第2話 ──空間固定不能──
『空間欠損の魔法師』
第2話 ──空間固定不能──
目を覚ました時、
篠原悠斗は白い天井を見ていた。
硬いベッド。
無機質な照明。
壁には魔力抑制用の紋様が刻まれている。
(……ここ、病院じゃない)
直感でわかった。
ここは“軍の施設”だ。
腕には拘束具。
魔力を封じるためのものだと、訓練校で習った。
(俺……何をしたんだ?)
思い出そうとすると、胸がざわつく。
あの“空白”が脳裏に浮かぶ。
都市が、抉れた。
音もなく、光もなく、ただ消えた。
だが、自分がやったとは思えない。
そんな力があるはずがない。
ドアが開いた。
入ってきたのは、軍服の男だった。
鋭い目つき。
階級章は高い。
名札には──
神代直哉
とあった。
「起きたか、篠原悠斗」
低い声。
威圧感はないが、逃げ場のない圧がある。
「……ここはどこなんですか」
悠斗は自然と敬語になっていた。
「安全な場所だ。まずは落ち着け」
神代は椅子に座り、タブレットを開いた。
「質問に答えてもらう。
君が見たもの、感じたもの、すべてだ」
尋問ではない。
だが、逃げられない空気。
悠斗は息を整えた。
「……俺は、救護班として現場に行って……
空間が歪んでいて……
その後、急に音が消えて……」
言葉が詰まる。
神代は淡々と続けた。
「その後、何が起きた?」
「……わかりません。
気づいたら……都市が……」
言葉にするのが怖かった。
「……消えていました」
神代は頷いた。
「そうだ。
第七都市中心部、半径二キロが“欠損”した」
やはり現実だった。
「……原因は……?」
「不明だ」
神代は即答した。
「魔法暴走の連鎖では説明できない。
魔力反応も、魔法式の残滓も、何も残っていない。
“消えた”としか言いようがない」
悠斗は息を呑んだ。
(……俺のせいじゃない。
でも……俺の周りだけ空気が揺れていた……)
神代はタブレットを閉じた。
「篠原。
君の身体から、異常な魔力波形が検出された」
「……俺、魔法使えないはずです」
「だから異常なんだ」
神代の目が細くなる。
「君の魔力は“空間に固定されない”。
魔法式に魔力を流すには、まず空間固定が必要だ。
だが君の魔力は、空間そのものを拒絶している」
「……空間を、拒絶……ですか?」
「そうだ。
だからデバイスが反応しない。
魔法式が起動しない。
訓練校で落ちこぼれ扱いだった理由は、それだ」
悠斗は言葉を失った。
(俺の魔力が……空間に固定されない?
そんなこと、ありえるのか……?)
神代は続けた。
「普通の魔法師は、魔力を空間に固定し、
その上で魔法式を展開する。
だが君の魔力は、空間固定の段階で“滑る”。
まるで空間そのものを押し返しているように」
「……それは、欠陥ということなんでしょうか」
神代は首を横に振った。
「欠陥ではない。
むしろ──“異常に強い”」
悠斗は息を呑んだ。
「空間固定できない魔力は、
裏を返せば“空間固定を上書きできる”可能性がある。
つまり、空間そのものに干渉できる」
神代は言葉を切った。
「……今回の“欠損”と、無関係とは言い切れない」
悠斗の心臓が跳ねた。
「……俺は……どうなるんですか」
神代は立ち上がった。
「これから専門の解析班が来る。
君の魔力を調べるためだ」
「……はい」
神代はドアの前で振り返り、静かに言った。
「篠原。
君は“保護対象”だ。
だが同時に──“危険因子”でもある」
その言葉だけを残し、部屋を出ていった。
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■ 解析班
数時間後。
白衣の男が部屋に入ってきた。
眼鏡をかけ、落ち着いた雰囲気。
胸元の名札には──
天城颯真
とある。
「初めまして、篠原くん。
私は魔法技術総合研究所の天城だ」
柔らかい声だった。
「怖がらなくていい。
君を傷つけるために来たわけじゃない」
悠斗は小さく頷いた。
「よろしくお願いします」
天城は機材を準備しながら言う。
「まず、君の魔力を“観測”させてもらう。
痛みはないよ」
機材が起動し、淡い光が広がる。
だが──
「……反応が……ない?」
天城が眉をひそめた。
「魔力は確かに存在する。
だが、空間固定が……完全に崩れている」
機材が次々とエラーを吐き出す。
「魔力が空間に馴染まない……?
いや、空間そのものを押し返している……?」
天城は震える声で呟いた。
「……これは、魔法じゃない。
魔法体系の外側だ」
悠斗は息を呑んだ。
(俺は……何なんだ……?)
天城は深く息を吐いた。
「篠原くん。
君の魔力は“空間固定不能”。
そして──」
彼は言葉を選ぶように続けた。
「空間欠損の中心にいたのは、君だ」
悠斗の心臓が跳ねた。
「……俺は……どうなるんでしょうか」
天城は静かに言った。
「これから、国が動く。
君をどう扱うか──それが決まる」
その瞬間、
部屋の外で複数の足音が響いた。
軍人の声。
政治家の声。
研究者の声。
まるで“何かの判決”が下されるかのように。
悠斗は悟った。
(俺の人生は……もう戻らない)
──この日、篠原悠斗は“空間固定不能”と記録された。
そしてその言葉が、後に世界を揺るがすことになる。
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