第3話 ──判断──
『空間欠損の魔法師』
第3話 ──判断──
第七都市の“空白”を映したスクリーンを前に、
軍・政府・研究機関・名家の代表者たちが沈黙していた。
神代直哉が報告を終えると、
会議室の空気はさらに重くなる。
「……これが本当に魔法災害なのか?」
「魔法式の残滓が一切ない……?」
「空間固定そのものが消失している……」
「こんな現象、理論上ありえない……」
ざわめきが広がる。
神代は静かに言った。
「現場の中心にいたのは、篠原悠斗。
救護班所属の訓練生です」
その名が出た瞬間、空気が変わった。
空間系魔法の名門──御門家の代表が口を開く。
「……空間欠損。
この規模は、もはや災害ではなく“現象”だ。
人為的に起こせるものではない」
理論魔法の権威──九条院家の代表が続ける。
「彼の魔力波形は確認したのか?」
天城颯真が前に出る。
「はい。
魔力そのものは正常ですが、
空間固定が完全に破綻しています。
魔力が空間に馴染まず、逆に押し返している」
九条院家の代表は眉をひそめた。
「……空間固定不能。
そんな魔力、聞いたことがない」
御門家の代表も静かに言う。
「空間を拒絶する魔力……
もし制御できれば、空間系の頂点に立つ可能性すらある」
政府側の男が言った。
「……彼をどう扱うべきかだが、
いっそ軍直轄の魔法師育成学園に入れてはどうだ?」
会議室がざわつく。
「保護と教育を兼ねられる」
「監視もできる」
「軍直轄なら安全だろう」
しかし、その声はすぐにかき消された。
天城が静かに手を挙げた。
「……反対です」
会議室が静まり返る。
「篠原くんの魔力は、
周囲の空間そのものを“不安定化”させています」
ざわめきが広がる。
「不安定化……?」
「どういう意味だ」
天城は淡々と言う。
「彼の周囲では、
他者の魔法式が“勝手に乱れる”可能性があります。
本人の意思とは関係なく、です」
会議室が凍りついた。
「授業中に魔法式が暴走すれば、
生徒が死ぬ。
教師も死ぬ。
最悪、学園ごと吹き飛ぶ」
御門家の代表が重く言う。
「……第七都市の“欠損”が偶然だとしても、
再現される可能性があるということか」
天城は頷いた。
「はい。
現状の篠原悠斗は、
国家規模の災害を“再発”させる危険性がある」
神代直哉が前に出た。
「篠原悠斗は、すぐに学園へ送るべきではありません。
まず軍施設で“隔離訓練”を行うべきです」
政府側の男が言う。
「隔離……訓練……?」
神代は頷いた。
「彼の魔力は制御不能です。
しかし、制御できれば価値がある。
だからこそ、まずは“最低限の安定化”が必要です」
天城も続ける。
「訓練次第では、
周囲の空間への干渉を抑えられる可能性があります。
そうなれば、学園生活にも支障は出ないでしょう」
御門家の代表が言う。
「……つまり、
制御の兆しが見えるまでは学園に入れるべきではない
ということだな」
政府側の男が結論を下した。
「では──
篠原悠斗を軍施設で訓練し、
危険性が下がった段階で学園へ編入させる。
異論は?」
誰も手を挙げなかった。
その頃、悠斗は隔離室で膝を抱えていた。
(……俺は、どうなるんだ)
都市が消えた。
自分のせいではない。
でも、自分の周囲だけ空気が揺れていた。
(俺の中で……何かが……)
ドアが開いた。
神代直哉が入ってくる。
「篠原。
処遇が決まった」
悠斗は息を呑んだ。
「……俺は、どうなるんでしょうか」
神代は静かに告げた。
「君はしばらく軍施設で訓練を受ける。
空間の安定化、魔力の制御、
そして最低限の戦闘技能だ」
「……訓練、ですか?」
「そうだ。
そして──訓練で危険性が下がったと判断されれば、
軍直轄の魔法師育成学園に編入する」
悠斗は目を見開いた。
「……俺が、学園に……?」
「そうだ。
制御できれば、君は“魔法を学ぶ側”に立てる」
神代は悠斗をまっすぐ見た。
「学園に入ってから、君の力を示せばいい。
今はただ、自分の力を知れ」
悠斗はゆっくりと頷いた。
「……わかりました」
こうして、
都市を消し飛ばした少年は、
軍の管理下で“隔離訓練”を受けることになる。
──その訓練が、後に“空間欠損の魔法師”を形作る。
---
1日1善1日1投稿♪




