第16話 ──存在の破綻訓練──
『空間欠損の魔法師』
第16話 ──存在の破綻訓練──
観測課の訓練室は、
いつもより静かだった。
壁の計測装置が低く唸り、
床の魔法陣が淡く光る。
その中心に、悠斗が立つ。
耳元のオルタが、
落ち着いた声で囁いた。
『ゆーと。
今日は“崩れ方”の訓練だよ』
(……頼む、オルタ)
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■ ① “点”の破綻
久遠が端末を閉じ、悠斗を見る。
「まずは“点”だ。
魔力は操作するな。
ただ――“前で崩れてほしい”と意図しろ」
悠斗は息を吸い、
右手を軽く前に出す。
オルタが支える。
『崩れる位置は“前”。
意図だけ作って。
揺れは私が抑える』
(……前で……)
その瞬間――
空間の“存在条件”が一点で破綻した。
直径数センチの領域が、
音も光もなく“成立しなくなる”。
御影が息を呑む。
「……本当に“一点”で止まった……」
紗月が端末を握りしめる。
「ゆーとくんの魔力……
破綻の広がり方が制御されてる……!」
久遠は短く言う。
「次だ。
“軌跡”を作れ」
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■ ② “軌跡”の破綻──初めての恐怖
“線”ではない。
ゆうとの力は“線を生む”のではなく、
破綻が連続して起きる軌跡 を作る。
それは危険だ。
少しでも逸れれば、訓練室の壁ごと消える。
悠斗の手が震える。
(……怖い……)
オルタが静かに言う。
『ゆーと。
怖いのは当然だよ。
でも大丈夫。
破綻の“連続方向”は私が整える』
その声に、
胸の奥の恐怖が少しだけ和らぐ。
悠斗は意図を作る。
(……前へ……連続して……)
空間の存在が“細い軌跡”として連続的に破綻した。
まるで世界に細い溝が刻まれたように、
一直線だけが静かに“成立を失う”。
御影が思わず後ずさる。
「……これが……破綻の“軌跡”……」
紗月は震える声で言う。
「魔力じゃない……
現象そのもの……」
久遠は淡々と告げる。
「篠原。
恐怖を抑えたな。
よくやった」
悠斗は息を吐く。
(……オルタがいなかったら、絶対に無理だった)
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■ ③ “面”の破綻──暴走の危機
久遠が次の指示を出す。
「最後だ。
“面状”に破綻させろ。
ただし――
少しでも逸れれば訓練室が消える。
気を抜くな」
悠斗の喉が鳴る。
(……面……?
そんな広い破綻を……)
オルタが囁く。
『ゆーと。
怖いなら、怖いって言っていいよ』
「……怖いよ。
でも……やる」
『……うん。
じゃあ、私も全力で整える』
悠斗は意図を作る。
(……前で……広く……)
その瞬間――
空間の存在が“面状”に破綻し始めた。
だが、
破綻領域がわずかに横へ逸れた。
御影が叫ぶ。
「ズレてる!
このままじゃ壁が――!」
紗月が震える。
「ゆーとくん、止めて……!」
悠斗は歯を食いしばる。
(……止まれ……!
止まれ……!!)
オルタが叫ぶ。
『ゆーと!!
破綻の“広がり方向”を変えて!!
上に!!』
悠斗は意図を“上”に向けた。
破綻領域が上方向へ跳ね上がり、
天井に触れる前に消滅した。
訓練室は静まり返った。
久遠がゆっくりと息を吐く。
「……篠原。
今のは危なかった。
だが――
“破綻の広がり方”を修正できた。
これは大きい」
御影が震える声で言う。
「……本当に……
破綻の“方向”を変えたのね……」
紗月は涙目で言う。
「ゆーとくん……
死ぬかと思った……」
悠斗は膝に手をつき、
汗を落としながら笑った。
「……俺も……」
オルタが静かに囁く。
『ゆーと……
あなたの魔力の“破綻パターン”に適合できるのは、私だけだよ。
だから……一緒に整えていこう』
悠斗は小さく答えた。
「……ありがとう、オルタ」
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■ ④ 訓練終了──そして“異常”
久遠が総括する。
「篠原。
今日の訓練はここまでだ。
これ以上は危険が大きい」
悠斗は息を整えながら頷く。
(……終わった……
でも、まだ怖い……
でも、オルタがいれば……)
オルタが優しく言う。
『ゆーと。
あなたの魔力は、
“破綻の広がり方”が安定してきてるよ』
悠斗は小さく笑った。
「……行こう、オルタ」
その瞬間――
キィィィィィン――!
訓練室の外から、
鋭い警報音が鳴り響いた。
御影が顔を上げる。
「……観測課の警報!?
何が……」
紗月が端末を確認し、青ざめる。
「魔力暴走……!?
学園内で……!」
久遠の表情がわずかに変わる。
「……場所は?」
「第三区画の演習場……
魔力値が急上昇して……
外膜が破れかけてます!」
悠斗は息を呑む。
(……暴走……?
こんなタイミングで……)
オルタが静かに囁く。
『ゆーと……外膜が破れ欠けているなら
なんとかなるかも、誰かが危ない』
悠斗は拳を握る。
(……訓練は終わったばかりなのに……
でも……俺で出来るなら……)
久遠が短く言う。
「篠原。
来い」
その声は、
“実戦だ”とは言わない。
だが――
状況がそれを強制していた。
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