第18話 ──戦略級認定──
『空間欠損の魔法師』
第18話 ──戦略級認定──
暴走事故から一時間後。
観測課の会議室は、静まり返っていた。
悠斗は椅子に座り、
自分の手のひらを見つめていた。
(……俺の“破綻”で、干渉波が収まった……
でも……あれは本当に俺がやったのか……)
耳元のオルタが囁く。
『ゆーと。
あなたの破綻は、揺れに“同調”できる。
だから整えられたんだよ』
(……整えた……)
まだ実感が追いつかない。
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■ 観測課の分析会議
久遠、御影、紗月が揃い、
事故の解析が始まった。
御影がホログラムを展開する。
「これが事故時の干渉波データ。
教師たちの魔法は、揺れに触れた瞬間に外膜が崩壊してる」
紗月が続ける。
「でも……ゆーとくんの破綻だけは、
干渉波の揺れに“同調”して……
そのまま“上書き”してるの」
久遠が腕を組む。
「篠原の破綻は、
魔法体系の外側にある。
既存の魔法では触れられん領域だ」
悠斗は息を呑む。
(……俺の力って……
そんなに異質なのか……)
御影が言う。
「異質というより……
“別の現象”。
魔法と呼べるかどうかも怪しいわ」
紗月が小さく頷く。
「でも……
ゆーとくんは、それを“制御できた”」
オルタが囁く。
『ゆーとが意図を作ってくれたからだよ。
私は揺れを整えただけ』
(……オルタがいたからだ)
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■ 玲奈の登場──“礼儀としての感謝”
会議室の扉が静かに開き、
玲奈が入ってきた。
制服の右袖には、
空間干渉の逆流で生じた“繊維の伸縮歪み” が残っていた。
布地が焦げたわけではない。
繊維の一部が“わずかに伸び”、
別の部分は“縮んで”いる。
まるで袖そのものが、
一瞬だけ別位相に引きずられたような歪み方だった。
玲奈は教師と共に先程の事件の渦中にいた。
玲奈は悠斗の前に立つ。
「……篠原くん。
さっきは助かったわ」
声は落ち着いていた。
感情を大きく揺らすタイプではない。
悠斗は静かに返す。
「当然のことをしただけです。
あなたが無事でよかった」
玲奈の表情が、
ほんの一瞬だけ揺れた。
「……っ」
視線を逸らし、
袖の歪みを指で押さえる。
「……そういう言い方、ずるいわよ」
「え?」
「なんでもない」
オルタが小さく囁く。
『ゆーと、今のは刺さったね』
(……そうなのか?)
悠斗は表情を変えず、
ただ静かに頷いた。
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■ そして──戦略級の宣告
久遠が机に書類を置いた。
「篠原悠斗。
お前の力について、
観測課としての暫定評価が出た」
御影が読み上げる。
「“存在条件破綻現象・制御可能”。
“揺れの上書き・収束処理が可能”。
“既存魔法体系では再現不能”。」
紗月が続ける。
「そして……
“危険度S”。
“威力評価:戦略級相当”。」
悠斗は息を呑む。
(……戦略級……
俺が……?)
久遠が言う。
「誤解するな。
戦略級とは“破壊能力”で決まる。
魔法の種類や理論は関係ない」
御影が補足する。
「あなたの現象は破壊ではなく“消滅”だけど……
触れた領域が成立しなくなるという結果は、
破壊力として換算すると戦略級に匹敵する」
紗月が端末を見ながら言う。
「今回の事故で整えた“破綻領域”……
あれを逆に広げた場合の“消滅範囲”を計算したら……」
御影が言葉を継ぐ。
「……国家級魔法師の最大火力を、
軽く超える規模になるわ」
久遠が結論を告げる。
「ゆうとの力は“破壊”ではない。
だが――
破壊規模としては戦略級に達する。
ゆえに、戦略級と認定する」
悠斗は言葉を失った。
(……俺が……
本当に……戦略級……?)
オルタが静かに囁く。
『ゆーと。
怖い?』
「……少し」
『大丈夫。
あなたの破綻は、
もう暴走しない。
私が……ずっと整えていくから』
悠斗は小さく頷いた。
(……オルタがいるなら……
俺は……)
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■ 世界が動き始める
久遠が言う。
「篠原。
この評価は、学園だけで留められん。
近いうちに“上”が動く」
御影が続ける。
「国家魔法局、研究機関、
そして……各国の観測機関も」
紗月が不安そうに言う。
「ゆーとくん……
これから大変だよ……」
玲奈が悠斗を見る。
「でも……
あなたなら、きっと大丈夫」
その言葉は、
なぜか胸に深く響いた。
オルタが囁く。
『ゆーと。
ここからが本番だよ』
悠斗はゆっくりと息を吸った。
(……俺は……
戦略級として……
どう生きていくんだろう……)
戦略級認定から二日後。
観測課の空気は、どこか落ち着かない。
廊下を歩く教師たちの声が、
いつもより低い。
(……何か、変だ)
悠斗は違和感を覚えながら、
観測課の扉を開けた。
中には久遠、御影、紗月、そして玲奈がいた。
全員の表情が硬い。
「篠原。座れ」
久遠の声は、いつもより重かった。
悠斗は席につく。
オルタが小さく囁く。
『ゆーと……嫌な気配がするね』
(……俺もそう思う)
■ 国家魔法局からの通達
御影が端末を操作し、
ホログラムを投影した。
そこには、
国家魔法局の紋章 が映し出されていた。
悠斗の背筋がわずかに強張る。
久遠が読み上げる。
「“戦略級相当の現象保持者・篠原悠斗を、
国家魔法局第七研究区へ一時移送することを要請する”」
紗月が唇を噛む。
「……移送……
つまり、学園の管理下から外れるってこと……」
御影が続ける。
「“要請”と書いてあるけど、
実質的には“命令”よ。
戦略級の扱いは国家権限だから」
悠斗は息を呑む。
(……俺が……
国家に……?)
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■ ゆうとの力が“国家級案件”である理由
久遠が淡々と説明する。
「篠原。
お前の破綻は、破壊ではない。
だが――」
御影が言葉を継ぐ。
「“消滅範囲”として換算すると、
国家級魔法師の最大火力を超える。
それは国家にとって“戦略資源”よ」
紗月が震える声で言う。
「だから……
国家魔法局は、ゆーとくんを“管理”したいんだよ……」
玲奈は黙っていたが、
その拳は強く握られていた。
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■ 玲奈の反応──揺れる沈黙
玲奈はゆっくりと口を開いた。
「……篠原くん。
行くの?」
その声は、
いつもの冷静さの奥に、
わずかな揺れがあった。
悠斗は落ち着いた声で返す。
「……分かりません。
でも、拒否できる立場じゃないと思います」
玲奈は視線を逸らし、
袖の歪みを指で押さえた。
「……そう。
でも……」
言いかけて、言葉を飲み込む。
オルタが囁く。
『ゆーと……玲奈さん、心配してるよ』
(……分かってる)
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■ 国家魔法局の“本当の目的”
御影が声を潜める。
「国家魔法局第七研究区……
あそこは“戦略級候補”を管理する場所よ」
紗月が続ける。
「研究という名目だけど……
実際は“監視と制御”が目的」
久遠が言う。
「篠原。
お前の破綻は、扱いを誤れば国家災害になる。
向こうはそれを恐れている」
悠斗は静かに息を吸った。
(……俺の力が……
そんな風に見られてるのか……)
オルタが優しく囁く。
『ゆーと。
怖いなら、怖いって言っていいよ』
(……怖いよ。
でも……)
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■ 決断
久遠が問う。
「篠原。
行くか?」
悠斗は迷わず答えた。
「……行きます。
逃げても、状況は変わらない。
なら……正面から向き合います」
玲奈がわずかに目を見開く。
「……あなたって、本当に……」
その先は言わなかった。
だが、
その表情には確かに“何か”があった。
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■ 出発は三日後
御影が告げる。
「移送は三日後。
それまでに準備をしておいて」
紗月が不安そうに言う。
「ゆーとくん……
本当に……気をつけてね……」
オルタが囁く。
『ゆーと。
どこに行っても、私は一緒だよ』
悠斗は小さく頷いた。
(……行くしかない。
俺の力が、世界にどう扱われるのか……
確かめるためにも)
こうして――
戦略級・篠原悠斗の“国家移送”が決まった。
世界が、
ゆっくりと動き始めた。
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