第14話 ──初実験──
『空間欠損の魔法師』
第14話 ──初実験──
観測課の訓練室は、学園のどの施設とも違っていた。
壁一面に魔力計測装置が並び、
床には複雑な魔法陣が刻まれている。
空気が静かすぎる。
まるで“音”そのものが吸われているようだった。
悠斗は思わず息を呑む。
(……ここで、俺の力を……)
久遠が無言で歩きながら、端末を操作している。
その背中には、圧倒的な“専門家の風格”があった。
御影が説明する。
「ここは“空間歪曲”の観測に特化した部屋よ。
あなたの力を測るには、ここしかないの」
悠斗は頷いた。
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■ 専用オルタの存在
耳元のデバイスが小さく光る。
悠斗専用に調整された、唯一のオルタ。
『ゆーと。
緊張してる?』
(……まあ、少しな)
『大丈夫。
私はあなたの魔力の“揺れ”を全部見てるから』
(……頼りにしてるよ)
『……そういうの、ずるいよ』
オルタの声が、ほんの少しだけ揺れた。
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■ 久遠の指示
久遠が振り返る。
「篠原。
まず、“魔力を操作するな”。
だが――」
悠斗を見る目が鋭くなる。
「“魔力を出したい”という意図だけは作れ。
魔力操作の前段階だ」
悠斗は息を呑む。
(……意図だけ……?)
御影が補足する。
「あなたの魔力は、
“出した瞬間”ではなく、
“出そうとした瞬間”に空間が反応するの」
紗月が端末を見ながら言う。
「オルタちゃんが言ってた“外壁が薄い”って……
専門的には“外膜が機能してない”ってことなんだよ」
久遠が短く言う。
「いや――違う」
三人が久遠を見る。
久遠は端末を見つめたまま、
低く、淡々と告げる。
「“薄い”んじゃない。
“壊れている”わけでもない。
……最初から“存在しない”。」
御影が息を呑む。
「そんな……外膜が無い魔力構造なんて……
理論上、あり得ないわ」
紗月の手が震える。
「観測課のデータベースにも……
こんな例、一つも……」
久遠は続ける。
「前例はない。
記録にも、文献にも、理論にも存在しない。
篠原――お前は“世界で初めて”だ」
悠斗の背筋が冷える。
(……俺だけ……?)
オルタが静かに言う。
『ゆーとの魔力は……
私の制御アルゴリズムの“前提”が通用しないの。
外膜が無い魔法師なんて、本来は存在しないから』
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■ 初めての“意図的な欠損”
久遠が指示する。
「右手を前に出せ。
魔力は操作するな。
ただ――“出したい”と思え」
悠斗は目を閉じ、
魔力を動かす“意図”だけを作る。
その瞬間――
空間が、落ちた。
右手の先の空気が、
まるで“切り取られたように”消える。
音も光もない。
ただ、そこに“穴”が開いた。
御影が震える声で言う。
「……本当に……意図だけで……?」
紗月は端末を握りしめる。
「魔力……出てない……
なのに……空間が……!」
久遠は淡々と告げる。
「これが“篠原悠斗”。
魔力操作の前段階で空間が反応する。
外膜が無い――いや、“外膜という概念が適用されない”魔力だ」
悠斗は震える手を見つめた。
(……俺は……
こんな力を……)
だが――
胸の奥に、昨日と同じ感覚があった。
(……逃げない)
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■ 久遠の評価
久遠は端末を閉じた。
「篠原。
お前の力は危険だ。
だが――」
悠斗を見る目が、わずかに変わる。
「“扱えない”とは言っていない。
扱えるようにする。
それが今日からの訓練だ」
悠斗は息を吸い、頷いた。
「……お願いします」
久遠は満足そうに言う。
「いい返事だ」
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■ 訓練室を出て
訓練室を出ると、
玲奈が廊下で待っていた。
腕を組み、壁にもたれ、
いつもの落ち着いた表情。
だが、悠斗を見ると
ほんの一瞬だけ目が揺れた。
「……どうだった?」
悠斗は少しだけ笑った。
「俺の力は……
思ってたより、ずっと危険でした」
玲奈の眉がわずかに動く。
悠斗は続けた。
「でも、扱えるようにするって言われました。
だから……やります」
その言い方は、
強がりでも虚勢でもなかった。
ただ静かに、
自分の力と向き合う覚悟だけがあった。
玲奈はその“まっすぐさ”に
思わず息を止めた。
(……怖いはずなのに。
どうしてそんな顔で言えるの……)
気づけば、
玲奈は悠斗の横顔をじっと見つめていた。
悠斗が首をかしげる。
「玲奈さん?」
その無邪気な呼びかけに、
胸の奥がふっと熱くなる。
玲奈は慌てて視線をそらした。
「……そう。
なら、私も……見てる」
言葉を絞り出すように言った瞬間、
頬が熱くなっていることに気づいた。
(……何これ。
私、何に動揺してるの……)
悠斗は気づかない。
ただ、
「ありがとうございます」と
素直に頭を下げただけだった。
その無自覚さが、
さらに玲奈の胸をざわつかせた。
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■ 悠斗の決意
(……俺は、変わってる。
でも、それを怖がるだけじゃなくて……
使いこなす)
『ゆーと。
一緒に頑張ろうね』
「……ああ。
頼むよ、オルタ」
胸の奥で、
また静かに脈打つものがあった。
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