくれるなら……)


観測室の空気が静かに揺れた。

まるで深層の彼女が、

“それでいい” と告げているように。


---

1日1善1日1投稿♪

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